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秋山拓巳【前編】人生を変えた『2年夏の一戦』

2018.02.04

 昨年は西条(愛媛)高卒8年目で12勝をマーク。虎のエース格に駆け登った秋山 拓巳(阪神タイガース)。2009年にドラフト4位で入団し、ルーキーイヤーに4勝をあげた以来の歓喜を聖地・甲子園にもたらした。では、188センチ97キロの恵まれた体格を持つ右腕は高校時代、どんな日々を過ごしてきたのか?今回は、当時の西条高監督、現在は新居浜南高で監督を務める田邉 行雄さんに当時のエピソードを語って頂きました。

 また、今回は高校時代の秋山 拓巳投手、初公開の蔵出し写真も紹介していきます。

1年夏、ライバルの快投後に学校で泣いた日

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秋山投手を指導した田邉 行雄さん

 僕が秋山に初めて会ったのは、今治東から西条に転勤した2007年4月。つまり秋山たちと僕は同時に西条高校へやってきました。

 以前から「西条リトルシニアから凄い選手が西条高校に入学する」という話は聞いていたんです。その時は「西条にはいつもすごい選手が入学するじゃないか」と思っていたくらいですが(笑)。でもいざ転勤するとなれば、西条は常に甲子園を狙わなければいけない名門。「自分がどうやって指導するか」ということだけを考えていました。

 そして実際に彼らに会った時、僕は「この選手たちであれば甲子園にいかなければいけない」はっきり思いました。それが秋山はじめ、井下 (真志・3年時主将・外野手・横浜国立大~現;台灣啤酒棒球隊)、徳永(翼・投手兼外野手・専修大)、司馬(知明・一塁手・同志社大)らの年代でした。

 秋山のキャッチボールを彼の後ろから最初に見た時、球筋には驚きでした。ボールにスピンがかかって、バッテリー間も近くてリリースも高い。「すごい世界だな」と。入学時から136~137キロは出ていました。

 ただ、秋山は入学当時の申告は85キロだったんですが……スポーツテストでの体重は97キロ。10キロ以上さばをよんでいて。「これはいくらなんでもデカすぎるだろ」ということを思っていたら、夏場になるとあちこちに痛みが出て、球速も130キロを切った。体力が全くなかったんです。逆に徳永は135キロくらい出ていましたから、1年夏の愛媛大会では徳永に背番号「20」を付けさせて、秋山はベンチ外にしたんです。

 2回戦の伯方戦、8点リードの8回裏に徳永を投げさせたら三者三振でコールド勝ち。その後です。秋山は学校に戻ったら「おりゃー!」と吠えながらブルペンで投げていました。よほど悔しかったんでしょう。刺激になったんだと思います。

[page_break:「甘さ」との闘いを越えて]

「甘さ」との闘いを越えて

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秋山 拓巳投手

 「これで1年秋からは頑張ってくれるな」。1年夏にそんなことがあったので、僕はそう信じていました。ただ、1年秋になっても球速は戻らない。そのころには徳永も肩を痛めて投げられない。県大会1回戦の宇和島東戦で上級生が打たれたので投げさせたら、最終回に自分の適時打で勝ち越したにもかかわらず、その裏に4点取られてサヨナラ負けでした。球速は132キロくらいです。

 練習に身が入らないわけではない。周りの評価を見ても「いい子」。いわゆる野球少年です。でも、それゆえに秋山は1年冬も苦しんでトレーニングする方向を選ばなかった。僕も強制はしませんでしたし、「やれるだろう」という考えはあったんですが、それは今考えると甘かったと思います。

 2年夏になると球速は139キロになったんですが、2年春の県大会準々決勝の松山聖陵戦(2対6)でも、序盤は完ぺきに抑えても中盤から捉えられる。2年夏も2回戦の八幡浜戦でサヨナラ負け。ブルペンで50分ほど待機することになったら秋山のスタミナがなくなって、最後は投げるボールがなくなって、1・2・3のストレートを狙い打たれた。練習試合で見えない課題が公式戦の終盤で出てしまう。そして最終学年になった最初の公式戦となる東予地区新人戦で、決定的な出来事がありました。

 準決勝で今治西に7回11失点でコールド負け。すぐに帰って嫌がる秋山を体重計に乗せたら「108キロ」です。ここで話をしました。「これじゃ戦えない。この秋、勝負をかけなかったら、高校野球自体が終わってしまう」。すぐに泣きじゃくりながらジャンパーを着て、ポール間走をしていました。

 ここからです。秋山が「本気」になったのは。(後編を読む)

(取材・文=寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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