Column

千葉ロッテ・鳥谷敬(聖望学園出身)の恩師が語る。鳥谷が超一流へ到達できた理由

2020.03.28

 現役では2位となる2085安打を記録し、今季から千葉ロッテでプレーする鳥谷敬聖望学園出身)。どんな大選手でも必ず通るのが高校野球だ。鳥谷の高校時代はどう過ごしていたのか。恩師である岡本幹成監督に話を伺った。

鳥谷、チームを変えた2年秋の県大会敗退

千葉ロッテ・鳥谷敬(聖望学園出身)の恩師が語る。鳥谷が超一流へ到達できた理由 | 高校野球ドットコム
鳥谷敬(千葉ロッテ)※共同通信

 

 プロでは2005年から2017年までフル出場。身体の頑丈さはプロ野球選手の中でもずば抜けている。だが高校時代から鉄人のような選手ではなかった。高校1年生のとき、膝の成長痛のために、すぐにプレーができなかった。それでも岡本監督が鳥谷の復帰を待った。

「彼が所属していた瑞穂シニアは、聖望学園に進む選手が多かったので、その指導者から鳥谷の能力の高さは聞いていましたし、まず治ってから復帰するのを待とうと思いました」

 そして入部したのは成長痛が治った1年秋からだった。ポジションは無理をさせずショートではなく、セカンドからとなった。徐々に運動量を増やしていきながら、ショート転向となる。

 復帰してからの鳥谷のプレーについて岡本監督は「肩は本当に強かったですし、成長痛があったとはいえ、それ以外の体の強さはありましたし、話を聞いていた通りの選手だったなと思いました」と振り返る。

 そして2年夏前には投手も兼任する。
「当時、鳥谷の学年には投手が少なかったこと、また速球投手がいなかった。肩の強い鳥谷を任せることになりました」

 鳥谷は投手を兼任しながら、2年夏で登板を重ねた。しかし投手経験が少なく、多くの球数を投げた影響で、右肩を故障してしまう。リハビリを行い、2年秋まで間に合うも、県大会で県大会優勝した鷲宮に0対1に完封負けを喫してしまう。この負けは聖望学園ナインに火を付ける。岡本監督はひたむきに冬のトレーニングを取り組む選手たちを見て、「あの負けが選手たちを変えたじゃないでしょうか」と感心しながら見ていた。そして一冬超えると、埼玉県大会優勝を収め、そして関東大会ではベスト8進出を果たし、優勝候補に挙がり、初の甲子園出場も狙える位置にきていた。この時、鳥谷はチームでは欠かせない存在へ成長していた。

「人柄ですか?もう高校時代は無口でした。目立つことない選手ではありましたが、それでも実力はありましたし、野球部でも、友達関係の中でもリーダー格の選手となっていました」

 岡本監督はこのチームについて甲子園にいける手応えを感じていた。

「今みたいに寮がなかったので通いばかりでした。夏の大会が始まって、負けるまで合宿をはじめました。

 当時は通いの子ばかりで、野球以外で一緒になる機会もあって、プラスな面が出たと思います。毎日ミーティングが終わった後に帰るのではなく、ミーティングが終わった後も、大会も1回戦、2回戦とやっていく中で、一緒にいていろいろ話し合って、チームがまとまってきたと思います。」

 

 チームは快進撃を続け、埼玉大会初優勝を果たし、見事に甲子園出場を果たす。鳥谷自身もあの合宿は非常に大きなものだったと振り返っている。
「みんなで泊まり込みをしているので、良いことも悪いことも、本音を言い合えたことが良かったと思います」

[page_break:地道な取り組みを積み重ねる。それが今の鳥谷を作った]

地道な取り組みを積み重ねる。それが今の鳥谷を作った

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恩師・岡本幹成監督

 だが甲子園では初戦で日田林工は1対3で敗れた。それでも鳥谷はリリーフで143キロをマークするなどプロ注目選手として片鱗を見せつけることはできた。岡本監督は甲子園を振り返って、「あの試合は監督が悪かったですね。初めてで、何も分からなかったですから。選手たちは一生懸命やってくれました。あの年は、私にとってもようやっと行けた甲子園でしたから。20年経っても中身が濃い1年でした」

 岡本監督は今の選手たちに鳥谷のエピソードを紹介する時、鳥谷の凄さではなく、甲子園に出場した選手たちの一員として話をしている。

「あの時、鳥谷だけが飛び抜けて凄かったというわけではなく、全員がまとまって強くなっていたチームでしたし、鳥谷もチームの一員という認識で、勝利するための努力できる選手でした。その姿勢というのは大学、プロに入ってからでも失われていないですし、報道を見ても意識の高さはさらに進化していると思います」

 鳥谷のチームは聖望学園の後輩たちに大きな影響を与え、2003年夏甲子園ベスト8、2008年春の準優勝を果たすなど、毎年埼玉県上位に入る強豪へ成長した。

 岡本監督は当時のチームを「聖望学園の歴史を変えたチーム」と評する。そしてプロ入り後、2085安打、歴代4位となる歴代4位の連続フルイニング出場667試合などの名記録を打ち立てて、球界を代表するスターへ成長し、聖望学園の歴史を語るには絶対に欠かせない選手となった。改めて岡本監督は鳥谷の成長をどう見ているのか。 

「はたからみたら凄い選手ですけど、だから高校の時はすごい選手だったんですよね?どんな指導をしたらあんな選手になったんですか?と聞かれることが非常に多いんです。だけれど、コツコツと一歩上に上がっていた選手なので、身体能力は確かにありますけど、高校時代から今のように地道に練習を重ねるスタンスは変わらないですよね」

大きく目立たない。それこそがここまで長く現役を続けている理由だと岡本監督は説明する。

「高校の時からスターというわけではなかったと思うので、だから長い事ができたと思うんですよね。人間はサボりたいという気持ちがあると思います。
 実績をつめば、もういいかなとなりがちなんですけど、高校時代からコツコツと積み上げている強さなんでしょうね。落ちても下まで絶対に落ちないですよね。

ぱっと目立っていく選手は、何かあったときは下がる幅も大きいので、だけど本人はコツコツと積み上げて、すごい記録を作った。鳥谷はその年(1年)だけがずば抜けた記録はないでしょ?

(長い期間)、積み上げたきたものは、人には絶対抜けないもの、人にはやれないものばかりじゃないですか。

 たとえば、この1年、打率が良かった、首位打者をとったというわけではないので、本当に積み重ねであそこまでなった選手でしょう。だから監督としてとてもありがたい選手でした」

そして千葉ロッテ入団が決まった教え子をこうたたえた。

「今回は行き先が決まらなくて、『もういいや』と思いがちです。それでも声がかかったときに動けるために、見えないものを信じてトレーニングをやれるのは大したものだと思いますよ。だから今年は頑張ってもらいたいですね」

 地道な積み重ね。これは簡単なようで一番難しい。しかし鳥谷はそれを無駄にせず、多くの選手では簡単に超えられない大きな実績を積み上げた。今度は舞台を千葉に移し、新たな伝説を作り上げる。 

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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