Column

関東地区記者・大平 明氏が選ぶ今年のベストゲームTOP5

2015.11.14

バラエティに富んだチームが繰り広げる真夏の熱戦

 今夏の甲子園で、最も素晴らしい成績を収めたのは関東地区の代表校だろう。東海大相模(神奈川)が優勝したのをはじめ、関東一(東東京)と早稲田実業(西東京)はベスト4、花咲徳栄(埼玉)はベスト8に進出。東海大甲府(山梨)と健大高崎(群馬)も2勝するなど、合計で19もの勝ち星を積み上げた。それだけに、夏の甲子園に繋がる各地方大会でも高いレベルで名勝負が展開されたが、その中から印象に残る5試合をピックアップした。

5位:第97回茨城大会決勝 霞ヶ浦vs日立一

鈴木 彩斗(日立一)

日立一のエース・鈴木 彩、霞ヶ浦の二枚看板に屈する!

 上位シードが相次いで敗れ、波乱の大会となった夏の茨城大会。決勝はノーシードから勝ち上がった日立一と、この8年で6回目の決勝進出となる第11シード・霞ヶ浦の対戦となった。試合は初回に霞ヶ浦が2点を先制するものの、以降は日立一鈴木 彩斗(2年)、霞ヶ浦安高 颯希(3年)の両投手による投げ合い。特に日立一の鈴木彩は、毎回ランナーを背負う苦しいピッチングだったが、大きく縦に曲がるスライダーを低めに集め、3回は無死満塁、4回は無死二三塁、さらに8回は一死一三塁のピンチを無失点で切り抜けていた。

 これだけピッチャーが踏ん張っていれば日立一に流れが来てもおかしくないが、安高と二番手・綾部 翔(3年2015年インタビュー)がそれを許さない。被安打1の完封リレーで、霞ヶ浦は2対0で日立一を破り、悲願の夏の甲子園初出場を決めた。

 この大会で霞ヶ浦は6人の投手を起用。最も投球回数が多かった安高は18回、綾部は14回だった。それに対し、日立一の鈴木彩は全7試合に登板し、64回のうち59回を投げていた。決勝を見る限り、影響はストレートに顕著に表れ、霞ヶ浦の両投手からは力強さを感じた一方で、鈴木彩はやや高めに浮いていた印象があり、その差が試合結果に繋がったともいえる。連戦が続く夏、複数の投手を揃えたチームの有利性が表れた一戦だったが、粘り強く投げ続ける鈴木彩の姿に感銘を受けた観客も少なくなかっただろう。

 だからこそ、高校生の投球制限について様々な意見が論じられている現在、各校の指導者が選手と話し合って方針を取り決め、健康面でもしっかりとケアしていく事を望みたい。(試合レポート

4位:第97回千葉大会決勝 専大松戸vs習志野

原 嵩(専大松戸)

名門・習志野をも飲み込んだ魔物の存在

 高校野球では「甲子園の魔物」や「勝利の女神」といったフレーズがよく使われるが、これらは「流れ」という言葉に置き換えられるだろう。野球は試合の流れをつかんだチームが勝利に近づくものだ。流れを変えるプレーはいろいろあるが、その中でも多く見られるのがミスで流れを手放してしまうケースだ。甲子園初出場を目指す専大松戸と伝統校・習志野の間で行われた今夏の千葉大会決勝戦でも、そんなシーンが見られた。

 7回表、追加点を挙げ3対0とリードした習志野はなおも一死二三塁のチャンス。しかし、2ボール1ストライクからバッターが空振りした場面で三塁走者が飛び出し、三本間に挟まれタッチアウト。この時、三塁を狙った二塁走者もアウトになりダブルプレーでダメ押しの機会を逃した。すると、その直後の7回裏、それまで2安打に抑えられていた専大松戸は3本の長短打に2つの犠打と1四球を絡めて一気に同点に。

