都立小山台・福嶋正信監督が明かした指導理論 「真の情熱が安定した強さを生む」【後編】
200以上の学校が加盟している東京都高野連。昨夏は都立小山台が準優勝を果たし、都立高の躍進は目覚ましい。その躍進の裏には都立高の指導者の絶え間ない努力があることを忘れてはならない。今回は2月下旬、若手の指導者向けに行われた指導者講習会に講師として参加した都立小山台の福嶋正信監督の指導内容を具体的に迫り、都立高の指導者の底力や創意工夫ぶりを覚えていただきたい。
後編では福嶋監督の選手指導や練習試合への考え方。そして指導者への熱いメッセージを伺った。
都立小山台・福嶋正信監督が明かした「指導理論と1週間の取り組み」 【前編】
動作解析の重要性とエースをチームに育てる考えを浸透
都立小山台でエースを背負った戸谷直大(左)と伊藤優輔(右)
都立小山台の選手の成長に欠かせないのが動作解析だ。福嶋正信監督のプレーヤーは高校時代まで。「技術は教えられなかった。だから選手に教えられるよう動作解析を勉強する必要があったんです」と都立江戸川時代はパソコンと動作解析のソフトを購入して、選手の動作解析を行った。
今ではタブレットで選手の投球フォーム、打撃フォームを撮影し、専用ソフトでコマ撮りにして技術的な欠点を解析する。コマ撮りした画像はLINEで送る。ここで選手は技術ノートを使い、考察を入れる。
また、フォームの理解度を深めるため、プロ野球選手の打撃フォーム、投球フォームもコマドリをして、自分との違いは何かを考えさせる。去年のエース・戸谷直大は大谷翔平のフォームを見ながら研究を重ねていった。
制約が多い中、工夫を凝らして練習に取り組む都立小山台だが、その中で唯一、特別扱いとして密度の濃い練習、指導を受けるポジションがある。それがエースである。
エースと呼ばれる投手は練習後、学校近くのトレーニングセンターにいったり、理学療法士に付き添ってケアをしてもらう。福嶋監督自身、エースと呼ばれる投手がチームの勝敗を一番握っており、福嶋監督は必ず選手たちに今年のエースピッチャーを伝え、「チームでエースを育てるんだ」といい、チームメイトに協力を求めている。
そういう環境下で伸びていったのが2014年のエース・伊藤優輔(中央大―)、2018年のエース・戸谷なのである。
今年、戸谷に関しては動作解析でフォームを徹底的に直し、ケガをしない体づくり、理学療法士の丁寧なサポートもあり、決勝進出に導く投手へ成長していった。
練習試合では4つのパターンを想定して取り組むこと
春真の情熱をもってこれからも指導する福嶋正信監督
高校野球で大事なのは練習試合、公式戦の戦い方が重要になるが、福嶋監督は戦い方についてこう考えている。
「まず相撲に例えること。自分が格上なのか、格下なのかが分かり、戦い方が見えてきます。ほとんどが格上の相手ばかりですが、中には格下との対戦もあります。取りこぼしをしないように、堅実に走者を進める野球を行います。大事なのはリセットすること。失敗したとき、どうメンタルを切り替えさせるのか。そのため私は公式戦で叱ることはほとんどないです。
そして1球集中にすること。リードしている時、勝っていることが頭にあると、ミスが多く起こります。そういうときは勝っていることを忘れ、1つのアウトを全力で取る。それを大事にします。また逆転を生むには、普段の生活からだよと伝えています。勉強でも、練習でもなんでもいいので、最後でやり切ること。普段からそれが後半勝負に出るよと暗示をかけることが大切だと思いますし、その話し合い、さらに自分の考えを深めるために個人日誌が大事になってきます」
そして練習試合では色々なパターンを想定して取り組ませる重要性を語った。その中で福嶋監督は公式戦バージョン、課題バージョン、ノーサインバージョン、プレッシャーを与えるバージョンと4つのバージョンを相手・時期に合わせて練習試合に取り組んでいる。
このような綿密なシミュレーションに基づいて練習試合を重ね、そして普段の練習ではメカニズムを追求して練習の取り組むことで高い技術を築き上げ、この春も都大会で早稲田実業など強豪校を多く破り、ベスト4進出を果たしたのだ。
そして福嶋監督は最後、指導者に求められるものについてこう答えた。
「真の情熱であることです。環境がないことを言い訳するのではなく、指導者が創るものだと思います」
今あるものでどんな取り組みが最適なのか、最善なのか。それを追求し続ければ安定した強さはどの環境でも生まれる。それを示した福嶋監督の指導や都立小山台の選手たちの取り組みは全国の学校が参考にできるはずだ。
文=河嶋 宗一