Column

松山商の歴史を追って、今治西と新興の済美がよくも悪くも愛媛県を支える(愛媛県)

2015.12.27

 上甲 正典監督自身の2度目の初出場初優勝となる快挙が2004(平成16)年春済美の全国制覇だった。その年は、も決勝進出を果たし、春夏連覇こそ逃したものの準優勝で一気に全国の強豪校として肩を並べた。翌年夏と、08年夏にも甲子園出場を果たすが、13年春には安楽智大関連コラム投手を擁して、準優勝を果たしている。わずか10年の間に甲子園で三度決勝の舞台に立ったということになる。

済美・今治西が近年の愛媛を牽引

上甲 正典監督(済美高等学校)

 元々歴史のある女子校だった済美が共学化になったとともに、野球部強化を前面に打ち出した。そこで、指導者として白羽の矢が立ったのが、宇和島東で初出場初優勝を果たし、その後も平井 正史投手(オリックス→中日)などを輩出して実績を作り上げた上甲監督だったのだ。

 上甲監督は済美に就任する以前は少しブランクをおいて宇和島東で指揮を執っていた。宇和島東は歴史の古い学校で分校から独立したのも明治時代だった。ただ、陸の孤島とも言われるくらいに不便な土地柄であることは否定できない。松山市までは特急で1時間半、普通列車だと約3時間もかかるところである。そんな土地で、地元の高校生だけを集めて1988(昭和63)年春には初出場で優勝を果たしている。小川 洋投手の好投もさることながら、強打が印象的だった。

 上甲監督は済美に移ってからも、ベンチでの独特の笑顔が評判になったが、ベンチではパフォーマンスとしても笑顔を作っておこうというスタイルだった。安樂投手の部路入りを見届けると、14年9月に現役監督のまま67歳で他界した。

 その済美と近年競い合っているのが、今治西である。夏は0607年1112年と連続出場を果たし、15年夏も出場を果たしている。春も07年から4年連続、そして1415年と2年連続出場。まさに、済美と2強時代を形成しているといっても過言ではないくらいだ。
今治西の全国大会出場ということでいえば、戦前の中等野球時代の今治中で、第4回大会に愛媛県勢としては、最初の全国の舞台への進出だった。ただし、大会は米騒動で中止となり、それ以来本当に甲子園出場を果たすには45年を費やすことになる。しかし、その後見事に復活して、今日に至っているのは見事だ。

 ところで、愛媛県の高校野球といえば、歴史的には当初から引っ張っていたのは松山商だった。松山商は香川の高松商と同年の創立だが、野球部の創部は学校創立の翌年の1902(明治35)年と四国で一番古い野球部である。これだけでも、四国の球界リーダーとしての価値はある。1925(大正14)年春に当時、最大のライバルともいえる存在で前年の優勝校・高松商を下して念願の全国制覇を果たす。以来、春2回、夏5回の全国優勝、準優勝も夏4回という記録が残っている。どちらかというと夏の大会に好成績が多いということもあって、「夏将軍」という呼ばれ方もしていたことがあった。

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[page_break:松山商や西条など伝統校の歴史を振り返る]

松山商や西条など伝統校の歴史を振り返る

松山商業高等学校

 松山商は歴史的には何といっても、井上 明投手が太田 幸司投手のいた三沢と大会史上初の決勝戦延長18回引き分け再試合を戦ったことでも知られている。また、96年夏熊本工との決勝では延長戦で、矢野 勝嗣右翼手の奇跡の好返球でサヨナラの走者を刺し、その次の回に矢野選手の二塁打から勝ち越して優勝を果たしたチームも語り継がれている。こうして、時代の節目や象徴的な部分で歴史的に名を残すような試合をしているのも特徴だ。

 超名門校だけにOBも錚々たるメンバーが顔を連ねている。高校(中等)野球だけではなく、日本の野球そのものに影響を与えてきた人たちが目白押しである。しかも、時代が移り変わって、新しい学校が台頭してきてもその地位は変わらず、明治~大正~昭和~平成と野球部が確実に4つの時代で歴史を作ってきていた。

 しかし、時代も21世紀になると、その最初の年の01年に出場を果たしベスト4まで進出をしたのを最後に、甲子園から遠ざかっている。歴史的名門校ともいえる存在が、そのまま“古豪”と呼ばれながら埋もれてしまうのを寂しい思いで見ている人も多いのではないだろうか。

 県内の伝統校ということでは西条1959(昭和34)年森本 潔遊撃手(立教大→三協精機→阪急→中日)などの活躍で全国優勝を果たしている。また、西条藤田 元司(慶応義塾大→日本石油→読売)や池西 増夫(関西大→電電近畿)など、NHKの解説として定評のあったプロ・アマの解説者を輩出しているのも特筆すべきことである。西条は、平成になってからも、89年の春92年夏05年春09年夏というように、随所で甲子園へ出場してきている。時代の中でしっかりと伝統を維持しながらも新しい時代でも頑張っているという姿勢は十分に伝わってくる。伝統校がこういう形でしっかりと活躍しているというのも愛媛県の高校野球の特徴ともいえるだろう。

 伝統校と言えば、15年春は21世紀枠代表で松山東が出場を果たして話題となった。何せ、82年ぶりの出場である。しかも、初戦前年夏の出場校でもある二松学舎大附に競り勝ち、古くからの高校野球ファンを喜ばせた。松山東は、前年夏に愛媛大会決勝進出、そして今年も愛媛大会ベスト4に進出して、その力を示している。その松山東をいずれの大会でも下したのが愛媛小松だった。愛媛小松も1907(明治40)年創立という歴史のある伝統校だが、14年が春夏通じて初の甲子園出場だった。00年夏に甲子園出場を果している丹原も創立100年という歴史があったが、いずれも古い新顔と言ってもいいであろうか。

 他にも、02年夏にベスト4に進出している川之江75年夏に準優勝をしている新居浜商や、南宇和、新しいところでは東温なども健闘している。また、済美以外の私学勢力では、90年春に準決勝では延長17回で北陽にサヨナラ勝ちするなど旋風を起こして準優勝を果たした新田や、甲子園には届いていないものの松山聖陵なども、済美の壁に跳ね返され続けながらも、上位に顔を出すことの多い県内の有力校と言えるであろう。

(文:手束 仁


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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