Column

武田 翔太投手(宮崎日大-福岡ソフトバンクホークス)「成長のターニングポイントとなった大分遠征」【vol.2】

2017.03.21

武田 翔太投手(宮崎日大-福岡ソフトバンクホークス)「意識高く、練習を大切にする投手 右肩上がりの成長のかげに」【vol.1】

第2回では成長の分岐点となった大分遠征や最後の夏の大会の模様を追っていきます。

きつい練習でも顔に出さず黙々と取り組める姿勢が武田にはあった

「2年生の5月の大型連休の遠征でした。3試合を組んでいて最初の試合で大崩れし、1イニングで10点取られたことがありました。どんな投手でも年に1回ぐらいは相手の間合いに合ってしまったり、バットを振ったところにボールを投げてしまうことはあるもので、滅多に大崩れしたことのない武田もそうだったのでしょう。ただ私は『そんなことでエースが務まるか!』と頭にきて、次の試合はライトでフル出場、3試合目は最後の9回を投げろと命じました。投げて打った上に、最後の登板の準備で合間は走るという試練を課しても、彼は嫌な顔一つせずにこなしていました。

 試合で納得いかないことがあれば、ブルペンで投げ直すことはよくさせていましたが、彼は言われなくても自分でそうしていたようです。バッテリーノートは私もつけさせていましたが、彼はそれとは別の手帳を持っていて、自分の悪かったところ、つかんだものをしっかり書き留めていました。ブルペンで投げることは大好きで、自分の居場所のように思っていた。ブルペンを嫌がる投手で大成する投手はいないと思います。

 冬場のトレーニングはタイヤ押しなど身体を作るメニューが中心になりますが、一番きついメニューは多分『雑巾がけ』だったと思います。多分、武田に聞いても苦笑いするでしょう(笑)。校舎の中に端から端まで70メートルぐらいの廊下があって、そこを雑巾がけしながら往復する。雑巾を持っているから肩の筋肉も使う。ラグビーのスクラムのような姿勢で前進するわけですから、下半身も鍛えられる。原始的な方法かもしれませんが全身をまんべんなく使うので相当にきついです。私も試しにやってみましたが、1回でダウンしました(苦笑)。

 これを何往復もするわけですから、慣れない下級生は最初間違いなく吐きました。走り込みは、ダラダラと走るだけでは意味がありませんから、必ずタイムの目標を作っていました。学校の敷地は1キロちょっとありますが、武田の場合は水を入れたペットボトルを持って4分以内で走るのがノルマでした。長中短の様々なメニューを組み合わせて、トータルで1日5から10キロ走るような練習をしていました。

 ウエイトトレーニングはチームとして取り入れたことはありません。私は高校生のうちはナチュラルな力、打撃は打つことで、投球は投げることでつく力を重要視していたので、『筋肉の鎧』は必要ないと考えています。ウエイトをやるなら故障予防で、武田にも『上にいってからやればいい』とアドバイスしたことを覚えています」

[page_break:成長の分岐点となった大分遠征]

成長の分岐点となった大分遠征

武田 翔太投手(宮崎日大-福岡ソフトバンクホークス)「成長のターニングポイントとなった大分遠征」【vol.2】 | 高校野球ドットコム

高校時代の武田 翔太

「武田がエースとして成長する一方で、チームはなかなか上で勝てなかった。うまい選手は何人かいるのですが、武田のように大きな打球を打てる4番の器の選手がいなかった。武田が投げる試合は、逆に野手の方が緊張したのかもしれません。3点取れば間違いなく勝てるから、確実に点を取ろうと野手の方が緊張する。

『1点を確実に取る野球をやっていなかったか?』とある指導者に言われました。思い当たることは多々ありました。1点をどうしても先に取りたいので、走者が出たら確実にバントで送る野球をしていました。そうなると攻める方がガチガチになって結果的に常に接戦になってしまう。『好投手がいるときほど、行け行けで野球をやった方がいい』というのがその指導者のアドバイスでした。武田のときも最後の夏まで1点を争う接戦続きでした。指導者としての教訓でした」

