Column

桐蔭横浜大(神奈川)齊藤 博久監督「選手主体のゲームプラン作り」【前編】

2017.07.03

 桐蔭横浜大を全国クラスの強豪に育て上げ、12年の明治神宮大会では創部わずか7年目ながらチームを日本一に導いた齊藤 博久監督。今春の神奈川大学野球リーグでも10戦全勝で完全優勝を果たし、09年以来9年連続で春か秋のいずれかのシーズンでリーグ優勝(13年は春秋連覇)している桐蔭横浜大は、どのようなゲームプランを立てて試合に臨んでいるのだろうか?

対戦投手の対策法

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 トーナメントで行われる高校野球とは異なり、大学野球の主戦場はリーグ戦。いつ、どのチームと対戦するのか、日程が事前に発表されるため「リーグ戦の期間中は、火曜の朝に週末の試合に向けたミーティングをやります。そして、金曜まで準備をして土曜から試合というスケジュールになるのですが、リーグの開幕週などはやはりウェイトが大きいので1ヶ月前から対策をしています」と、ある程度の準備期間が与えられることになる。

 ミーティングの内容だが、具体的には「相手投手のフォームや球種を分析してチーム全体で情報を共有し、どうやって打っていくのか。どうやって足を絡めていくのかを話し合います」。

 また、対戦する相手投手は、過去に何度も顔を合わせたことがあるピッチャーの場合も多いため「まずは選手に登板が予想されるピッチャーの印象を聞いて、どうやったら打てるのか意見を出してもらいます。その意見をコーチ、そして監督の私が確認して『どのボールを狙って、どのボールは捨てるのか。ここだけは徹底してやっていこう』というテーマを掲げて練習をしていくわけです。

 例えば、スライダーが良いピッチャーが相手なら、バッティング練習の時に2ヶ所は低めのストライクかボールかギリギリのところにスライダーが来るようにマシンを設定して、見極めながら打つ練習をします。この時、キャッチャーを必ずつけて、バッターに今の球がスイングするべき高さのボールだったのかどうかを知らせるようにしています。

 そして、同時に別のゲージではすっぽ抜けて甘く入ってくる球を想定して真ん中にスライダーが来るように設定し、気持ちよく打てる場所も作ります。こうして火曜から金曜までの4日間、徹底的に練習をするのですが、ここまできっちりと対策するのは相手の主力投手の数名で、それ以外の投手については情報だけ頭に入れておいて、試合に出てきたらその場でもう一度確認するという感じですね」

[page_break:「何点勝負か」からプランを練る]

信頼関係がもたらす選手起用

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 もちろん、ゲームプラン通りに進まないこともある。
「思っていた以上にスライダーが切れていて打てないとか見立て違いがあったら、4~5回には狙い球を変えて早めに対処するようにしています」。

 一つのやり方に固執せず、試合中にゲームプランを修正していくも柔軟性も必要なのだ。また、齊藤監督は打順や選手を入れ替えることも多いという。
「手前味噌ですが、これまで初スタメンや久々のスタメンでホームランを打った選手が4人いるのですが、当たっている選手を見落とさないようにいつも心掛けています。また、サウスポーと対戦する時は右打者で調子が良い選手がいないかAチームのみならずBチームからも探しますし、ミーティングでは『左投手が苦手な選手は手を挙げてくれ』と言います。

 選手からしたら、ここで手を挙げてしまったら試合に使われないことになるので挙げづらいとは思うのですが、苦手意識がある選手よりも自信を持っている選手を使った方が良いですから『チームのために挙げてくれ』と。ここは信頼関係ですよね。」

 一方、相手打線への対処については「試合の前日に、キャッチャー陣だけを集めてやるのですが、ここも相手チームの1番打者から順番にどう攻めたら抑えられるのか、選手に意見を言ってもらいます。そして、その意見と私やコーチの考えが合えばそのまま行きますし、合わなかったらこちらからも案を提示して選択肢をいくつか持った状態で試合に入り、どの攻め方が良いのかを確認していきます。

 この時に限らないのですが、意見が一致しないからといって選手にダメだとは言いません。アドバイスはしますが、ちゃんと真剣に考えた末に出した言葉を否定してしまうと『どうせ言っても無駄だ』と選手の思考を止めてしまうことになりますから。」

 このように齊藤監督は選手からの意見を取り入れてチームを運営しているが、これは創部当初から行っていたものだ。
「最初は先輩がいないチームでしたから甘さが見られるところもありましたが、3期生がたまたま高校時代にキャプテンをやっていた選手が多く集まったこともあってチームのために協力していく雰囲気ができ、締まりのあるチームになっていきました。最近は下級生も意見を言えるようになりましたが、それは上級生が聞く耳を持っているからでしょうね」。

[page_break:プラン精度、実現度を上げる精緻なデータ]

桐蔭横浜大強さのワケ

齊藤 博久監督(桐蔭横浜大)

 さらに桐蔭横浜大ではすべての選手の意見を吸い上げ、より積極的に発言してもらうためにチーフ制を導入している。
「投手、捕手、内野、外野、打撃、走塁、バントの7部門あるのですが、それぞれの部門からチーフを選出して、2週間に1回のペースでチーフミーティングを行っています。チーフは各選手の意見をまとめ、今、必要なこと。やるべきことをここで提案し、それからの2週間をかけてしっかりと練習していきます。

 例えば、打撃部門から『振り込みをしたい』という要望があったとすると、選手は自分たちからやりたいと言ったのですから責任を持って取り組んでくれるんですね。よく選手たちには『練習はこなすものではなく、磨くもの』と話しているのですが、私たちから指示をすると、どうしてもこなす練習になってしまいがちなので、同じ本数をスイングしたとしても成果が違ってくるんです」

 こうした取り組みは選手の自立心も育んでおり「試合でピンチの場面になっても、私の顔を見て頼ってくる選手はいませんね」と齊藤監督は胸を張る。

 こうしたシステムを取り入れていることからも窺えるように、桐蔭横浜大では監督・コーチと選手、または選手間で話し合うことが多いが、コミュニケーションが密に取れているのには練習環境も影響している。桐蔭横浜大のグラウンドは系列校である桐蔭学園高と同じ場所を使っているため、練習できるのは午前中のみ。毎朝7時30分に集合して8時に練習を始め、11時30分頃には終了。

 その後、グラウンド整備とミーティングをして12時すぎには解散となり、練習時間は3時間30分ほどしか取れないのだが、それでも齊藤監督は「恵まれた環境」と言い切る。
「大学は午後に全体練習をするところが多いですが、選手たちは授業の関係でバラバラに集まってくるんですね。でも、ウチの場合は毎朝、全員がグラウンドに集合して練習を始められるのでチームに一体感が生まれる。そして、練習の後に大学の講義があるのでサボる人間もいないですし、時間に余裕があるので部員のなかにはアルバイトをしている者もいますが、朝が早いので夜遊びする選手はいませんから」と、良いリズムで野球と大学生活を両立できている。

 こうした土台があるからこそ、桐蔭横浜大は選手主体のゲームプラン作りができているのだろう。

■桐蔭横浜大(神奈川)齊藤 博久監督「緻密な戦術は組織作りと日々の練習で練られるもの」【後編】に続く

(取材・文=大平 明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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