秋山拓巳【後編】「大化けの理由は目的の明確化」
昨年は西条(愛媛)高卒8年目で12勝をマーク。虎のエース格に駆け登った秋山 拓巳(阪神タイガース)。2009年にドラフト4位で入団し、ルーキーイヤーに4勝をあげた以来の歓喜を聖地・甲子園にもたらした。では、188センチ97キロの恵まれた体格を持つ右腕は高校時代、どんな日々を過ごしてきたのか?今回は、当時の西条高監督、現在は新居浜南高で監督を務める田邉 行雄さんに当時のエピソードを語って頂きました。
後編では大化けした2年秋以降についてお話頂きました。
恩師が語るヒーローの高校時代 秋山拓巳【前編】人生を変えた『2年夏の一戦』を読む
「勝てる投手」の扉を開け、春夏連続甲子園へ
国体で好投を見せる秋山 拓巳投手
2年夏の新人戦後に、秋山にもう1つ話をしたのは「お前はいい投手だけど、勝てる投手ではない。今度は9回まで抑えられる、勝てる投手になろう。」ということ。結果、3年夏の愛媛大会までには体重も95キロになりましたし、ストレートは最速150キロ。ツーシームとカットボールも投げられるようになりました。よって苦し紛れのストレートが減って、投球の幅ができ、ピッチングができるようになったんです。
2年秋は愛媛県大会で危ない試合もありましたが、準々決勝の松山聖陵戦に徳永が投球で救ってくくれたことで、秋山も救われた。秋山にも強烈なライバル意識を持つ徳永の存在が彼を育ててくれたと思います。(結果は県大会・四国大会優勝、明治神宮大会ベスト4)本当に新人戦後の「あの2カ月」で大化けしてくれました。
実は、一昨年までの阪神タイガースでの彼を見ていたら、西条の1年夏から2年夏までの「どうしよう」という感じに僕には見えました。それが昨年は「何をすべきかわかっている」姿に見えた。2年秋の「あのころ」とそっくりでしたね。
2009年の夏前に、ハワイ州選抜との親善野球があった時、愛媛県選抜で一緒だった済美の宮崎 太郎(法政大~Honda鈴鹿)からカットボールを教わったことも大きかったです。翌日の練習試合では面白いように三振が取れ、夏の愛媛大会も準々決勝で帝京第五の平井 諒(東京ヤクルトスワローズ)相手に最高の試合をして、春夏連続甲子園に出られました。
甲子園は、センバツこそ全く周りが見えないまま戦ってしまいましたが(2009年春はPL学園に0対1で敗戦)、夏の初戦、八千代東は「帰ってきた」という気持ちで冷静に戦えました(3対2で勝利)。明豊戦は以前の練習試合で6対6で引き分けていたんですが、勝利への執念が足りなかったと思います(0対4で敗戦)。
秋山は2年秋の四国大会準決勝・高松商戦でバックスクリーンに満塁ホームランを打って、打撃でも話題になりました(高校通算48本塁打)。ただ、本当は四国大会前の打撃状態は最悪。何度も特打ちをさせて、バッティングの感覚をつかませたことを覚えています。逆に状態のいい時は腰がよく回って、太ももの付け根が痛くなるくらいでした。
高校での上昇過程と悔しさ糧に、「10点満点」を目指せ
2009年ドラフトで阪神4位指名後・西条高のチームメイトと写真に収まる秋山 拓巳(中央)
秋山は一度上がったらその状態をキープする能力には長けていると思います。実際、高校時代も2年秋に急激な上昇カーブを描いてからは、「一切ダメ」という内容がほとんどなく卒業していきました。
2009年10月の新潟国体では帝京戦に完封し、2試合目で150キロを出したんですが、ドラフト後に阪神タイガースさんのスカウトからは「あれが指名する上で決め手になった」と言われました。
実はこの150キロには笑い話があって、西条の前の試合で花巻東の菊池 雄星(現:埼玉西武ライオンズ)が150キロを出した時、[stadium]HARD OFF ECOスタジアム新潟[/stadium]の観客が沸いた。それを見て秋山はブルペンから全力で投げて150キロ。スタジアムが同様に沸いた時に「ニヤリ」としていました。そんな童心も持っているヤツなんです、秋山は。
ドラフト当日は事前に「上位指名」という話もあったので、4位指名で決まった時は安堵感と悔しさが交じっていました。笑顔はなかったです。その時の「悔しさ」が今の彼を支えていると思いますし、成長につながっていると僕は思います。
昨年、四死球率の少なさは素晴らしかったですし、シュート回転しないストレートを投げられるようになったこともすごいと思います。今季はもう1つストレートの球速とフォークに磨きをかけてほしい。昨年に二桁は挙げたので、次は阪神タイガースのエース。次に日本を代表する投手になり、10点満点中「10点」になって愛媛県の野球少年に希望を与えてくれれば。彼はそのポテンシャルを持っていると思います。
僕も彼が高校時代に体験してきたことを新居浜南の選手たちに伝えつつ、一週間に一度の「秋山 拓巳・先発登板」を楽しみにしています。
(取材・文=寺下 友徳)
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