甲子園を湧かせた超スローカーブの使い手の「気遣い力」 西嶋 亮太(東海大札幌卒)
大阪桐蔭が優勝した、2014年の第96回全国高等学校野球選手権大会、敦賀気比の猛打や、健大高崎の機動力などが印象に残る試合だった。だがその中でも筆者の印象に大きく残っているのは、東海大四(現在は東海大札幌)西嶋 亮太の「超スローカーブ」だ。
168センチ、59キロの小さな体から、常時130キロ中盤〜130キロ後半のキレのあるストレート、そして120キロ台のスライダー、100キロを切るカーブを自由自在に操る西嶋。その西嶋が、九州国際大付との試合で投じた「超スローカーブ」に、阪神甲子園球場 がどよめいたのを覚えている。(続く2回戦の山形中央戦でも投じた)。
この1球について大脇 英徳(おおわき・ひでのり)監督は
「あのスローカーブは、原貢さん(※1)が生きておられたら、『お前何教えてんだ!野球なめんなよ』と絶対怒られてましたよ」
※1 大脇英徳監督の恩師でもある東海大系列野球部名誉総監督の故原貢
と言わせる1球であった。
今回は、阪神甲子園球場 という大舞台で「超スローカーブ」を投げきれる西嶋投手について考えてみたい。
西嶋亮太が一番印象に残ってます
ノックをする大脇英徳監督(東海大札幌)
大脇監督に、指導者としてのキャリアの中で一番印象に残っている選手を聞いた際に
「西嶋 亮太が一番印象に残ってます」と即答してくれた。
「僕も今の生徒に言うんですけど『気遣いさせない気遣い』こそが究極だと思うんですよね。先に準備をして相手に気遣いをさせない気遣い、そういった話はチームの中でもするんですけども、そういう時は西嶋くんの話を生徒にしますね」
大脇監督がこのように語るように、大脇監督から見た西嶋は、『究極の気遣い』が出来る選手だったというのが伺える。では、その『気遣い力』は、どのようにして養われたのだろうか?
大脇監督は、野球だけでなく日頃の生活から出来ていたことと話してくれた。
「授業中でも何でも絶対変な噂が流れてこない。適当にやってるはずなんですけど、完璧な評価しか聞こえてこないんですよ。この人と監督はつながっているから、この人とはちゃんと付き合っていかないとか、だからといって計算してわざとらしくはしない。全体を把握出来ているんです。そういうことは野球に生きていると思いますね。常に周りの状況の変化を把握しています。そういうことは野球に行ってると思いますね」
笑いながら大脇監督が語ってくれた。
それは、天性の才能だろうか?答えはNOである。
「すごい、いろんな情報をキャッチしていました。空気が読める、周りが見える、そう自然に感じさせる為の努力をしていましたね」
「集中力であったり、情報収集であったり、あの人はこうだからこういう風にしないといけないとか」
そう、西嶋は『究極の気遣い』をするための、それ相応の努力をしていたのである。
[page_break:西嶋の心技体の全てが詰まった『超スローカーブ』]西嶋の心技体の全てが詰まった『超スローカーブ』
甲子園を沸かせた西嶋 亮太
『究極の気遣い』ができるからこそ、あの場面で超スローカーブが投げきれるのである。
西嶋は、球場の雰囲気がどうなるのか、その後の周りから出る意見はどうだろうか、などの判断も出来た上で投じた1球なのである。
そう考えながら、再度あの当時の「超スローカーブ」を思い出してほしい。
あの1球の後ろに、これまで西嶋が積み重ねてきた、心技体が見えてくるはずだ。
超スローカーブをコントロールできるだけの練習、そして投手としてのずば抜けた技術、周りを見渡せる『究極の気配り力』。
西嶋の人間力が詰まった1球であることを覚えておいてほしい。
西嶋は東海大四を卒業後、JR北海道野球クラブに入り、現在は野球からは引退している。ただし、西嶋の「気遣い力」は、どこの世界でも通用する力だ。どこにいても西嶋は野球同様クレバーであるに違いない。
(取材・文=栗崎祐太朗)