Column

【侍ジャパンU-18代表コラム】「世界一のキャプテンシー」は次世代へ 篠原 涼

2015.09.07

 聖地に降り注いだ雨は試合終了と共に涙に変わった~9月6日(日)、[stadium]阪神甲子園球場[/stadium]での「第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ決勝戦。侍ジャパンU-18はアメリカ相手に勇敢な戦いを見せるも、1対2とあと一歩届かず。悲願の大会初優勝は3連覇を目指した盟主の前にまたしても夢に終わった。

 しかし、これで高校野球は終わったわけではない。これからも「世界一」への道は続く。そこでコラム最終回は「JAPAN」を胸に付けた誇りをひとときも忘れず、チームをけん引してきたキャプテン・篠原 涼敦賀気比<福井>3年)を紹介。「世界一のキャプテンシー」と次世代へ託すべきものを記していく。

「熱さと冷静さ、気配り」の日本高校野球キャプテン

篠原 涼(敦賀気比)

 実は大会半年前に「侍ジャパンU-18」主将はほぼ固まっていた。場所は[stadium]阪神甲子園球場[/stadium]でのセンバツ準決勝大阪桐蔭(大阪)の指揮官として敦賀気比戦に臨んだ西谷 浩一・侍ジャパンU-18代表監督は、劣勢に立たされながら相手校のキャプテンに関心を寄せていた。そう、篠原 涼のことである。

「この子の人間性は素晴らしいものがあると感じました。その後も試合や甲子園の中継を見ていても、彼の人間性の良さが伝わってきましたので、スタッフと話し合って彼に主将を任せようと決めました」

 その選択は大正解だった。2対9と完敗に終わった侍ジャパン大学代表との壮行試合後は早くも「沈んだ気持ちでは戦いに向かえません。常に声を出して盛り上げていけるように選手間ミーティングで話していきたいと思います」と敦賀気比の時と同じく厳しさと一体感を持ってチームを率いることを宣言。事実、大会を追うごとにチームベンチからは激励の声が飛び交い、質の高いアドバイスが出るように。アメリカ戦も16歳左腕・ブラットの前に手も足も出なかった3回までが嘘のように、中盤以降は対応し、かつプレッシャーを与え続けた。彼らは「戦う集団」に変貌したのである。

「僕は特別なことはいっていないんですよ。『とにかく声を出せ!声を出さなければ集中できないぞ!』と何度もいっていました」篠原自身はこう話すが、そこにも彼なりの綿密な計算があった。

「常に世界一を目指して戦うことを意識しながら、目の前の試合1つ1つ大事に戦って、最終的に決勝まで良い状態でもっていけるように、そういった心がけはずっと選手に声かけて率先していました」。もちろん、働きかけはグラウンド内だけではない。

「篠原は、自分からチームメイトに呼びかけてミーティングを開いたり、しっかりとチームをまとめるように積極的に話しかけてくれたりと「自分からチームを作ろう」という想いが一番強い選手でしたね。凄い選手でした」

 左腕・高橋 樹也花巻東<岩手>3年)がその内幕を明かす。
熱さを出しながら、周囲を見渡し冷静な判断を下せる力。さらにカメラマンの前を通り過ぎようとするときでも「すいません」と声をかけて、撮影ができるように配慮したというエピソードに代表されるように、気遣いがどこにでもできる人間性の高さ。これこそ日本高校野球のキャプテン、すなわち「侍ジャパンU-18」のキャプテンとしてあるべき姿である。

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第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ

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[page_break:「攻める」を貫き「ありがとう」を呼ぶ]

「攻める」を貫き「ありがとう」を呼ぶ

篠原 涼(敦賀気比)

 こうして理想のキャプテンを務めた篠原。同時に世代トップの技術集団「侍ジャパンU-18」にあっても「攻めのプレー」で大きな働きを示した。

 1番、2番、5番、7番、8番など様々な打順に対応し、10試合で30打数10安打、打率.333にチーム3位タイの8打点。さらに球際の強さを最大限に発揮し、難しい打球を数々と処理。無失策の好守備を見せ、レギュラーとして攻守で活躍。大会後ベストナインに相当する「オールスターチーム」三塁手部門を獲得したのも誰もが納得である。