 習志野はこの回だけで4人の投手をマウンドに送る小刻みな継投でなんとかこらえようとしたが、専大松戸に傾いた流れはもう止まらない。スタンドからの大声援の中、さらに2つの四死球で満塁となった後、4番原 嵩(3年)がセンター前へ打ち返した打球をセンターが後逸。勝ち越しの満塁ランニング本塁打となり、一挙7点を奪った専大松戸がこのまま7対3で逃げ切った。

 ただ、サインミスはあったかもしれないが積極的な走塁は習志野のチームカラーであり、そもそもリスクが付きまとう戦術である。それだけに走塁面でのミスを責めるよりは、ゲーム中に生じた流れのわずかなうねりを見逃さなかった専大松戸を褒めるべきだろう。ボール球は見送り、送りバントを決め、スコアリングポジションのランナーはヒットで返す。きっちりと自分の仕事をこなし、流れを作った専大松戸の各選手に拍手を送りたい。(試合レポート

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[page_break:3位:第97回埼玉大会準決勝 白岡vs浦和学院 / 2位:第97回神奈川大会決勝 東海大相模vs横浜]

3位:第97回埼玉大会準決勝 白岡vs浦和学院

谷中 壮樹(白岡)

無名の公立校・白岡が快進撃! 浦和学院に土を付ける

 高校野球ではノーマークのチームが旋風を起こす事がある。今夏の埼玉大会でいえば、それは白岡だ。大会前はまったく注目されていなかったが、それもそのはず。昨秋昌平に、今春越ヶ谷に地区大会の初戦で敗れ、公式戦は未勝利だった。それが3回戦でBシードの成徳大深谷を下すと、準々決勝埼玉栄戦では8回に4点を奪い10対9と逆転勝ち。さらに準決勝昨秋今春と2季連続で関東大会を制し、選抜大会でもベスト4の好成績を収めた大本命の浦和学院を4対1で破る金星を挙げた。

 この試合に先発した谷中 壮樹(3年)はストレートと同じ軌道から縦に割れるカーブを有効に使い、強力打線を相手に6安打1失点。特に5回は二死満塁のピンチを切り抜け、7回は追加点を奪った直後の流れが動きやすいシチュエーションの中、先頭打者に二塁打を許すものの後続を打ち取り、最後まで付け入る隙を与えなかった。やはり番狂わせを起こすのに必須な条件は投手力という事なのだろう。もちろん、08年夏に上尾北埼玉大会の決勝へ導いた経歴を持つ鳥居 俊秀監督の手腕も見逃せず、鍛えられたチームにはそもそも地力があり、打線が好調だった事も勝利に大きく関わっていた。

 決勝戦は、急に脚光を浴びた事でチーム全体が浮き足立ったのか6失策を犯し、2対5で花咲徳栄に敗れて甲子園には届かなかったが、白岡が見せた夏のきらめきは多くの高校野球ファンの心に残っただろう。(試合レポート

2位:第97回神奈川大会決勝 東海大相模vs横浜

小笠原 慎之介(東海大相模)

負けられない、神奈川のライバル校対決!

 激戦区・神奈川をリードしてきた東海大相模横浜。全国にも名を轟かせるこの両雄にとって、今夏はどうしても甲子園に行かなければいけない理由があった。

 東海大相模は昨夏も優勝候補として甲子園に出場したものの、まさかの初戦敗退。その試合の経験者が7人残った今年のチームは雪辱の為にも甲子園という舞台に戻る必要があった。そして、横浜は5度の全国優勝を誇る渡辺 元智監督がこの大会の終了後に勇退する事が決まっており、名将の最後の花道を甲子園で飾りたいという思いでチームが一丸となっていた。

