どこよりも重みのある背番号 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.2
九州文化学園が、部員が20人以上の場合は夏の大会前に必ず行っているのが総選挙である。vol.1では総選挙を通して古賀 豪紀(こが・ひでとし)監督が何を選手に望んでいるのかを紹介した。今回は、「九州文化学園の背番号の重み」について読みといでいきたい。
今までの連載記事
vol.1:背番号は総選挙で決めるその真意 古賀 豪紀監督(九州文化学園)vol.1
選ばれなかった者、そしてその先へ!
九州文化学園野球部
もちろん総選挙である。選ばれる者もいれば、選ばれない者もいる。九州文化学園で言えば、新チームは3学年で約100人近い部員数になる。つまり8割の選手はベンチ入りを果たせないことになる。ではその8割の選手は何を考え、何を総選挙から得るのだろうか?
「選挙制にしたら、落ちても誰かが1票入れてれる。落ちても10票入ったり、20票入ったり、そうしたら言うんですよ。「20人お前のこと見てくれたんだぞ。20人だぞ。それでも全然良いやんか」と、背番号を取れなかったかもしれんけど、でも20人のやつがお前に背番号をやりたいと思ったんだから自信をもって卒業しろと言うんですよね。
それ(選挙制)をしなかったら、選ばれなかったら俺監督に嫌われたのかなと、しかないんですかね。子供達はみんな納得しないんですよね。監督が決めた20人だったら、結局、監督に好かれるとか、好かれなかったとかになってしまうんですよね。でも投票にしたら俺はあいつよりもみんなから信頼が足りなかったんだ、じゃあ大人になったら頑張ろうとなる。だから、そっちの方に行って欲しいんですよね」
あくまでも、主役は選手なのである。何度も言うが監督が勝つための舞台が高校野球ではないのである。高校野球は選手が成長するための舞台である。
選ばれた者、そして究極の無投票
主将の柏木 寿志(九州文化学園)
さて、選ばれなかった人の話をしたが、もちろん総選挙で選ばれた者もいる。
「みんなで決めて、この選手に背番号をつけてほしいとなった。その選手が試合に出てエラーしたらみんな納得するじゃないですか。授業態度も悪いグランド整備もしない、そんな奴が最後にエラーして試合に負けたらみんな納得しない。でも皆が決めた20人だったら、その選手がエラーしたら仕方ないですよ」
総選挙にすることで、すべての試合での結果を皆で請け負っているのである。みんなの責任が乗っかっている背番号。
九州文化学園の背番号には重みがある。
選ばれた者の中でも究極の選ばれ方に無投票というのがある。つまり、ある背番号に対して1人しか挙手しない場合である。誰もが認めた選手が手を挙げると稀に起こる現象である。
「今のキャプテン(柏木寿志)なんかは2年生なのに背番号6。欲しい人は前に来なさいって言うんですよね。3年生も来ないし1年生も来ないし。上級生もこないんですよ。もう、こいつにはかなわないと、そういう選手にならなくちゃいけない。 皆がこいつに6番を背負わせたいという選手に。人間的にも全て野球の実力も全ていいから誰も来ないですよね」
無投票で選ばれた柏木は、こう語っている。
「自分が意識していることは、野球の結果も当たり前なんですけど、学校生活から真剣に取り組むことです。野球だけ自分が真面目にやってても皆には自分の気持ちは伝わらないと思って。学校生活とかも見てもらって、この人はここまでやってるけん、というのみんなに見てもらいたいと思っています」
野球部ではキャプテン、学校では副会長を務める柏木の考えである。
古賀監督は言う。「だからそういう人間にならなくちゃいけない。そういう人間が増えた時はチームは強いですよね。チームで、「この6番遊撃手には」、もしくは「1番のエースにはかなわない」と思うとみんな来ないわけですから。これが9人揃ったときは多分[stadium]甲子園[/stadium]にいく。それぐらいの選手を目指してやれって言ってるんですね」
まさに人間性、野球の技術と両方を兼ね備えた選手ということになる。再度になるが、あえて伝えたい。九州文化学園の背番号には重みがある。
文=田中 実