Column

イチローが鈴木一朗として甲子園に出場していた時代

2018.08.18

世界を見据えたイチローの高校時代

2016年に最多安打を達成した時のイチロー氏(写真は共同通信社より)

 高校野球は金属バットの導入後(1974年)、野球に変化が生じてきた。それとともに、勢力構図にも変化が表れるようになってきていた。金属バットの特徴をいち早く掴んで時代を席巻したのが徳島池田だった。その徳島池田に倣って、帝京もパワートレーニングを取り入れるようになり力を付けていった。1980年代となって、全国から有望な選手を獲得するルートを確立していたPL学園が圧倒的な力を示して、一時代を築くようになる。そのPL学園の質の高い野球に対して、どう戦っていくのかというのがこの時代の全国の有力校の大きなテーマにもなっていた。

 折しも、時代は63年続いた昭和から平成へと移っていった。90年代は平成の始まった時代でもあるのだ。世界では、前年に「ベルリンの壁」が崩壊し、東西に分裂していたドイツが統一された90年。世界ではラトビア、リトアニア、エストニアといった新たな国が、ソビエト連邦からの独立を宣言していた。

 そんな年に、高校時代から目標は甲子園出場ではなく、世界を見据えて野球をしていこうという考え方の高校球児が甲子園に姿を現している。愛工大名電の鈴木一朗だ。その後にプロ野球オリックスで活躍して、やがて、宣言通りに海を渡ってメジャーで活躍することになるイチロー選手である。
 イチローのいた愛工大名電は、イチローが2年生の時に2年ぶり4回目の夏の甲子園出場を果たしている。この時はエースが伊藤栄祐で後にドラフト5位指名を受けて近鉄入りしている。そして、鈴木一朗は3番左翼手兼控え投手として出場しているが、甲子園では初戦で天理に1対6と完敗する。鈴木は安打1本を放ってはいるものの、特に目立った存在という印象は残していなかった。

 愛工大名電を下した天理はエース南竜次(日本ハム)と1年生の谷口功一(巨人→近鉄)という、その後にプロ入りする二枚看板の好投手を擁しており、2回戦は35年ぶりに甲子園に出場してきた成田猪股広に6回まで完全試合度抑え込まれていながらも9回裏に逆転サヨナラ勝ちの3対2。そして3回戦は仙台育英に6対0、準々決勝は丸亀に7対0と快勝を続ける。準決勝でも西日本短大附に9回二死からサヨナラ勝ち。決勝は沖縄勢悲願の初優勝を賭けた沖縄水産とだったが、天理は4回に犠飛でもぎ取った1点を南が守り切っての4年ぶり2回目の優勝。天理はセンバツ出場後に不祥事が発覚して監督交代などもあったのだが、そんなことを乗り越えての優勝だった。


体温を下げてパフォーマンスアップにオススメの『ベースボールシャツ』は?

ミズノ クールスリーブ
遮熱素材「ソーラーカット」採用のクールスリーブシャツは、涼しく動きやすいぞ!

[page_break:イチローのプロへの第一歩の秘話]

イチローのプロへの第一歩の秘話


イチローの高校時代に新たに登場した9本歯の金具スパイク

 その頃、鈴木一朗が新チームでエースとなった愛工大名電は県大会では東邦、名古屋第一(現中部大一)、愛知大成などを制して県大会優勝。東海地区大会では浜松工静岡と下して同県決勝となった東邦との試合では11対12で敗れるものの、愛知県から2校選出されてセンバツ出場を果たす。

 91年のセンバツに7年ぶり4回目の出場を果たした愛工大名電は、初戦で上田佳範(日本ハム→中日)のいた松商学園と当り、入学当初に「センター前ヒットならいつでも打てます」と豪語して中村豪監督の度肝を抜いたという伝説のあるイチローだったが、上田の前に5打数0安打で、甲子園ではさしたる記録を作り出すことなく姿を消した。
 そして、その年の夏の愛知大会では決勝で東邦に敗退して甲子園出場を逃す。涙にくれるチームメイトを尻目に、淡々と荷物を整理して球場を去ったイチローは、すぐに、その後のプロ入りへ向けて準備を始めていたという。

 その年のドラフトでは、オリックスの三輪田勝利スカウトが「投手としてではなく、あのバットコントロールは天性のものでもあり素晴らしいのでぜひ野手として鍛えてほしい」という思いを伝えて4位指名となった。
 ちなみに、その年のドラフトは4位指名が当たり年で近鉄が大阪渋谷の中村紀洋を広島が東北福祉大金本知憲(広島広陵出身)を阪神が東洋大桧山進次郎平安出身)をそれぞれ4位指名している。また、高校生の1位指名では大阪桐蔭萩原誠(阪神1位)、天理谷口功一(巨人1位)、松商学園上田佳範(日本ハム1位)、東京学館浦安石井一久(ヤクルト1位)がいる。

 なお、イチローが甲子園出場を逃した91年夏は松商学園が3回戦で四日市工と死闘を繰り広げて、延長16回、満塁で最後は上田が頭部に死球を受けるという形の押し出しで勝利している。その松商学園は、準々決勝で星稜との北信越対決ということになったのだが、星稜が3対2で勝利する。その星稜には、2年生の4番打者として松井秀喜がいた。
 そう、つまり日本人選手としてメジャーで活躍したイチローと松井は1年違いだったのである。

 そして当時の用具に画期的な変化が起きた。それはスパイクの金具の歯の数が9本になったということである。

 今は9本歯のスパイクが多く市場に出ているが、当時はそれまでの常識からは考えられなかった発想なのである。このスパイクのコンセプトには、『走る、打つ、投げる、守る』の野球の動きを最適にすることが根底にあり、バイオメカにクスに基づいて開発されたのだった。

 1990年代に突入し、大きな転換期を迎えた用具の歴史。次第に現在使っている用具の形に近づきつつある中で、用具の変化は実はスパイクだけではなかったのだった。なんと原辰徳の高校時代に登場した金属バットにも改革が起きた。


体温を下げてパフォーマンスアップにオススメの『ベースボールシャツ』は?

ミズノ クールスリーブ
遮熱素材「ソーラーカット」採用のクールスリーブシャツは、涼しく動きやすいぞ!

文=手束仁

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.28

大阪桐蔭、大会NO.1右腕に封じ込まれ、準々決勝敗退!2失策が失点に響く

2024.03.28

中央学院が春夏通じて初4強入り、青森山田の木製バットコンビ猛打賞も届かず

2024.03.28

【センバツ準々決勝】4強決定!星稜が春初、健大高崎は12年ぶり、中央学院は春夏通じて初、報徳学園は2年連続

2024.03.28

健大高崎が「機動破壊」以来、12年ぶり4強、山梨学院は連覇の夢ならず

2024.03.28

星稜・戸田が2安打無四球完封で初4強、阿南光・吉岡はリリーフ好投も無念

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.25

異例の「社会人野球→大学野球」を選んだ富士大の強打者・高山遼太郎 教員志望も「野球をやっているうちはプロを狙う!」父は広島スカウト

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】