東京地区記者・大島 裕史氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5
秋季都大会で関東一が優勝して、今年の東京の高校野球の公式戦は終わった。怪物1年生・清宮幸太郎(早稲田実・関連コラム)の登場で全国的な注目を集め、清宮とともにU18日本代表の中心メンバーになったオコエ瑠偉(関東一・2015年インタビュー【前編】 【後編】)、勝俣翔貴(東海大菅生・2015年インタビュー)らの活躍もあり例年以上に盛り上がった。その成果として、夏の甲子園大会では、関東一と早稲田実が揃ってベスト4に進出した。
しかし新チーム結成時からこの両チームをウォッチしてきた筆者としては、この快挙はかなり驚きだった。同時に高校生の持つ成長の可能性を改めて感じた。名勝負を通して、東京の高校野球のこの1年を振り返る。
5位:春季東京都大会準々決勝 関東一vs早稲田実業(7回コールド)
加藤 雅樹(早稲田実業)
2015年春季東京都大会準々決勝・関東一戦にて
両チームの四死球が20、乱戦の7回コールド。ベストゲームに挙げるのは少々気が引けるが、これほど役者が揃い、今年の東京の高校野球を象徴する試合は他にない。
注目の1年生・清宮幸太郎が神宮の杜に初登場して注目されたこの試合。5対1で関東一がリードした5回表、清宮の高校初本塁打となる3ランで、早稲田実が1点差に迫った。
その裏関東一は8点を入れて突き放すと、6回表には4番の加藤雅樹が清宮とのアベック弾となる3ランで追い上げる。しかし関東一はオコエ瑠偉が3個の盗塁を決め、4番で主将の伊藤雅人が猛打賞の活躍をするなど、早稲田実を圧倒した。
この試合2回1/3で6失点を喫した早稲田実の松本皓は、制球に磨きをかけ、夏の大会で活躍する。両チームに不安が残る乱戦であったが、ともに夏の甲子園でベスト4に進出する原点になった試合であった。(試合レポート)
4位:春季東京都大会3回戦 青山学院vs大森学園(10回タイブレーク)
春季東京都大会3回戦の
大森学園戦で好投する大塚 理(青山学院)
青山学院の安藤 寧則監督からは、「うちはブルーヒンダー(貧打)打線」「体育ができない」など、自虐的な言葉が続く。実際、守備を見ていても、うまいという感じはしない。
対する大森学園のエース・半田隆人は、1年生の夏に中心投手としてベスト8に進出するなど、実力も実績もある投手だ。
青山学院は6安打に抑えられるが、その安打が1回と6回に集中し、3点を挙げる。一方、大森学園は9回までに15安打を浴びせ、常に塁上を賑わせるも、なかなか得点を挙げられず、9回裏に何とか同点に追いつく。
タイブレークとなった延長10回、青山学院は永嶋 吾郎の犠飛など、無安打で1点を挙げる。その裏青山学院は、粘りの投球を続けていた主将でエースの大塚 理貴が、二塁走者を牽制で刺して、勝利を掴んだ。
実力的に劣勢のチームがどうすれば勝てるのか。そのお手本のような試合だった。(試合レポート)
3位:秋季東京都大会決勝 関東一vs二松学舎大附
優勝を決めた関東一ナイン
二松学舎大付は1年生の4番永井 敦士の本塁打などで7回までに2点リード。好投手・大江竜聖の調子から、勝負は決まったかに思えた。
しかし関東一は8回表に山室 勇輝の二塁打で2人の走者を還し、同点に追いつく。さらに9回表一死二、三塁から、8回からレフトに入っている石塚 大樹の打球は、高いバウンドの投ゴロ。スタートのいい三塁走者が生還して勝ち越し、さらに遊撃手への内野安打でもう1点を追加した。
9回裏二松学舎大付は、大江の二塁打で1点を入れ、さらに一死満塁のチャンス。ここで2番鳥羽 晃平の当たりは素直な打球の投ゴロ。一瞬にしてダブルプレーが成立し、4対3で関東一が逃げ切り、優勝した。
実力的には二松学舎大付が、好投手・大江を擁し、選手層も厚くレベルの高いチームであったが、球運に恵まれなかったという感じの試合であった。(試合レポート)
2位:秋季東京都大会2回戦 二松学舎大附vs早稲田実業(延長10回)
秋季東京都大会2回戦の早稲田実戦で
好投する大江 竜聖(二松学舎大附)
2回戦にして決勝戦のような好カードに、球場は開始1時間半前の朝7時半には400人が集まり、開門を待った。
昨年1年生で甲子園を経験した二松学舎大付の大江竜聖が、快調な投球で早実打線を寄せ付けなかったが、6回表に清宮の適時打で早稲田実が1点を先取する。
投手陣が心配されていた早稲田実であるが、1年生の服部雅生が好投し、バックの好守もあって二松学舎大付に得点を許さない。
このまま早稲田実が逃げ切るかに思えたが、9回裏二松学舎大付が相手失策を足掛かりに、市川 睦の犠飛で同点に追い付き、試合は延長戦へ。10回裏、二塁打の大江を、2番鳥羽晃平が左前安打で還して、二松学舎大付がサヨナラ勝ちを収めた。
同点犠飛の市川も、サヨナラ打の鳥羽も清宮、服部と同じ1年生。この戦いは、来年以降も続きがありそうだ。(試合レポート)
1位:第97回西東京大会決勝 早稲田実業vs東海大菅生
清宮 幸太郎(早稲田実業)
写真は春季東京都大会 準々決勝の関東一戦
日曜日の[stadium]神宮球場[/stadium]は、2万8000人の大観衆で埋まった。準決勝では清宮幸太郎の二塁打で優勝候補筆頭の日大三を破った早稲田実であるが、この日は、東海大菅生の二刀流のエース・勝俣翔貴に抑えられ、7回まで4安打の無得点。一方東海大菅生は主将で4番の江藤勇治の本塁打などで5点をリードした。
早稲田実の反撃は8回先頭の1番山田 淳平の内野安打から始まる。その後安打や四球で追い上げ、代打佐藤 純平の内野安打で1点差に迫る。スタンドのボルテージは一気に上がる。優勝した秋季都大会では、ピンチでも笑顔を見せ、若林 弘泰監督から「宇宙人」と呼ばれていた東海大菅生の勝俣の顔が、明らかに上気していた。その後、押し出しの四球で同点となり、勝俣が降板。この回早稲田実が8点を入れ、試合を一気にひっくり返し、甲子園大会出場を決めた。
この試合清宮は1安打1打点であったが、何かを持っていると感じさせる逆転勝利だった。(試合レポート)
清宮幸太郎の活躍で、異様な盛り上がりをみせた今年の東京の高校野球であったが、夏の大会の各球場で、今年の1年生はいいという声を聞いた。夏から帝京の4番を打つ岡崎心、二松学舎大付の永井 敦士、市川 睦、修徳の捕手の宮本博文、国士舘の上原隼……。今後さらに台頭してくるだろう。こうした中、この秋は、二松学舎大付の大江竜聖や今村大輝(2015年インタビュー)ら上級生が意地をみせた。
来年も話題の中心は清宮だろうが、ライバルとなる選手たちの活躍も見逃せない。
(文・大島 裕史)
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