 チームとしてはなかなか優勝などの結果には届かなかったものの、実戦と練習を積み重ねた武田が「何かが変わった」と、明らかなターニングポイントになる試合が河邊さんにはあるという。3年生5月の大型連休中の大分遠征だった。

「一言でいえば、角が取れて丸みが出たということです。今までも良いものは持っているけど、どこか角張っていましたが、滑らかな動きになった。長く見ていたスカウトの方にも『あそこから何かが変わったね』と言われます。軽く投げているのにボールはくるし、キレもある。対戦した打者は手が付けられず、前に飛ばすことさえ困難だと感じたと思います。投手をやったことがある人間なら、誰でも頭の中で理想の投球のイメージは持っている。しかしそれを現実に身体で表現できる投手はなかなかいない。武田自身もおそらくそのイメージをずっと追求しながら練習を続けていた。理想とする投球と実際の投球がピタリと一致したのがあの大分遠征の試合でした。

 本人も私も、その試合の時には『今日は良かったな』と思うぐらいでしたが、後々振り返ればあの試合が分岐点だったと思えるような出来事でした。プロに行ける投手の素質はそんなことに気付けるかどうかというのも大きい。武田よりも素材が良い投手がいても、気づかない投手はいつまでも気づかないものです。それに気づけた武田は本物のプロになれる素質があったといえると思います」

[page_break:屈辱の準々決勝敗退]

屈辱の準々決勝敗退

武田 翔太投手(宮崎日大-福岡ソフトバンクホークス)「成長のターニングポイントとなった大分遠征」【vol.2】 | 高校野球ドットコム

河邊 寿樹氏

 5月の遠征で投手として一皮むける体験をして、チームとして14年ぶりとなる夏の甲子園を本気で目指したが、宮崎日大は準々決勝で鵬翔に0対1で敗れ夢は果たせなかった。

「今の野球は良い投手が1人いるだけではなかなか勝てない。この夏はシードされていたので、初戦から決勝まで5試合を勝ち抜かなければならず、武田には5試合完投できる体力をつけておけと言ってありましたが、それは相当難しいとも分かっていました。

 鵬翔戦は初回、一死二塁で良い当たりのショートライナーで併殺、途中にはランナー三塁、犠牲フライで1点のところがホームタッチアウトで併殺となかなか点が取れず、1対0、2対1で勝負がつく接戦でした。あの頃の武田は投球のコツをつかんで、味方が先に1点取りさえすればまず負けないだろうと思わせる投球をしていました。しかし相手の鵬翔のエースも1つ下でしたが好投手で、絶対に負けたくない闘争心があったのでしょう。お互いにその1点が遠いまま、終盤を迎え、ご存じのように9回で足がつって降板し、代わった投手が打たれて0対1でサヨナラ負けというまさかの結果で終わったのです。

 8回か9回の打席で、武田が何でもないショートゴロ、アウトだったのに一塁でヘッドスライディングをしたんです。それまであいつがそんなことをするのを見たこともなかったし、させたこともありません。指をケガしたらそれだけで終わってしまう危険性もありますから。本人は『自然に反応した』と話していました。なかなか点が取れない中で何とかしたいという気持ちの表れだったのでしょう。でもそれで身体が悲鳴を上げてあのつりにつながったのではないか。1年夏に同じようなことがあって、トレーニングにもケアにも十分に取り組んできたつもりだったのに、最後の夏がああなってしまって、勝たせてあげられなかったことが指導者として申し訳なく思われた出来事でした」

 武田と河邊さんの対話から、一流投手というものはここまで感じ取ってプレーしているのか、意識高く持ってプレーしているのかを気付くはず。最終回は河邊さんが武田投手へ熱いメッセージをいただきました。

(取材・文=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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