第60回 上田誠さん(元慶應義塾高等部監督)「エンジョイ・ベースボールの基礎を作り上げたアメリカ留学」【前編】2019年12月25日

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【目次】
[1]横並びの思想を抜け出し、築き上げた新たなスタイル
[2]「全米大会よりメジャー」日本とはそもそも目線が違うアメリカの野球

 昨今のスポーツ界では、練習のし過ぎによる故障や、行き過ぎた根性論による指導などが問題となっている。しかし、これに対して疑問を呈し、改善を試みようという動きがあるのも事実だ。

 今回は、野球界ではいち早くこの問題に気づき、「エンジョイ・ベースボール」の旗印のもと、坊主頭や理不尽な上下関係の廃止、練習のスタイルまで様々な改革を行ってきた慶應義塾高校元監督・上田誠氏にお話しをうかがった。前編では、昔ながらのやり方から脱却し、アメリカ留学で得た経験について語っていただいた。

横並びの思想を抜け出し、築き上げた新たなスタイル



上田誠さん(元慶應義塾高等部監督)

―― まず上田先生は高校生の時から指導者を志していたのでしょうか?

 大学の上の学年になってからですね。下級生を教えたりするのが面白くなっちゃって。教育実習に行ったり、地方の中学生を教えたりすると、「これの方が自分に合っているかな」というね。

―― その後公立高校で教員もされていましたが、その時はどういった指導を行っていましたか?

 まあ昔の人間ですから、物凄いパワハラを受けながら野球を続けてきたんですよ。一方で、それが嫌だったので「こんな世界だから野球が面白くなくなっちゃうんだよ、故障しちゃうんだよ」とも思っていたし、また一方では「こうやらないと強くなれないのかな」と揺れていました。公立高校ぐらいの時はね。
 でも、あの頃から髪型は「丸坊主は面倒くさいからやめようぜ」と言っていましたね(笑)3年目くらいから、「じゃあやってみましょうか」と髪型は普通にしていました。

―― 当時にしては結構珍しいですよね?

 そうですね。特に公立なんかは、やっているところは無いですよ。僕らの時代はみんな坊主でしたからね。逆に「かっこ悪い」とか言われちゃって、「街で他校の野球部に会うと示しがつかない。『適当に野球やってるの?』と言われる」と。日本特有の横並びの思想ってやつです。みんな同じ格好をしているから安心するという、あれじゃないかと思います。
「じゃあ坊さんはみんな野球上手くなるのか?」ってね。

―― そういった横並びの思想の中でも、どうしてその意思を貫けたのでしょうか?

 慶應義塾に戻ってきたら、髪の毛は元から伸ばしていました。戦後甲子園に出場した先輩達がいたのですが、他所の野球部はみんな坊主でした。

 でも慶應義塾は髪を伸ばしていて、それでチームが三塁側のバックヤード前を通って退場する時に、球場中から罵声を浴びせられたんですって、「髪の毛切って出直して来い」って(笑)
 その時のOBが「あんな事経験したのは俺らだけだぞ」って逆に嬉しそうに話していたのを聞いて、「それはいいな」って思ったんです。



髪を伸ばすなど、横並びを一新して慶応義塾を変えていった

―― なかなか無い出来事ですね(笑)

 そうなんですよ。で、慶應義塾に来たら髪の毛は伸びていたものの、上下関係は激しくあるんですよ。下級生は朝からグラウンド整備、練習後も残っていました。昔のしきたりとかがあったんですよね。

 僕も大学時代にやらされていた事を平気で高校生もやっていて、まあ附属高だからね。でもびっくりして「あ〜これはガラガラと変えないと」と思いました。

 1年生なんて特に体力無いから、作業させたら疲れちゃうじゃないですか。授業中寝ちゃうし、宿題もあるだろうし、だから本当は早く帰ってバットくらい振って欲しいのに、遅くまでグラウンド整備なんかさせていたら、1年生が伸びないと思ったんで、1年生を先に帰らせたんです。

 2・3年生が練習している横を、1年生が「お先に失礼します」とグラウンドを抜けて行って、2・3年生が「おう、気を付けて帰れよ」と言う、みたいなね(笑)そんな図式にしようとしたら、それが上手くいきまして。「あ、いいじゃないですか」っていう。段々と全員で仕事する感じになっていきました。

―― 意外とすんなりいったんですね?

 そう。意外とね、すんなり受け止めてくれました。

―― 今の慶応もそのような感じですか?

 そうです。上下関係が無さすぎるのが怖いくらい。

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プロフィール

河嶋宗一
副編集長 河嶋 宗一
  • 出身地:千葉県
  • ■ 現場第一主義。球児に届けたい情報とあれば日本だけでなく海外まで飛び回る。
  • ■ 副編集長、またドットコムのスカウト部長と呼ばれ、日本全国の隠れた名選手を探索。
  • ■ 幅広いアンテナと鋭い観察力でダイヤの原石を見つけだす。
  • ■ 編集部の理論派として、今日も球場に足を運ぶ。
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