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これからの時代どんなスキルが必要なのか?髙橋 左和明監督(九里学園)vol.1

2019.04.05

 近年、山形県で着実に力をつけてきている高校がある。米沢市内にある九里学園だ。古くは女学校から始まり、100年以上の歴史のある学校だ。美しい木造の旧校舎は国の登録有形文化財に登録されている。そんな伝統ある高校で、非常に先進的でユニークな考えのもと野球部を指導している髙橋 左和明(たかはし・さわあき)監督に話を聞いた。髙橋監督の柔軟な考えと思考力の秘密に迫りたい。

これからの時代どんなスキルが必要なのか?

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インタビューに答える髙橋 左和明監督

 「AI(人工知能)については、世の中だけの問題でなく野球にも影響がある。例えば、野球にだけ集中していれば将来それで生きていけるかと言ったら、それも難しくなる世の中になるのではないか」

 髙橋監督の第一声である。インタビューが「AI」で始まったのは、私の取材の中では初めてである。この「AI」に込められた意図を読み解いてみたい。

 「21世紀の世の中、人はどういったスキルというのを身につけていかないといけないんだ。野球にだけ集中していれば将来生きていけるかと言ったら、それも難しくなる世の中になるのではないか。何か達成するということは、一つの大事なことだと思うのですが、それプラスアルファのスキルを身につける必要があります」

 髙橋監督が考えているのは、九里学園で指導した生徒たちの将来なのである。卒業するまでに野球という縁で繋がった生徒たちに、どのようなスキルを身につけ卒業させてあげられるのか?これこそが髙橋監督の考えなのである。

 AIは、得られたデータの解析、分析をする能力に長けている。いわば一度決められたルールを実行、もしくはそのルールに基づいた解析を得意とする。さらに言えば大量のデータが来ても、ルールに則った解析を一瞬で行えるのである。ただしそこに独自性はない。一方、AIに欠けている事は自分で考えてアウトプットする創造力である。

 だからこそ、髙橋監督が今の生徒に求めるのは、「独創性のある考えをアウトプットする」力である。インプットだけでないアウトプット、つまり双方向のやり取りが出来る力である。髙橋監督はそれを「コミュニケーション能力」と言う。

 では、髙橋監督が取り入れる「コミュニケーション能力」を伸ばす方法を見てみたい。

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2分間スピーチ

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グラウンドでの髙橋 左和明監督

 髙橋監督が、新チームの冬の練習より取り入れているのは2分間スピーチである。

 毎日朝礼ミーティングと言って、7時50分よりその日の当番の2名が2分間スピーチをするのである。また、スピーチを聞いた生徒も3人以上はスピーチに対して質問するとしている。

 当然質問されるので、スピーチする人間はどんな質問が来るかも予測して準備をしてくる必要がある。また質問する側も、スピーチを聞いて疑問点を見つけ相手に聞くというアウトプットを求められる。インプットだけでない、アウトプットを求めるユニークな取り組みである。

 「田舎なので引っ込み思案と言うかね、自分の意思を伝えられない。ただ黙って練習すればいいとか、当たり障りないというか、議論ができない。大人になった時に、自分の意見が言えず、言われたことしか出来なければ、極端な話そのような仕事はAIに置き換わってしまう。AI ができないことと言ったら、人と人のコミュニケーションだったり、AIを操作する技術です。だから人間としてできることを意識して、野球にも活かしながら、将来、仕事で活かせるコミュニケーション能力の訓練を意識しています」

 これこそが、髙橋監督が選手たちに付けてほしい力なのだろう。実際に昨年の10月より初めたスピーチの効果は少しづつだが感じている。

 初めは、1分間スピーチで始まった朝礼ミーティングは、まずは「喋る」というスキルだけを目的としていた。ただし今はスピーチの時間も2分と倍になり、また内容や、事前準備、そして質問内容まで気にできるようになってきている。

 「もちろん、全員が喋れるわけではありません」と髙橋監督は言う。ただ、もし全員が喋れるようになり、また双方向のやり取りが出来るようになった時、九里学園の生徒たちは確実に大きな成長を遂げているのだろう。

2分間スピーチがもたらしたその他の効果

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髙橋 左和明監督

 髙橋監督は、生徒のコミュニケーション能力を伸ばすこと以外に、指導者と生徒としてのコミュニケーションという点での利点を感じている。

 「僕も生徒によっては普段あんまり喋らないのにこういう事ができるんだという新たな発見ですよね。だから私としても生徒とのコミュニケーションの大事な場所であり、この生徒はこんな目(視点)を持っているのだなぁという発見になります」

 「どうしても、練習に出られない時もあるんで、毎朝必ず彼らに会って顔を合わせる。顔を見れる、話せる。そういうのも一つのコミュニケーションですね」

 髙橋監督は、選手のコミュニケーション向上だけでなく、朝礼ミーティングの場を自分と生徒のコミュニケーションの貴重な場所としても考えているのである。

 因みに、2分間スピーチの時間を作るという事は、貴重な朝練の時間を削るということである。その背景には、今年のチームが例年より考える力があると感じているからである。そんな大胆な決断が出来る部分については、また別途コラムにて触れたいと思う。

 話は戻るが、髙橋監督は、これからの選手にコミュニケーション能力を求めている。その背景にはAIが大きく関係している。野球だけでなく選手の将来を考える指導法に、髙橋監督の教育者としての器の大きさを感じた。

文=田中 実

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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