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番狂わせといわれた2度の全国制覇の佐賀商と佐賀北が県のリーダー(佐賀県)

2016.09.25

 平成になってから(1989年以降)、春夏を合わせて甲子園での優勝校で最大の番狂わせと言われているのが、いずれも佐賀代表の2校だ。一つは1994(平成6)年佐賀商。そして、もう一つは2007(平成19)年佐賀北である。

佐賀商、佐賀北の軌跡

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佐賀商

 佐賀商は1回戦で浜松工を6対2で下すと、関西那覇商北海と倒してベスト4進出。これだけでも佐賀県としては60年の佐賀鹿島以来のことだったが、準決勝では延長の末、長野の佐久(現佐久長聖)を下して決勝に進んだ。

 決勝は九州対決となったが、予想では圧倒的に不利だったにもかかわらず、3点をリードされても樟南(鹿児島)を逆転で倒した。4対4の同点で迎えた9回に、二死満塁で西原 正勝駒澤大→佐賀リコー)の神懸かり的な満塁本塁打が飛び出してついに佐賀県勢としては悲願ともいえる深紅の優勝旗を手繰り寄せた。2年生エースの峯 謙介(JR九州)も淡々と6試合を投げ切った。

 この年はベスト8で5校、ベスト4で3校が九州勢という九州イヤーでもあった。ちなみに、この年のベスト4の顔ぶれは佐賀、鹿児島、大分、長野というもので通算勝率が20位以内に入る県が一つもなかった。そんな年だから、佐賀商の「葉隠れ野球」が功を奏したのだろうともいわれた。

 佐賀商といえばもう一つ、甲子園では忘れられない大きなエピソードがある。82年の夏新谷 博投手(駒澤大→日本生命→西武→日本ハム)が木造(青森)相手に夏の甲子園初の完全試合まであと一人となりながら、ここで死球。満場の溜め息を誘った。それでも一応ノーヒットノーランを達成はしたものの、極めて落胆の大きいノーヒットノーランでもあった。

 一方佐賀北は開幕戦で福井商に完封勝ちすると、2回戦では宇治山田商と延長15回引き分け再試合の末勝利。さらに前橋商、延長で帝京を下してベスト4。九州対決となった準決勝は長崎日大に3対0で快勝。そして決勝では、8回一死まで0対4とリードされていながら、押し出しで1点を返すと、さらに副島 浩史福岡大)の満塁本塁打で逆転。9回のピンチも巧みなバント処理で切り抜けて初優勝を飾った。

 折しも、特待生問題が大きく露呈して高校野球そのものが揺れた年でもあった。公立普通校の佐賀北は、違う意味でも大きかった。

[page_break:佐賀市内の高校が多く実績を残す佐賀の勢力分布図]

佐賀市内の高校が多く実績を残す佐賀の勢力分布図

 それにしても、佐賀県の2つの優勝が、いずれも土壇場の満塁本塁打で逆転するというスリリングな試合で栄冠を手に入れているのは特筆すべきだろう。この両校が県内をリードしているのだが、ことに佐賀商は県内最多の春夏合わせて21回の出場を果たしている。優勝した年の6勝を含めて、通算17勝を挙げている。

 佐賀北は夏だけで4回出場だが、甲子園6勝は佐賀学園とともに県内2位の記録となっている。佐賀学園81年夏に初出場し、91年夏に初勝利を挙げると98年夏10年夏と初戦突破した年は2ずつ挙げている勝負強さを示している。

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2015年夏の甲子園に出場した龍谷のキャプテン・松永 丈治

 続く勢力としては、15年夏に20年ぶりに出場を果たした龍谷がある。龍谷は学校の歴史は古く、1878(明治11)年に浄土真宗西本願寺派の学校として創立、第五仏教中などという時代を経て、現校名となった。

 こうして、勢力分布図としては佐賀市内の学校が圧倒的に強く実績も残している。他の市に私立高校がほとんどないということもあって、有望選手たちの進学先もそこに集中してきているということも否めないかもしれない。学校の歴史のある佐賀工や体育コースを設置している佐賀東なども甲子園出場の実績をあげてはいる。

 佐賀市以外では、唐津商などの唐津市勢の元気がいい。11年夏には復活の甲子園出場を果たしている。県中央部では、鳥栖市が頑張っていて鳥栖鳥栖商鳥栖工といずれも健闘している。01年には鳥栖市と佐賀市の間の神埼が春夏の甲子園出場を果した。小城伊万里農林伊万里商13年夏には有田工も甲子園出場を果たしている。佐賀商佐賀北を中心にしながらも、各校にチャンスがあるというのも佐賀県の特徴とも言えそうだ。

 ところで、佐賀県では旧制中学系の高校を独特の呼び方をする。元々は佐賀藩の藩校の弘道館を前身としている佐賀中学だが、これが“栄城”。佐賀中学小城分校が前身となっている小城が“黄城”。そして、唐津東は“鶴城”といわれている。佐賀中の歴史を背負う佐賀西はユニホームにローマ字で「EIJYO」と書かれている。校名ではないので、知らない人が初めて見るとどこの学校だか全然わからない。もちろん、地元ではそれがプライドであり、伝統校の証ということになる。

(文:手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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