Column

東北楽天ゴールデンイーグルス「明るさと栄養管理で目指す3年ぶりの頂」

2016.02.23

 今年も球団創設最初のシーズン、2005年から恒例となっている沖縄県・久米島キャンプからシーズンをスタートさせた東北楽天ゴールデンイーグルス。日本中を涙させた2013年以来、3年ぶりのパ・リーグ優勝、そして日本一獲得へ向け、明るさと適材適所の栄養管理を行う犬鷲軍団の現在をレポート。球団管理栄養士の株式会社明治・斎藤 圭子さんに話をうかがい高校球児の皆さんに有益な情報も語っていただきました。

「とにかく明るい」メリハリ取れた犬鷲軍団

アップから明るい雰囲気が見える東北楽天ゴールデンイーグルスのキャンプ

 明るい、明るい、とにかく明るい。桐光学園高卒3年目を迎え、今季も昨年に引き続きクローザーを務める松井 裕樹投手が「僕がいた3年の中で一番明るい」と話すように、昨年、2015年流行語大賞のフレーズがそのままあてはまるムードが、東北楽天ゴールデンイーグルスの一軍キャンプ地、[stadium]久米島野球場[/stadium]にはあふれていた。今季から就任した梨田 昌孝監督からも笑顔。アップ中の選手たちからも笑顔が絶えない。

 その一方で、突き詰めの形はしっかりと。練習冒頭は選手・スタッフ全員が輪になって徹底事項を確認。ブルペンでは侍ジャパンでも投手コーチを務め、今季から就任した与田 剛コーチと侍ジャパンでもロングリリーフの重責を担った則本 昂大投手ら、投手陣が技術向上への策を練る。さらに昨年の「世界野球WBSCプレミア12」でも侍ジャパンの正捕手嶋 基宏2015年インタビューや捕手陣も投手陣とコミュニケーションを取り、共同作業で投手力を向上させる意識がみてとれる。

 グラウンドに目を転じると、走塁練習では米村 理・外野守備走塁コーチが身振り手振りを交えて走塁の原則と「次を狙う」スライディングを指導。2月7日に開催された紅白戦では早稲田大卒ルーキー茂木 栄五郎選手の三塁打はじめ、早くもその意識が浸透していた。

 打線も活発。「まだ変化球を打撃練習で打っていない」(梨田監督)中でも各打者がしっかりとしたスイングを心がけ、ドラフト1位ルーキーオコエ 瑠偉(関東第一高卒2015年インタビュー)も紅白戦初戦の4打席目では「3打席目までの凡退の反省を活かして」左中間を真っ二つに破る三塁打。学習能力の高さを示している。

 このように明るさと探究のメリハリを使い分けながら、南国での日々を過ごす犬鷲軍団。そんな姿勢はグラウンド外にも現れている。その大きな柱となっているのが株式会社明治により行っている「栄養サポート」だ。

「栄養意識」も高い東北楽天ゴールデンイーグルスの選手たち

 2011年から地元・宮城県で東北楽天ゴールデンイーグルスの管理栄養士を務める株式会社明治の斎藤 圭子さんはこう話す。
「このキャンプでは事前にホテルのメニューを受け取って栄養面での調整をします。6時半から9時までの朝食時間には常に食堂にいて選手たちの様子を見たり、時に話をしたり。グラウンドではケータリング会場にもいますし、ウエイトトレーニング場にはザバスのプロテインを中心としたサプリメントが置いてありますので、摂取の仕方など話をします。夜食の時間もあるので、夜食を活用して摂れる栄養や、いかに飽きずに摂れるかなど方法を考えています。シーズンを通して良いコンディションで持てる力を最大限発揮する為に、栄養面での課題を見つめ、取組内容を各自決めていく場としてキャンプは重要です」

 もちろんその摂取量なども画一的ではなく、ポジションや個々の選手のタイプや目指すカラダづくりによって、きめ細やかな配慮がなされている。たとえば新人選手の場合は以下のような形で自分をより活かす栄養の意識を高めていく。

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[page_break:東北楽天「栄養摂取メソッド」高校生向け、ちょっとだけ教えます!]

「新人選手に対しては1月の合同自主トレの時点で栄養講習会を行っているんですが、キャンプ中はキャンプ前に行った食事調査をフィードバックする形で個別カウンセリングを実施します。事前に確認し、S&Cコーチや育成部との連携の中でその選手の課題や目指す姿を共有し、選手本人の目標も踏まえて、栄養面でのアプローチをしていきます」

 ただ、最近の選手は非常に栄養に対する意識も高い。斎藤さんが驚かされたのは一昨年のドラフト1位、今年の初紅白戦では2回無失点と順調なスタートを切った安樂 智大投手関連記事。実際、昨年の新人カウンセリングでは、こんなやり取りがあった。

「昨年の時点で安樂選手は本やWEBを見ていて栄養に対する知識や興味が豊富でした。コンビニで補食を買う際も『裏の栄養表示を見て、たんぱく質の多いものを買う』と言っていました。かなり意欲的でしたね」
 

 もちろん、エースの則本投手も。2013年・三重中京大から入団した際、1.主食 2.おかず 3.野菜 4.果物 5.乳製品が揃った「栄養フルコース型」の食事を自然と揃える習慣があり、また先発登板前日からエネルギー補給中心の食事に切り替えるなど、野球のために栄養を考えることができていました。「そのままやっていこう」が斎藤さんの答えだった。

 同時にチームとして昨年から重視していることもある。それは長打力向上のために筋肉量を増やすこと。肉、魚、卵、大豆製品(納豆や豆腐)といったおかずでたんぱく質を確保し、エネルギーの源になるご飯も食べる。この目標設定がなされてから、オフ期間にトレーニングと栄養を例年以上に意識してカラダをつくってきた選手が多く、選手たちからの栄養摂取に対する質問が多く出るようになっている。
このキャンプ中も普段の食事メニュー写真を持ってきて「この食事は何点ですか?」と聞かれることも多くなった斎藤さん。その表情には確かな手ごたえが見てとれた。

東北楽天「栄養摂取メソッド」高校生向け、ちょっとだけ教えます!

