Column

山田 哲人選手(履正社)「目標が明確になれば、成長スピードも格段に変わる」

2015.07.18

 昨季は高卒4年目にして日本人右打者のシーズン最多安打記録を更新し、大ブレイクを果たした東京ヤクルトスワローズ・山田 哲人選手。
今季も前半戦でリーグトップタイの19本塁打を積み上げ、打率もリーグ4位の.306をマーク。さらにリーグ2位の15盗塁を記録(7月17日現在)。史上初の本塁打王と盗塁王を狙える位置に来ており、打てて走れる新時代の4番打者として、注目を浴びている。

 そんな山田選手はいったいどのような高校球児だったのだろうか。10代後半の成長過程を見守り続けた恩師・岡田 龍生監督に話をうかがうべく、山田選手の母校、大阪・履正社高校を訪ねた。

常に抱いていた「もったいない」という思い

履正社・岡田 龍生監督

 持って生まれた素質だけで野球をやっているという印象の選手でしたね。考えて野球をするという習慣はなく、一言で言うと「粗削りな選手」。しかし、足は速いし、肩はめっぽう強い。「将来的にはプロにいける素材なのでは?」と思ってしまうほどの身体能力の高さを備えていました。持っている素質だけで1年生の時から試合に出れたわけですからね。素材は明らかに飛びぬけていました。

 ただし、自分から進んで、他人よりも努力をするというタイプではなかったし、「野球が好きな子だなぁ」という印象もあまり受けませんでした。「それならうちのような練習のしんどい私立でなく、公立高校で楽しく野球をやる道を選べばよかったのに」と思ってしまったほどです。

 うちの卒業生であるオリックスのT-岡田なんかは「絶対にプロにいきたいです!」という強い信念を持って入部してきました。そうなると我々指導者サイドもプロに行くために必要と思われることを岡田に授けますし、岡田本人も目標達成のために必要な事をどんどん吸収し、高校野球を通じ、さらなる進化を遂げていきました。

 山田も「プロになれたらいいな」くらいの気持ちはあったんだろうけど、その意識、意欲はT-岡田などと比べるとかなり低く、「なにがなんでもプロになるんだ!」という思いは感じられませんでした。

 練習をサボるわけじゃないし、練習は普通にちゃんとやるんです。ただ、自分で「もっと!」と追求し、自らを追い込んでいくという要素が不足していました。いくらいい素質があっても、強い意欲が本人になければ開花させることは難しい。「ああ、もったいないなぁ」というジレンマが常にありました。

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[page_break:頑なに断り続けた副キャプテン就任 / 2年秋に突然訪れた意識の変化 ]

頑なに断り続けた副キャプテン就任

山田 哲人選手(高校時代)

 私は選手たちとは定期的にマンツーマンで話す機会を設けるので、山田本人にも「もったいないなぁ。もっと意識レベルを上げていけたらもっとすごい選手になれるし、プロだって狙えるぞ?」といった話も定期的に本人にしました。でもあまり響いてなかったかな。口では「はい、はい」と言っていても、人の話をちゃんと聞いているのかよくわからないタイプでしたし、いったん耳に入ったとしても、もう片側の耳から抜けていってるようなところがありましたので。

 でも、頭ごなしに怒鳴ったところで、意識なんて上がるものではないですから。根気よく、コミュニケーションをとりながら彼の心を動かせればなと思いながらも、なかなか変わる様子は見られませんでした。

 最上級生になり、新チームが始動しても意欲的になるわけではありませんでした。山田に副キャプテンをやってもらうはずだったんですけど、「やりたくない」と頑なに拒否しましてね。きっとそういう役職に就いて、責任を背負いながら、人にいろいろと言ったりすることが嫌だったのでしょう。結局、「そこまで嫌がっている人間にそこまで無理してやってもらわなくてもいい」ということになって。だから山田の学年は副キャプテンが不在のままでした。

 山田の性格ですか?天然。そしてマイペースですね。彼の性格を鑑みると、高校卒業後は大学野球で、というイメージは湧きませんでした。大学の野球部は部員150人といった大所帯のチームが珍しくない。いわば、自らをアピールする力が問われる環境でもあります。そんな世界で彼が自分を貪欲にアピールする姿は、想像できなかったんです。「それならば卒業後の進路は社会人野球の方がいいのかなぁ」と。