 互いの強い思いがぶつかり合った夏の神奈川大会決勝。試合が動いたのは4回表、東海大相模長倉 蓮(3年)のタイムリーなどで3点を挙げる。この回は、内野への高いバウンドの打球が安打になるなど東海大相模にツキがあり、横浜の外野陣が打球処理を2つミスした事も響いた。しかし、準決勝まで3試合連続で1点差の勝利を収めてきた横浜も反撃。6回裏に二死満塁のチャンスを作るが、東海大相模のエース・小笠原 慎之介(3年関連コラム)に三振で切り抜けられると、7回に4点、8回にも2点を許し万事休す。

 ノーシードから粘りを感じさせる戦いぶりで勝ち上がってきた横浜だったが、大願を成就させる事はできず9対0で敗れ去った。一方、積年のライバルを退けた東海大相模甲子園大会でも優勝。全国制覇を成し遂げ、きっちりと昨年のリベンジを果たしたのだった。

 ちなみに、この両校は秋季神奈川大会でも準々決勝で対戦。平田 徹新監督が率いる横浜が10対1の8回コールドで東海大相模を下している。東海大相模横浜、地方大会で雌雄を決するにはもったいないこの2校の対戦は、今後もしのぎを削り合いながら続いていくことだろう。(試合レポート

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[page_break:1位: 第97回西東京大会決勝 早稲田実業vs東海大菅生]

1位: 第97回西東京大会決勝 早稲田実業vs東海大菅生

清宮 幸太郎(早稲田実業)

ベンチの清宮から窺えた、早実の強さの理由

 今年、最も注目を浴びた選手といえば、早稲田実業清宮 幸太郎(1年関連コラム)で間違いないだろう。リトルリーグ時代から怪物と称され、鳴り物入りで高校野球界に進んできた、まさに逸材。だが一方で、「本当に甲子園へ行けるのか?」と懐疑的に見ていた方もいたことだろう。実のところ、私もその一人だ。往々にして、過度に注目を浴びた選手やチームはたとえ実力があっても、他チームからの標的になりやすく受け身の試合を余儀なくされて敗れ去る事がある。今年の早稲田実業も、そのパターンに当てはまるのではないかと推測していたのだ。

 しかし、夏の西東京大会早稲田実業準々決勝までの4試合を40得点22失点と派手な打ち合いを演じながら勝ち上がっていく。さらに準決勝では第1シードの日大三に2対0と思ってもいなかったスコアで勝利。強いチームはどんな試合展開になろうと最終的には勝っているものだが、早稲田実業はなぜ勝ち進んでいるのか?その答えを探す為に、私は東海大菅生との決勝戦を観戦した。

 試合が始まってすぐに謎は解けた(私がそう感じただけなのだが……)。ベンチの中にいる清宮が1年生の顔をしていたのだ。緊張やプレッシャーとは無縁の柔らかい表情を。それだけで、主将の加藤 雅樹(3年)を中心とした上級生がしっかりと清宮をサポートし、プレーしやすい環境を作り上げている事、そしてチームが一つになっている事が窺い知れた。周囲に惑わされず強く結束したチームは、逆境にも強い。7回まで5点のリードを奪われていた早稲田実業は8回表に打線が爆発。打者14人の猛攻で8点を奪うと、東海大菅生の最終回の追撃を振り切り8対6で勝利を収めた。

 この一戦は、試合前まで疑心を抱いていた私を180度改心させ、逆に甲子園での早稲田実業の活躍を予期させるのに十分な大逆転劇だった。(試合レポート

 今回、取り上げた5試合はチームワーク、リベンジ、番狂わせ、逆転劇、投手戦と、どれも高校野球らしい面白さにあふれた試合だったのではないかと思う。もちろん、高校野球の魅力はこれだけではなく、すべてのチームにそれぞれのバックグラウンドがあり、ドラマが生まれている。中でも関東地区は、全国でも屈指の大型チームがあれば、小粒ながらも強豪校に引けを取らないチームもあり、バラエティに富んでいるように感じる。はたして、来季にはどのようなチームが現れてくるのか、予想できないところもまた高校野球の魅力の一つに違いない。

(文・大平 明


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・【11月特集】オフシーズンに取り組むランメニュー

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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