東北楽天ゴールデンイーグルスの栄養管理を担当する株式会社明治・斎藤 圭子さん

 と、ここまで話したところで少し疑問が沸いてきた。様々な練習に取り組まなければいけないキャンプ中の昼食時間は、練習メニューによってはわずか15分程度のこともある。ここで選手たちはどのようにして栄養を摂取するのだろうか?さっそく斎藤さんに聞いてみよう。

「昼食で十分に摂れない分を朝食と夕食で補います。また、長時間の練習に必要なエネルギーを確保するために、練習の合間にエネルギーゼリーやおにぎりやパンを摂ってエネルギー補給をしたり、練習後のすみやかな疲労回復のためにプロテインを取り入れるといった工夫も必要です。高校生の場合で言えば、練習前のエネルギー補給のためにおにぎり等を用意する意識を持ちたいですね。

 空腹状態で練習を行うと集中力が低下するだけでなく、不足するエネルギーを補うために筋肉を分解してしまうのでカラダづくりにもマイナスになります。保護者の方が試合日のお弁当を用意する際は、おにぎりを小さめに作ったりサンドイッチやカットフルーツを含めて小分けにすると、時間がなくても栄養補給がしやすいですよ。失ったものを補給して動くためのエネルギーを確保することですね」

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[page_break:「あきらめず、考えて、継続して」夢を感動につなげる]

 なるほど。メニューはもちろんのこと、プロテインやサプリメントにも目的に対して適合したものがある。

「ゼリードリンクを活用する際にも注意が必要です。高校生が摂っているゼリーを見るとカロリーオフやダイエットゼリーだったりするところを見ます。何のためにゼリーを活用するのかを考えて、多くは、速やかなエネルギー補給が目的だと思うので、『ザバスエナジーメーカーゼリー』のようにエネルギー量の高いものを選んでほしいですね」

 今、もし手元にゼリーがある高校球児は、ぜひ表示を気にしてほしい。

 その他にもオコエ選手が新人栄養講習会時に「嫌いなメニューはないです。嫌いなメニューができるのは気持ちの問題だと思います」と言い切った話や、夏は食欲が低下し体重の減少とともに疲労が蓄積してしまう選手が見られる中で、嶋選手は運動量が多ければごはんの量を増やすといった工夫により体重の変動がほとんどないといった秘話を明かしてくれた斎藤さん。

 また、先発投手では、「グリコーゲンローディング」という炭水化物(糖質)を筋肉に溜め込むエネルギー戦略が有効であることも興味深かった。

具体的にはナイターなら登板前日の夕食から炭水化物(糖質)多めの主食と果物中心。代わりに肉や野菜や乳製品を少なめにすると筋肉中にグリコーゲン(糖質)が溜め込まれ、スタミナキープにつながってくる。試合中もエネルギーゼリーをとりいれることで、エネルギー切れを抑え、集中力キープにつながります。
「ぜひやってほしいです」斎藤さんはここについて特に力を込めた。

「あきらめず、考えて、継続して」夢を感動につなげる

 では、最後に斎藤さんに「カラダが大きくならない」と悩んでいる高校球児に向けての栄養メッセージを話してもらおう。

「朝は眠くて食欲がない、練習後は疲れて食べられない、という声を高校球児からよく聞きます。でも、今頑張らないで、食べる努力をやめたらカラダも大きくならないし、ハードな練習に対する食事の量も足りないから、疲れも取れないし、けがのリスクも高まる。本当にそれでいいのか?と考えると、自分で工夫できることはたくさんあります。

 例えば寮の食事が充実してなくても、自分で用意できるような魚の缶詰や納豆でもいいからおかずをプラスする、100%オレンジジュースや牛乳やヨーグルトを間食で摂るといったことで、皆さんのカラダに必要な栄養をどれだけ摂取できるかが大事です。

トップレベルの選手たちはすぐに効果が現れなくても、そこを継続していく意識がとても高いです。
食べることも練習の一部。材料がないのにカラダは大きくなりません。自分がどうなりたいかを明らかにすると、栄養面の取り組みも継続しやすいと思います」

「あきらめず、考えて、継続する」これは東北楽天ゴールデンイーグルスの2016年スローガン「夢と感動」へもつながっていくはずだ。

 2013年11月3日、誰もが感動で打ち震えた[stadium]Koboスタ宮城[/stadium]での日本一達成。「もう一度、あそこに行きたい」と斎藤さんも語った場所へ到達するために。東北楽天ゴールデンイーグルスは明るく、一致団結して3年ぶりの頂へと昇っていく。

(取材・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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