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優しい人柄はプロの世界でも。超一流捕手&高卒初のプロ野球選手会会長の炭谷銀仁朗の平安の3年間

2020.08.21

 現在、日本プロ野球選手会第9代会長を務めている巨人の炭谷銀仁朗。2005年の高校生ドラフト1巡目で西武に指名されると、高卒新人捕手としては17年ぶりとなる開幕スタメンを勝ち取った。その後も2013年と2017年のWBCで侍ジャパンに選出されるなど、球界を代表する捕手として活躍。昨年からは巨人に移籍し、激しいレギュラー争いを繰り広げている。そして8月20日、通算200犠打を達成した。

 夏の甲子園中止に伴い、全国各地で開催された独自大会の支援を行う目的で日本プロ野球選手会から日本高野連に1億円を寄付することが発表している。炭谷は選手会会長として、未来ある球児のためにできることを考え、行動に移している。球界のために奔走している炭谷について、平安(現龍谷大平安)時代の恩師である原田英彦監督に語ってもらった。

小さい時からグラウンド通い。銀仁朗が平安にいくのは必然だった。

優しい人柄はプロの世界でも。超一流捕手&高卒初のプロ野球選手会会長の炭谷銀仁朗の平安の3年間 | 高校野球ドットコム
炭谷銀仁朗選手

 原田監督は炭谷の存在を、「3、4歳くらいから知っています」と笑顔で話す。それは父の英毅さんが平安で原田監督と同級生だったからだ。英毅さんは入学当初こそ野球部に入部したが、野球部のない中学校に通っていたこともあり、実力差を感じて1年生の間に退部。その後は応援部に移り、3年生の時には応援団長として野球部に声援を送っていた。

 その後、1993年8月に原田監督が就任した際には同級生で「監督を応援する会」を結成し、英毅さんは会長を務めるようになる。こうした縁もあり、銀仁朗少年は毎週のように当時は亀岡にあった平安のグラウンドに脚を運んでいた。当時の炭谷の印象について原田監督はこう振り返る。

 「いい子でしたよ。お父さんもお母さんもいい人間で、特にお父さんは人の世話をしてくれるようないいお父さんだったので、その夫婦の子だなと思いましたね」

 こんなこともあった。原田監督が就任して初めて甲子園に出場した1997年のセンバツでは部員が21名しかおらず、アルプススタンドに野球部員がいない状態。それは寂しいということで原田監督の同級生の子どもにユニフォームを着させて、アルプスを彩った。そこには当時小学生の炭谷もいた。

 小さい頃から平安に慣れ親しんできた炭谷が原田監督の下に来るのは必然だった。プロ入りを目指していた炭谷に原田監督はあえて他の選手よりも厳しく接したという。

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炭谷銀仁朗選手

 「彼が『平安を名乗ってプロに行きたい』と言ったので、この子の夢を実現してやらなイカンという想いがありました。小さい時から見ていますし、彼がどんな性格をしているかも全て知っていました。凄く優しい子なんですよ。そしていい子なんですよ。プロで長く勝負しようと思ったら、そこが邪魔な部分なんですよね。競争に勝ってナンボですから。そういう力をつけてやらなイカンと思ったので、人より厳しくしました」

 捕手として将来を期待されていた炭谷だが、一度は捕手失格の烙印を押されたことがある。それは2年生に上がる直前のこと。平安では恒例となっている3月の沖縄遠征で1学年上のエースだった服部大輔のワンバウンドになるスライダーを止められず、1勝もできずに終わってしまったのだ。

 これを機にディフェンス力のある上級生を捕手に起用し、炭谷は三塁手にコンバートされた。しかし、これもいい経験になったのではないかと原田監督は話す。

 「悔しかったと思いますよ。でもね、サードというポジションで4番を打たせて、ちょっと打撃の部分で楽になったところもあると思います。それと野手から見るという部分でいい勉強になったと思います」

[page_break:挫折を味わった時期が超高校級捕手のスキルを身に着けた]

挫折を味わった時期が超高校級捕手のスキルを身に着けた

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原田英彦監督

 新チームになってからは再び捕手に戻り、主将としてチームを引っ張る立場となった。最上級生になってからの取り組む姿勢は目を見張るものがあったという。

 「もう二度と同じことはしないと、居残ってワンバウンドを止める練習をしたり、本願寺を走ったり、毎日努力をしていました。それは知っています。あの年代のチームは個性が強かったんですよ。それをまとめるのはしんどかったと思うんですけど、アイツは自分がやって背中を見せるタイプだったので、そういう姿勢は貫きましたね。甲子園には行けなかったんですけど、精神的な部分で凄く成長したと思います」

 打撃面でも成長を見せ、高校通算48本塁打を放った。最後の夏は京都大会の準決勝で敗れたが、高校球界を代表する捕手と言われるまでになった。当時は高校生と大学・社会人でドラフトが分かれており、炭谷は西武から1巡目で指名される。その報告を聞いた時、原田監督は感激のあまり、涙を流したそうだ。

 「メッチャ泣きました。子どもの時から見ていますから我が子のように嬉しかったです。あの小さかった銀がプロ野球選手になるのか、とね。」

 西武に入団してからは順調な出足を見せる。春季キャンプの際には伊東勤監督に「守備では教えることないです」と言わしめるほど、高い守備力をアピールし、捕手の高卒ルーキーでは谷繫元信(元横浜、中日)以来17年ぶりとなる開幕スタメンに抜擢された。

 開幕3日前に電話で炭谷から開幕スタメンに選ばれたことを知らされた原田監督。是が非でも見に行きたいと思っていたが、開幕戦の日がセンバツ高校野球の解説と重なってしまっていた。それでも関係者に頼んで夜行バスと試合のチケットを手配してもらい、選手たちをインボイスSEIBUドーム(現[stadium]メットライフドーム[/stadium])に向かわせた。原田監督は現地に行くことはできなかったが、解説の合間に炭谷の活躍をチェックしていたという。その時のことを原田監督はこう振り返ってくれた。

 「信じられない。だって、卒業して2ヶ月も立ってないような子がプロの1軍で出るんですよ。夢のようでしたね」

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炭谷銀仁朗選手

 その後はレギュラーに定着できない時期もあったが、ベストナイン1回、ゴールデングローブ賞2回のタイトルを獲得するなど、日本トップクラスの捕手になった。

 また、2017年12月からは高卒選手として初となる労働組合日本プロ野球選手会会長に就任。プレー以外の面でも球界を先導する存在となっている。こうした現状も原田監督にとっては信じられないようだ。

 「高卒で会長になるのは今までなかったみたいなので、そう思うと彼の人望、人間的な部分を高く評価してくれていると思いますね。やっぱりいい子ですわ。それも信じられない。選手会の会長をしているなんて、ビックリしますよ」

 いい子と評判だった少年は競争の世界に身を置いてからも、優しさを失わずに野球界のために奔走している。そんな炭谷も今年でプロ15年目を迎えるベテランとなった。原田監督は第一線で活躍を続ける教え子に対して、次のようにメッセージを送ってくれた。

 「僕も高卒で13年間、社会人でやらせてもらったんですけど、長く野球をする方がいいです。僕もこうして60歳になっても野球に携わらせてもらっていますけど、やっぱり野球っていいですよ。そう思えば体を大切に長く野球をやってほしい。長く見たい。それが本心です」

 プロの世界で長く生き抜くのは並大抵ではない。そんな中で15年間も現役を続けている炭谷は原田監督にとって自慢の教え子だ。これからも恩師を喜ばせるような活躍をしてくれることだろう。

(取材・文=馬場 遼

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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