Column

興南野球部恒例「1分間スピーチ」に込められた思い 我喜屋優監督(興南)

2019.02.16

 興南の選手に取材をすると、受け答えが非常にしっかりしていることに気がつく。この理由を、砂川太コーチ(副部長)に聞くと

 「1分間スピーチですね。これは(我喜屋)監督が来られてからずっと続けているんです。最近はそういったことがちゃんとできていますね」と話してくれた。

 当コラムでは、我喜屋優(がきや・まさる)監督の特別コラム第2回「根っこを育てるには」でも触れた、興南の野球部が実践する「1分間スピーチ」の目的について考えてみたい。

五感を活性化する

興南野球部恒例「1分間スピーチ」に込められた思い 我喜屋優監督(興南) | 高校野球ドットコム
興南の名将・我喜屋 優

 興南の野球部は朝食の前に「1分間スピーチ」のために散歩をする。その効果を我喜屋監督の言葉より読み解いていきたい。

 「まず、散歩するのは1分間スピーチのための取材に行くためです。五感を活性化して、目を覚まして、何を見ても良いんですよ、あるいは触っても良いんですよ。聞いても良いんですよ。体操や刺激、(味覚を抜かした)五感をフルに使います。4つをしっかりと鍛えてくれば、その後の食事も美味しんですよ。だから、1分間スピーチを食事の前までに行って、五感を活性化するんですよ。食事の前に1分間スピーチして、「僕は何を感じ取ってきたよ」ということを言うんです。言葉で!」

 我喜屋監督は、まず五感を活性化させることについて話してくれた。このメリットは「五感を鍛える」ことを通して、色々なことに気づける「根っこ」を育てる。つまり「人間力」を鍛えるという点にある。

興南野球部恒例「1分間スピーチ」に込められた思い 我喜屋優監督(興南) | 高校野球ドットコム「根っこ」については
根っこを育てるには 我喜屋優監督」を参照(興南)

 この五感を鍛えるために、我喜屋監督は散歩についてある事を選手たちに伝えている。

 「新聞が、あれだけの活字をきれいな言葉で我々に伝えられるのは取材があるからだよと。それも、みんなおんなじ取材だったら面白くない。スポーツだとか、政治経済だとか色んな組み合わせがあるから新聞は面白いでしょ。だから散歩は、バラバラに歩けと言うんですよ。みんなと一緒に行くなと、違う所行って取材したほうが面白いだろと、全員が違う情報をもってきたらニュースになるじゃないですか、朝からね」

 みんなが違う情報を持ってくる。つまり多くの情報や気付きを得ることで「根っこ」が育つことを目的としている。

 まさに、我喜屋監督の言う「自分で経験してもらう、人の経験を自分が見て学ぶ」という経験が出来るのである。もちろんこのことは野球の気付きにもつながっていく。

 この、「根っこ」が鍛えられると、野球ではどのような気付きが出来るようになるか、我喜屋監督が例を上げてくれた。

 「気が付かないやつ、見つけられないやつには一分間スピーチできないから。それが出来るようになったら、[stadium]甲子園[/stadium]でもピッチャーの球の離れ具合とか、相手の守備がこうだったら、俺の外角打ちを先に予感しているなぁとか、相手の癖だとか、いっぱい見つけられるところはあるんですよ」

[page_break:伝える能力]

伝える能力

興南野球部恒例「1分間スピーチ」に込められた思い 我喜屋優監督(興南) | 高校野球ドットコム
興南野球部の練習風景

 そしてもう一つの大事な要素となる、「伝える」というアクションも入ってくる。

 「テレビアナウンサーも取材があるから話せるんだよ。だからお前たち、1分間スピーチ、本当にみんながうなずくような伝え方をするんだったら、もっともっと取材をしっかりしなさい。“聞きまわったり”“ゴミ落ちてました、拾いました”“鳥の飛び方を今日じっくり観察したら、八の字を書いて鳥って面白いなぁ”とか、相手が「あっそうかぁ」と気が付かせるような、言葉を見つけてくること。そういうための一分間スピーチなんですよ」

 “相手に気づかせる言葉を持ってくる”つまり、これも「言葉」に気がつける「根っこ」を育てているのである。1分間スピーチの一貫する狙いは人間力形成にある。

 「言葉」に気がつけるようになった時の野球での効果を我喜屋監督は、

 「言葉にしても、激励する言葉が見つかるし、その言葉を、自分が早く気がつけば、監督が言おうとしているのを選手が言ってくれれば、監督がそれだけ楽になって、次のこと考えらる。大人の野球につながっている。散歩と一分スピーチには結構、そんな思いが込められているんです」と語ってくれた。

 ここまでで考察してきた「1分間スピーチ」をまとめる。

● 五感をフル活用して多くの気付きを通して「根っこ」を育てる
● 「根っこ」が育ち「人間力」がつく
● 野球においても細かい注意を払うことができるようになる
● 相手に伝えるための適切な言葉を見つけられるようになる

 最後に、我喜屋監督のこの言葉で、コラムを締めたいと思う。

 「スピーチと言うよりも、僕らも社会人で1分話せるやつは、やっぱり10分でも話せるんです。もじもじして何を伝えているか分からないやつに、お前に任せたともいえないですよ、味方も助けられないですよ。だから1分間しっかりと、自分が取材のもとで、相手に伝える能力を持っているやつには、お前に任せたとか、足が早いぞとか、前守れとか、風があるぞとか、そういう細かい注意も出来るんですよ。挨拶と一緒、挨拶し合う、注意し合うになるんですよ」

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【監督の本棚】 興南高校 我喜屋 優 監督~読書のススメ~

興南野球部恒例「1分間スピーチ」に込められた思い 我喜屋優監督(興南) | 高校野球ドットコム取材後記
我喜屋監督に「1分間スピーチ」の話を伺いながら、実はまだまだ多くの気付きがあった。「挨拶」についても深い気付きがあった。このことについてもいつかコラムで書ければと思っている。

文=田中 実

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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