 決勝戦の舞台でも「攻めのプレー」は貫かれた。2点ビハインドで迎えた6回裏、先頭打者として四球を選んだ8番・篠原は1番・杉崎 成輝東海大相模<神奈川>3年)の二塁打で三塁へ。そして2番津田 翔希浦和学院<埼玉>3年)からの2球目。捕手が後ろにそらしたのを見て篠原は果敢に本塁へ。

 結果は間一髪のタイミングでアウトだったが、直後に津田は1点差に追い付く適時打。3番・勝俣 翔貴東海大菅生<東京>3年)、4番・清宮 幸太郎早稲田実<東京>1年)も執念の安打で続き、逆転の絶好機を作る。

「自分の判断で積極的にホームを狙っていこうと思っていった。アウトになっていなければ逆転できたかもしれないですけど、攻めの野球ができてよかった」振り返れども後悔は残さないプレー。そんな想いがこの場面では明らかに出ていた。

「常に声を出せていたと思います。今日みたいな負けている時でも、勝ちに向かって、出ていない選手もチームのために全力で声を出して戦ってくれていました。大会を通して最初から最後までチームは良い雰囲気で戦い抜くことができて、よかったなと思います」と篠原も振り返る今大会の「侍ジャパンU-18」。その輝きは掛けられたメダルは銀であっても、金メダルの輝きに決して劣るものではない。

「キャプテンらしいことができていなかったのですが、みんなに支えられながらここまでこれたので、ありがとうと言いたいです」

「ありがとう」。その言葉は逆に篠原 涼に対して、他の19選手、スタッフ。そして日本の高校野球関係者、ファンの全てが贈りたい。

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[page_break:果たせなかった「世界一」は世代を超えて]

果たせなかった「世界一」は世代を超えて

篠原 涼(敦賀気比)

 試合後の「第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」表彰式。侍ジャパンU-18の周りには個人表彰のトロフィーが立ち並んだ。まずは打点王(12)、首位打者(打率.556)の二冠を達成した勝俣 翔貴。1回表のスーパーキャッチなどで最優秀守備賞を受賞したオコエ 瑠偉関東一<東京>3年)。決勝戦の5イニング6奪三振リリーフを含め、防御率0.00で文句なしの最優秀防御率賞を受賞した上野 翔太郎中京大中京<愛知>3年)。

 さらにオールスターチームでは先発投手部門に1stラウンドでアメリカを完封した佐藤 世那仙台育英<宮城>3年)。捕手部門はスーパーラウンド・韓国戦での完璧リードが印象深い堀内 謙伍静岡<静岡>3年)。遊撃手部門は守備の安定感が光った平沢 大河仙台育英<宮城>3年)。そして三塁手部門の篠原に、外野手部門の勝俣。

 大会3連覇の偉業を成し遂げたアメリカ代表のセッチーニ監督が「本当に素晴らしいチームでした。警戒をしていましたし、綿密にプランを立てないと勝てない。紙一重の差で勝てたと思います」と称えるスーパーチームの姿がここでも示された。

 しかし結果は2大会連続の準優勝。「もう1つ何かが足りなかったと思うんですけど。何かは、まだわからないです」主将を示す背番号「10」を背負った篠原も世界一実現への答えを探せないまま、大会は幕を閉じた・・・・・・。いや、もう答えに結び付けるための最初の回答はすでに出ている。

 それを表現したのが清宮 幸太郎だ。27打数6安打2打点と不調にあっても最後まで4番で立たせ続けた西谷監督の意思。そして急造チームを最後まで熱く声を張り上げながら戦う集団に変えさせた篠原 涼の熱い志。それに少しでも応えたい想いから、最終回、声を出し続けるベンチの中で、誰よりも大きく、誰よりも必死に声を出していた背番号「3」の行動。これらが全てのベースになるだろう。

 そして、この試合を様々な形で触れた全国の高校1年生・2年生球児に、篠原らの想いが伝わり、来年開催が予定される「第11回BFAアジア18U野球選手権」、そして2年後、カナダ開催となる「第28回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」での金メダルにつながれば、その意思は世代を超えて果たされたことになる。

 それが100年以上の伝統を築いてきた日本高校野球の素晴らしさであり、その集合体である「侍ジャパンU-18」が永続的に最も強みとすべき部分。
こうして「世界一のキャプテンシー」を出し切った篠原をはじめとする3年生たちが果たせなかった「世界一達成」は、2015年9月6日(日)夜、聖地[stadium]甲子園[/stadium]でバトンとなり、次世代に託された。

(文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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