今の子に問う「だから何がしたいのか?」 平川 敦(北海)vol.7
今までの連載コラム
「不易流行」高校野球で絶対に変えてはならないこと 平川敦(北海)vol.1
人間教育・前編「学校生活からの取り組みが重要」平川 敦(北海)vol.2
人間教育・後編「裏表のない素の自分を鍛える」平川 敦(北海)vol.3
人間教育・番外編「他競技から学ぶ!大坂なおみのプレー」平川 敦(北海)vol.4
何が目的なのか考えられる力 平川 敦(北海)vol.5
「流行」今の子に合わせた指導 平川 敦(北海)vol.6
1年生は、目的を持ってほったらかしにしている
平川敦監督(北海)
「今は1年生はほったらかしにしていますね」
平川 敦(ひらかわ・おさむ)監督(北海)の言葉である。ただし、目的をもってほったらかしにしているのである。
「そこは入ってきた段階で人それぞれ、性格も能力も違うし、分かっている子もいれば、分かってない子もいるし、出来る子もいればできない子もいるんですけど、上手く馴染んでいくまではあまり言わないようしています。まず環境に慣れさせると言うか野球部に慣れさせる。学校生活に慣れさせる。」
つまり、北海の野球部に慣れさせる期間を取るのである。
「自然に慣れていきながら徐々に徐々にでないと、こっちが指導したつもりが相手がどう捉えるかわからないです。それはちょっと今の時代難しいと思います。きつく言ったつもりはないけども相手からしたらきつく言われたとかきつく言われただけならまだしも。威圧的だったとか、先輩から言われたからそれがいじめだとか、そういう風に捉えてしまうと、どんどんマイナスに捉えてしまいます。そうならないためにも配慮と言うか、考えないといろんな問題が出てきます。」
緩やかに移行していくことは、北海の野球部に慣れるだけでなく、平川監督の言葉がきちんと相手に伝わるまでの準備期間にしているのである。言うならば「人間教育」をするための準備期間をとっていると言えるだろう。つまり、「不易」の人間教育や野球での勝利を達成するために、選手達との接し方を柔軟に変えているのである。
「今年の1年生に関しては年開けてから、色々細かく、ああだこうだ言い始めてはいますけど20年前(指導者を始めた頃)は、入学してから夏休み前だとか、3年生がいなくなるまでに部活動に慣れてもらっていた。それが、どんどん遅くはなってきています」
社会が変わることで、高校生も変わってきている。そのことは高校生に責任はない。だからこそ平川監督は、目的を持って1年生をほったらかしているのである。それは「人間教育」を諦めていないからである。むしろ「人間教育」をするために必要な時間なのである。
今の子に問う「だから何がしたいのか?」
雪景色が広がる北海グランド
ここまでは、今の生徒たちと昔の生徒たちの変化を話して生きたが、平川監督の変わらない(不易)な点は、人間教育である。
「自分で考える力」を身につけるために、考え方やそのベースを作る手伝いをしたいというスタンスはぶれていない。
平川監督が話してくれた、興味深い1例を紹介したい。
「自分がどうしたいのか、例えば足が痛い時、「ちょっと昨日の練習で、XXなんでちょっと練習は….」とか言うから、じゃあどうしたいのって聞きますよね。」
この報告にに、自分の考えが抜けているのである。
練習ができるのか? したいのか? 病院に行きたいのか? 休みたい?
これが今の子の普通の姿である。それに対して平川監督は悲観しているわけではない。 今の社会で生活してきた子供たちに責任はなく、これが現状であるというのを潔く認めているのである。
その上で、
「高校野球では2年半しか関われないんで、そういうの(自分で考える事)を免疫で打っておかないと」
平川監督は、「だから自分は何がしたいのか」をきちんと話せる事を身に着ける質問をしているのである。もちろん、今回の質問に対して答えられる選手もいれば、黙ってしまう選手も多くいるとのことだ。それでも、「だから、自分は何がしたいの?」を投げかけ続けるのは、高校野球を通して、人間教育と向き合っている平川監督の選手への愛情である。
文=田中 実