松本剛(帝京)「二度の都大会初戦敗退を乗り越え、3度目の甲子園出場は大きな価値があった」
これまで多くのプロ野球選手を輩出している帝京。北海道日本ハム期待の若手・松本剛もその1人である。高校通算33本塁打の長打力と俊足を誇る大型遊撃手だった松本は1年夏から甲子園出場を経験。二季連続で甲子園出場を果たし、順風満帆な高校野球人生に思えたが、2年夏、3年春で甲子園を逃し、その期間、コールド負けや二大会連続都大会初戦敗退と、苦しい時期を味わった。最後の夏に3度目の甲子園出場するまでどんなストーリーがあったのか。帝京の前田三夫監督に当時のエピソードについて語っていただいた。
今ならばできないボール禁止月間
高校時代の松本剛
「入学当時、走攻守三拍子揃った選手で、彼は、高卒プロのいける可能性は十分にあると思いました。なんといっても人とは違う身体能力を持っていましたからね。さらに華があった。このまま順調にいけばプロに注目されるだろうなと感じました」
1年夏、2年春に甲子園に出場。順調に一流選手の道を歩んでいたが、2年夏にはノーシードからスタートし、東東京大会5回戦でコールド負け、さらに2年秋の都大会でも3対5で敗れ、またも甲子園出場を逃す。前田監督も「苦しい時期でしたね」と振り返る。
そして一冬超えてからも都大会も苦しい戦いが続く。初戦(2回戦)で世田谷学園と対決し、0対6の完封負け。またも夏はノーシードからスタートとなる。このままでは厳しい戦いになると見た前田監督は荒療治を行う。なんと1ヶ月以上、ボールを握らせなかった。
「冬の練習そのものですね。みんな耐えてくれました。あのままでは夏も厳しいとおもっていたので、選手の気持ちを変えるしかなかった。だからボールを持たせず、持たせた時の反応を見たいと思いました。だから一ケ月以上持たせなかった。それでチームが強くなりました。今はなかなかできない。そんなことやったらみんな辞めていきますよ。」
なぜそれができたかといえば、この代の選手は2回も甲子園にいっている一方で、コールド負け、二度の都大会初戦敗退という、天国と地獄の両方を味わっているから。
「みんな大舞台、夢舞台というものを知ってるから、分かっているんですよ。これではいけないというのが。これではダメだよ、俺たちも変えなきゃ、というのがね。分かっているからできたんです。何も解っていなきゃ(つまんねえな)ということでみんな辞めてしまいますし、やらせていません」
言うならば、前田監督は選手の気質に合わせて指導をしていること。ちなみに今年の帝京は守備重視の野球だが、自発的に守備のフォーメーションについて考えて取り組む選手たちを見守るスタンスをとっている。
大谷から決勝打を放ち、勝負強い選手へ成長
前田三夫監督
ボールを使うことが解禁になってから選手の目の色が変わった。松本も含めて選手たちについて前田監督は「ひと皮もふた皮も剥けました」と振り返る。そして夏の大会に入ると、快進撃。
その中で主将としてチームを引っ張った松本剛は快打を連発。そして決勝戦の関東一高戦では本塁打を放つ。
「関東一高戦での松本のホームランは印象深かったです。ガッツポーズ挙げてましたもんね、打った瞬間。打った手応えというよりも、“俺たちは甲子園に行くんだ”という手応えを彼らは感じていたから、“どうだ!”というガッツポーズだったと思います」
苦しい期間を味わい、ついに掴んだ3度目の甲子園となった。初戦では大谷翔平擁する花巻東と対戦。前田監督は「スタンドが大谷、大谷!という感じでとてもやりづからなかったですよ」と振り返る中、松本は7回表、大谷から決勝打となる右前適時打を放つ。
「あのタイムリーは大きかったですよ。正直言って(松本が打てるかな)と思ったんですが、打った。(コイツ、大したもんだな)と、その時また改めて思った。あの大谷を打ったというのは、彼にとって大きいと思います。あの大谷を打って勝ったというのは、ウチにとってひじょうに大きかったです」
2回戦で八幡商戦では2ランを放つも、逆転満塁本塁打を浴び、2回戦敗退。ここで松本の夏が終わった。
まだまだやれる選手。気分一新して、もう一度飛躍を
そして北海道日本ハムから2位指名を受けた松本はプロ2年目の2013年に一軍初出場、プロ6年目の2017年には115試合に出場し、初の規定打席到達を果たし、2020年は35試合に出場し、52打数18安打、打率.346と入アベレージを記録し、キャリアハイの成績を残す勢いだ。
前田監督は松本がなかなか結果を残せず、苦しい時期を送っていた時、こう話していた。
「彼は人のいいところがあるんですよ。それを貪欲にね、もうプロだから。そのへんがついてきたら、良いものがあるからもっと活躍できると思います。一時は侍に入って、『おお、よく頑張ってる』と。彼の良いものが出てるなという感じがありましたが、もう一回、気分一新してやってもらいたいですね」
松本は高校時代から天国と地獄を味わい、最後の夏で自分の能力を発揮した選手である。挫折を乗り越え、活躍できる実力を持っていた。
約2年の苦しみを乗り越え、さらなる飛躍を期待したい。
(取材・文=河嶋 宗一)
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