2年秋に突然訪れた意識の変化

 ところが2年生の秋の大会が終わった頃、彼に大きな変化が生じたんです。卒業後の進路を具体的にどうするか、という面談を行っていたときに山田が突然「プロに行きたい」と言い出したんです。
理由?タイミング的にはPL学園戦(試合レポート)での山田自身のエラーによる敗戦が悔しくて気持ちが目覚めたのかなと思ったりもしますけど、実際の所はいまだにわかりません。
とにかく何かがきっかけとなって、彼の中で野球の世界で上を目指すという欲が生まれた。

 びっくりしましたけど、「今の意識のままじゃプロは無理だ」とはっきり言いました。「本当にその気があるのなら、もっと高い意識で日々の練習に取り組まないといけない」と。そこからですね、彼が一生懸命、貪欲に練習に取り組みはじめたのは。

 ちょうど冬のきつい練習が始まる時期だったのですが、明らかに取り組み方が変わりました。冬の過酷なトレーニングから逃げず、正面から向き合ったことで、細かった体もぐっと逞しくなりました。
意識が変わり、取り組み方が変わったことで、元々持っていた素質はものすごいスピードで開花していきました。3年の夏を迎える頃には「これなら高卒でプロに送り出しても大丈夫だな」と思えるまでになっていました。

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[page_break:人間は意識が変われるだけでここまで変われる / マイペースは変わらないが「ペース」が変わった ]

人間は意識が変われるだけでここまで変われる

山田 哲人選手(高校時代)

 山田の変貌を目の当たりにして思ったんですよ。2年の秋以前の山田は目標がぼやけていたから、ぼやけた取り組みしかできなかったんだなと。
でも目標が明確になったことで「プロに行くためには何をしなくてはいけないか」ということを一生懸命、具体的に考えるようになった。目標がクリアになったことで、ぼやけていたプロセスもクリアになっていきました。

 2年の秋以降の山田はそれまでとは180度違う山田でした。コーチたちとも「あれは本当に山田なのか?」とよく言ってたのですが、欲に溢れていましたね。
意識が変わるから結果が出る。結果が出るからますます意欲的になる。あの時の山田は成功体験が次の成功体験を呼ぶというサイクルが生まれていた。人間がぐっと伸びる時の条件をすべて満たしていた感じでした。

 私自身も「人間は意識が変わるだけでここまで変われるんだ!」ということを山田の成長過程を通じて実感することができました。指導者として貴重な経験ができたと思っています。

マイペースは変わらないが「ペース」が変わった

 意識が変わったと言っても性格が変わったわけじゃないんです。マイペースの性格は変わらずですから。でもマイペースの「ペース」は大幅に変わりました。意識が変わる以前のマイペースのスピードが時速30キロだとしたら、2年の秋以降は時速90キロくらいにスピードアップした感じ。すると野球のパフォーマンスも3倍くらいのスピードで伸びていくものなんです。

 でも誰かに「スピードを90キロに上げろ!」と強制されていたら今の山田はなかったと思います。自分の中で湧き上がった欲だったからこそ、結果的に90キロに上がった。長い間、高校野球の指導者をしていて思うのですが、やはり人にああしろこうしろと言われながら仕方なくやっているうちは、たいした結果は出ないものです。やはり本人の意識が変わらないと、パフォーマンスだって変わらない。人に言われてやっているうちはたいして上手になることはない。私はそう確信しています。

教え子・山田 哲人選手へのメッセージ

 今後は東京ヤクルトスワローズというチームのリーダーとしてやっていける人材になっていってほしい。そのためにも、チームを引っ張り、若手の手本となれる存在になることを今の段階からしっかりと意識してほしいんです。それはきっと野球選手としてのレベルアップにもつながると思います。副キャプテンを頑なに断った高校時代とは大きく変わったところをぜひ見たいですね。シーズンオフに入ったら、母校に足を運んでください。一段と成長した君に会えることを指導者一同楽しみにしています。
(履正社高校・岡田 龍生監督)

(取材・構成:服部 健太郎


注目記事
・第97回全国高等学校野球選手権大会特設ページ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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