Column

「指導者と選手とのパイプ役」へ 健大高崎の野球を支える女子マネたち

2018.11.16

 『機動破壊』
 文字通り破壊的な走塁技術で攻撃する姿で、全国の高校野球ファンを魅了し続けている学校がある。これだけでどの学校のことを指しているのか、察しはついているだろう。群馬県高崎市に居を構える健大高崎である。

 今夏は県大会決勝でライバル・前橋育英の前に敗れたが、今春の関東大会を優勝し、秋季群馬県大会もベスト4まで進出。毎年結果を残し続ける健大高崎のマネージャーたちはいつもどんな活動をしているのか。彼女たちの活動の様子に迫った。

パイプ役としての役割


健大高崎マネージャーの皆さん

 現在は2学年で選手69名、マネージャー5名の計74名と大所帯となっている健大高崎。69名の選手たちを支える、2年生マネージャーの加東あす可さん、佐藤優菜さん、中澤朱友華さん、そして1年生マネージャー・上野咲希さん、須田桃花さんだ。ちなみに上野さんは、2017年の選抜で代打本塁打を放った上野 健助選手(明星大)の妹である。日々の活動を紹介すると、環境整備や試合の時のスコア、選手たちが飲むジャグ作り、洗濯など様々な仕事に取り組んでいる。

 ただ環境の整備をするのではなく、自立心が高まるような環境作りを心掛けるなど、その内容には工夫が施されている。

 数多くの活動の中でも変わっているのは食事のチェックだ。合宿中は朝食と夕食の時に選手が5杯ずつ食べているのか、昼食時はお弁当を完食しているのか、選手1人1人をマネージャーがチェックをしている。監督・コーチが見ることが多い食事面をマネージャーが見ており、選手たちは指導者がいなくても気を抜くことはできない。

 選手たちへ厳しい視線を送り続けるマネージャー。一番やりがいを感じるときは、選手たちからの「ありがとう」の一言をもらったときだ。また試合中、ベンチの中で選手とハイタッチを交わす瞬間が楽しいと語る。

 そんな健大高崎マネージャーたちに「マネージャーあるある」を聞いてみると、「ポケットの中にたくさんモノが入っていること」だと話す。
 彼女たちのポケットはティッシュ、ハンカチ、はさみなどなど溢れんばかりの小物たちでいっぱいだ。選手たちの心身の変化を敏感に察知し、何かあったらその場で対応するため、ポケットは常にパンパンなのだ。

[page_break:選手の一番の味方です!]

選手の一番の味方です!


健大高崎 1年生マネージャー 上野咲希さん、須田桃花さん

 新チームになり数か月が経ったが、彼女たちにとってもこの夏は悔しい夏となった。

 群馬大会決勝。ライバル・前橋育英を相手に3点リードで迎えた9回に、まさかのサヨナラ負け。当時のことを、「甲子園が目の前から一瞬で消えた」と語ってくれた。この一言だけでもどれだけ悔しかったのか、想像することができる。

 その悔しさをバネに、西毛リーグでは決勝で東農大を12対1で下して優勝。自分たちの手で掴んだ優勝に嬉しさを感じると同時に、秋季大会も戦える自信をつけた。
健大高崎が秋季大会を勝ち上がれたのは、この時につけた自信があるのだろう。

 しかし秋季群馬県大会で、再び前橋育英に敗れ、あと一歩のところで関東大会を逃した。健大高崎は来春の県大会、そして来夏の甲子園に向けて歩みを始めたが、選手たちに向けてこんな一言を残した。
 「私たちはどんな時もみんなの一番の味方です」
 この言葉からは、常に選手たちに寄り添う姿勢がうかがい知れる。

 次のページでは健大高崎マネージャーを代表して、加東あす可さんにお話を伺った。

[page_break:日本一のマネージャーになるために兵庫から県外進学]

日本一のマネージャーになるために兵庫から県外進学


健大高崎 2年生マネージャー 左から中澤朱友華さん、佐藤優菜さん、加東あす可さん

 中学時代、ソフトボールに情熱を注いできた加東さん。同じくらいの愛情を、野球に対しても持っていた。
 「両親の影響で幼い頃から野球が好きになり、夏の甲子園も毎年見に行っていました」と、夏の甲子園への思い入れを語ってくれた。

 加東さんはスタンドに入った瞬間の胸の高鳴りや、観客を魅了する不思議な力を持つ甲子園にマネージャーとして立ちたいと思った加東さん。その中で印象に残っていたのが健大高崎の戦いぶりだった。加東さんは兵庫県加東市立滝野中出身だが、なんと地元を出て、1人で健大高崎へ県外進学。ソフトボールから野球部のマネージャーに転身した。

 ちなみに1年生マネージャーの上野さんは大阪・豊中出身。兄と同じく、県外留学の道を歩んでいる。

 現在2年生の加東さんは、マネージャーとしての活動を通じて、相手の様子を見て心身の状態を察することができるようになり、コミュニケーション能力が向上したと語る。

 そんな加東さんにとっての1番印象的なエピソードについて聞くと、
 「学年ミーティングの際に『マネージャーのためにも』という言葉を聞いた時です」と挙げてくれた。日頃、献身的にチームを支えるマネージャーたちに、選手も応えたいと思ったのだろう。

 答える前には1つには絞れないと言いつつも、このエピソードを上げてくれたということは、それほど加東さんにとって心に残る出来事だったということ。

 さらにエピソードとは別に、今度は心に残った言葉を聞いてみると、監督からの言葉が挙がった。
 「新チームの初日に監督さんから『指導者と選手を繋ぐパイプの役割をしてほしい』と言われたこと」が心に残っている。その言葉を胸に活動を続けてきた今、パイプ役としてならばどこにも負けていないと胸を張れる。

 選手と監督のパイプ役として頑張っている加東さんだが、彼女にとって嬉しい出来事があった。それは選手から誕生日を祝ってもらったことだ。
 「全員のメッセージが入ったTシャツをプレゼントしてもらったんです。『いつもありがとう』とか『甲子園に行こう』と書いてあり、嬉しくて涙が出ました」と話してくれた。そのTシャツは一生の宝物だと話してくれた。

 選手との絆や指導者と選手とのパイプ役として働きは、他校には負けないと自負している。こうした出来事があるのだから自信を持って当然だろう。

 最後に、どんなマネージャーを目指したいかと質問をぶつけるとこんな答えが返って来た。
 「日本一を目指す健大高崎を支えられる、日本一のマネージャーになりたい」

 マネージャーとしての活動は、メディアなどで取り上げられるような華やかなことばかりではない。きっとつらいこともたくさんあるハズだが、挫折をしたことは「一度もない」と答える。
 この言葉から、日々の活動に前向きに取り組み、楽しみながらも、日本一のマネージャーを目指していることの充実感を感じ取れる。

 日本一のマネージャーになるために、パイプ役として選手に寄り添う日々が続く。

(文=編集部

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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