Column

多くの球児のプレーを支え続けた道具の進化の裏にある「ええもんつくんなはれや」の精神

2018.12.28

 大阪桐蔭が史上初2度目の春・夏連覇を成し遂げた100回大会など、2018年の高校野球界は非常に注目度の高い1年となった。来年はどんな1年となるのか楽しみだが、ここで改めて、球児が当たり前のように使っている道具が、これまでにどのような進化を遂げたのか振り返ってみたい。

 今回は野球とともに歩み続けるミズノの道具を見ていきたい。

解禁した金属バットの使用


ミズノが初めて販売した金属バット『ダイナフレックス』

 まず高校野球界で大きな変革をもたらしたのは1974年。この年、金属バットの使用が解禁された。それまでは練習はもちろん、試合の時も木製バットしか使うことができなかった。

 しかし芯を外して打った場合、木製バットは折れことが多い。木製バットにとっての最大のデメリットが問題視されたことで、金属バットを導入するようになったというのが背景にある。

 その中で、ミズノは金属バット『ダイナフレックス』の販売を始めた。
 『ダイナフレックス』とは、振りやすさを追求したバットであり、インナーバランス構造を採用したことで、理想を形にした。

 今では当たり前のように金属バットを使っているが、1974年以前までは木製バットしか使えなかった。そのことから考えれば大きな変革であったに違いない。

 木製バットから金属バットへ、バットがいち早く大幅に変更された1970年代。この変化を追いかけるように1980年代後半はグローブに変革が起きた。


昔のグローブは今よりも平らに近かった

 この時、ミズノの中でグローブのコンセプトとして「手の平の形をグラブに再現すること」を掲げていたのだ。
 それまでは少し平らに近い形をしていたグローブだったが、この時期を境に今のグローブの形に少しずつ近づいてきた。

 グローブで変化が起きている間、バットはまた新たなステージに突入した。

 ミズノから新たに発売されたバットは、現在も使用されているような先端にキャップをつけた金属バットに変わったのだ。

 以前までは、根本からバットの先端までが一体化された金属バットだったが、1991年からバットの音響規制が導入されるようになったことで、音響対策の一環として、先端にキャップを付けたのだ。今では先端にキャップがついていることは当たり前になっているが、こういった背景があった。

 また軽量バットが主流となってきた影響で、各社の間で軽量バットの競い合いもこの1990年代には発生していた。

[page_break:追いついたスパイク・ウエアの進化]

追いついたスパイク・ウエアの進化


当時としては画期的だった9本歯スパイク

 バット、そしてグローブが先駆けて大きな変化を遂げたが、その2つを追いかけるようにスパイクにも転機がやってきた。
 この頃からスパイクに9本歯の金具が採用されるようになったのだ。今となっては当たり前のことだが、当時の常識では考えられない画期的な発想であった。

 このいきさつには、走る、打つ、投げる、守るといった野球の動きを最適にするというコンセプトを軸に、バイオメカニクスに基づいて開発されたという理由があった。

 その後2000年代に突入すると、スパイクの軽量化が求められる時代に突入。
 この要望に応えるためにミズノがおこなった施策は、軽量かつ金具が取替えできない仕様。つまり、埋め込み式となっても、長持ちする金具の耐久性をコンセプトに掲げるということだった。

 現在は、更に軽量化したものが主流になり、その要望に応えるために今度はアッパーの各パーツを縫製の手法を減らした。また、アッパーの仕様もプリントデザインを採用する製法に進化した。
 さらにアッパーだけではなく、ソールも前後左右斜めと、あらゆる動きにパワーロスすることなく加速するCQソールを採用。前への加速をコンセプトとしたIQシリーズが生まれた。


1990年代に登場したバイオギア

 時代の流れに応えるべく、スパイクはこの20年で一気に今に近いモノになった。そして、こうした急成長はアンダーシャツにも起こった。

 1990年代までは汗を吸収することをアンダーシャツに求めた。そのため、綿素材を使ったアンダーシャツや、汗を吸収し、かつ乾きが早いポリエステルの素材を使ったアンダーシャツを開発して、懸念材料であった「着替える回数」を減らそうと試行錯誤を繰り返した。

 だが2000年代に大きな転機が来た。それがバイオギアの登場である。
 バイオギアといえばミズノの代表的なウェアであるが、その登場は2000年代と歴史はまだ浅い。

 そもそもバイオギアの誕生は、ほかのスポーツで身体にフィットしたウェアがトレンドになったのを、野球のウェアにも取り入れたことから来ている。
 野球以外にも多くのスポーツでリーディングカンパニーとして走り続けるミズノだからこそ、トレンドには敏感だ。そして、すぐに応用できる技術なのだ。

[page_break:Vコング02などこれからも名器を生み出し続ける]

Vコング02などこれからも名器を生み出し続ける


高校野球界を沸かせ続けた藤原恭大もミズノ製品を使っていた

 ウェア部門で革命が起きた2000年代。だがミズノにとっての最大の革命はこのバットの登場である。今秋ドラフト会議で、千葉ロッテマリーンズから1位指名された藤原恭大も使った、Vコング02である。

 球児から絶大の人気を誇るVコング02。このバットが発売された当時、バットの重量が900g以上に規格変更があり、軽量化競争に歯止めをかける形となった。
 そして900g以上となっても振り抜きの良さを追求したミズノが改善したのが、先端キャップの形状を変えることである。ここを変更することで振り抜きの良さを生み出した。

 さらに、これまで金属バットに使っていた素材よりも強度に優れた素材を使用することで、長く愛されているVコング02が生まれた。

 現在ではそのVコング02の後継機として、より飛距離が伸びたJコング02が今夏発売された。これからはJコング02が高校野球界に新たな歴史を刻むだろう。


グローブを筆頭に今後も「ええもん」をミズノは作り続ける

 この夏はバットだけでなく、小園海斗(広島東洋カープ1位指名)が使っていた、新色のラディッシュのグローブを出すなど、ミズノは次々と新製品を生み出し、その成長は留まるところを知らない。そしてこれには理由がある。

 「ええもんつくんなはれや」
 
 ミズノ創業者・水野利八氏の言葉である。
 水野氏の口癖だったこの一言が、現在のミズノの信念として根付いている。

 この信念がある限り、ミズノは高校球児をはじめ、野球を愛する多くの人たちのために、より良い商品を生み出し続けるに違いない。
これからも、ミズノを含めた野球用品メーカー各社が、野球の発展と共に最高の道具を生み出し続けるだろう。

文=編集部

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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