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実は巧打者だった村上宗隆の中学時代。恩師が語るスラッガー覚醒の瞬間

2023.01.14

 ヤクルト・村上 宗隆内野手(九州学院出身)は2022年史上最年少でのセ・リーグ三冠王を獲得し、名実ともに日本プロ野球界の顔となった。先日発表となったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の第1次代表メンバー12人にも選出。2023年も一挙手一投足に注目が集まるが、村上が中学時代の3年間でプレーしたのが、熊本県美里町で活動する熊本東シニアだ。

 昨年で創設34年を迎え、村上以外にもソフトバンク1軍・吉本亮打撃コーチを輩出した強豪で、チームを率いる吉本幸夫監督は30年近くにわたり指導に携わっている。

 今回は吉本監督に、村上の中学3年間の成長、そして人柄について振り返っていただいた。

中学時代は長打よりもミートの上手い選手

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侍ジャパン・村上宗隆(九州学院出身)

 私が最初にムネ(村上)を見たのが、小学校5年の時です。2歳年上のお兄さん(友幸さん)がチームに入団して、お母さんに連れられてきてグラウンドにやってきました。キャッチボールをしたり、他に来た友達と遊んだり、その辺をウロウロしたり、本当に甘えん坊の頃から見てます。

 小学校6年生の11月くらいからムネも入団しましたが、当時は体も小さく、周りより大きい印象は全くありませんでした。お兄ちゃんが投手だったので、後ろを守ってエラーして怒られたりとか、そんな姿がすごく印象的に残っていますね。

 実力的にも目立って上手いわけではなくて、学童の中で少し上手いかな、というぐらいです。元気は当時から良かったですけれども。

 それでも同期の中では中心選手で、2年生から3番を打たせていました。先輩たちの中でも打撃力はありましたが、大きな当たりを打つというよりも、いい当たりを打てるかなぐらいの感じ。長打よりも、ミートの上手い選手という印象の選手でした。

 テレビでは私が中学時代に撮影した映像がよく出ていますが、中学2年生の7月頃の映像です。そんなにすごいスイングというわけではなく、逆に今の選手たちには「中学2年生でこれくらいのスイングでも、将来は村上選手のようになれるかもしれないよ」と言っているくらいです。

 また九州学院では捕手をやっていましたが、捕手をやらせたのは2年生秋のムネたちの代になってからです。それまではずっとセカンドをやっていたんですよ。その経験も今に繋がっていると思います。

[page_break:転機となった九州選抜での台湾遠征]

転機となった九州選抜での台湾遠征

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熊本東シニア・吉本幸夫監督

 ムネにとって転機となったのは、冬に九州の選抜チームに選ばれて台湾に行ったことだと思います。秋の大会は3回戦まで進みましたが、ムネはヒットを1本しか打つことができませんでした。彼自身もとても悔しかったと思いますが、選抜チームの監督さんに「この子は連れて行った方がいいですよ」と言ったんです。

 その時のチームメートは、元オリックスの西浦颯大さん(明徳義塾出身)が1番、ソフトバンクの増田 珠選手(横浜高出身、内野手)が4番を打っており、ムネはその中で3番を打たせてもらいました。ですが、そこでレベルの高さを痛感したようで、それが成長の一つのきっかけになったと私は思っています。

 大会から帰ってきて、練習への意識がかなり変わりましたね。トレーニングにも精力的に取り組むようになり、3年生になって球がかなり飛ぶようになりました。もちろん体が大きくなったこともありますが。

 フリーバッティングでは、体の中で打とうと指導していました。踏み込みの足を開き気味に引っ張るだけではなく、逆方向にティーを打たせたりして、バットを押し込むような形で内から出すように指導していましたね。

 長距離ヒッターという感じになったのは本当に3年生からです。当時のグラウンドはライト側は狭くて、レフト側は100メートルくらいあったので、よく「レフトに引っ張れ、左中間にフライを打て」という言い方をしていました。

 現在の打撃を見ても、インコースの打ち方は上手いし、レフト方向への打球もとても伸びますよね。そういった指導も、今の打撃に少しでも繋がってるのかなと思っています。

[page_break:人のプレーで喜べる真っ直ぐな人間性]

人のプレーで喜べる真っ直ぐな人間性

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高校時代の村上 宗隆(九州学院)

 長距離ヒッターとして大きく成長していったムネですが、キャプテンシーもすごくあったんです。彼らの代ではキャプテンを任せましたが、一つ上の先輩たちの中でキャプテンになってもおかしくなかったですね。ノックの時はずっと内野に声をかけ放しで、それは驚くぐらいでした。

 キャッチャーをやらせても、投手がフォアボールを出すと私たちが言わなくてもマウンドに駆け寄ったり、内野手をやっていた時も先輩投手のもとにすぐに駆け寄っていき、励ましの言葉をかけていました。

 九州学院の坂井宏安前監督も「あいつは世話好きのおばちゃん」と言っていましたが、本当にその通りで、人のプレーで心から喜べるんです。だから先輩からも可愛がられるし、自分のプレーでも上手くいくのかなと。本当にお茶目で憎めない大阪のおばちゃんという感じで、あの子はこのままずっといきそうな気がするんですよね。

 あとうちは、「卒団式が終わった後の半年間はすごく大事だよ」といつも選手には話をしています。高校に入学した時に、監督はある程度1年後、2年後のチームを描きますが、最初に力を見せておかないと構想から外れてしまうことも考えられるからです。だから自分の課題を練習したり、しっかり体を動かしておこうといつも言っているのですが、ムネは必ずグラウンドに来て練習していましたね。

 一人で黙々とマシン打撃を行なっていて、普通はいい当たりをすると満足してしまいますが、驚くことにムネはだんだんマシンに近づいていき、通常の3分の2ぐらいの距離で打撃練習をするんです。もっと、もっと、という感じで。

 我々に言われて練習する選手ではなく、自ら練習できる選手だったなと思います。他にも、当時はキャッチャーだったので、ストップウォッチでセカンドスローのタイムを測ったり、人が言わなくても自分なりに目標を持って練習していました。

 やっぱりその辺が違ったんでしょうね。今の選手たちにも言っていますが、自分には嘘をつけないだろうと。自分の中で「今日は何をやる」と目標を決めて、自分と約束をする。我々には「やりました」と嘘をつくことはできるかもしれないけど、自分には嘘をつけませんから。ムネのように自然とそういうことができる子が、上手くなっていくんだろうなと思います。

(記事=栗崎 祐太郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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