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鈴木 誠也選手(二松学舎大附-広島東洋カープ)「高校時代の誠也に伝え続けたこと」【前編】

2016.12.03

 この1年でプロ野球ファンから認知される一流選手となった広島東洋カープの鈴木誠也。 2012年のドラフト会議にて広島東洋カープから2位指名を受けた鈴木はプロ1年目から一軍出場・安打を記録。そして高卒4年目となった今シーズンは129試合に出場し、29本塁打、95打点と大ブレイクした。

 鈴木の活躍について緒方 孝市監督は「神ってる」と表現。この言葉は流行語年間大賞となった。そんな鈴木の活躍の原点を知るべく、高校3年間、鈴木を指導した市原 勝人監督に伺った。

高校1年のときから野手としてのプロ入り選手と評価していた

鈴木 誠也選手(二松学舎大附-広島東洋カープ)「高校時代の誠也に伝え続けたこと」【前編】 | 高校野球ドットコム

市原 勝人監督(二松学舎大附)

 中学時代(荒川シニア)、4番エースとして全国ベスト8を経験した鈴木誠也。そんな鈴木について市原監督は、鈴木の父親である宗人さんと友人ということもあり、小さい頃から知っていた。
「(鈴木)誠也は僕と同じ小学校(荒川区立第五峡田小)、中学校(荒川区立第九中)ですから、地元の友達の子供という印象が強いですね」

 そして二松学舎大附に進んだ鈴木は1年夏からスタメン出場。東東京大会2回戦の國學院戦で5番ファーストとしてデビュー。3回戦の駿台学園戦で敗れたが、7打数2安打1打点とまずまずの成績を残す。

 鈴木は1年秋にはエースとなり、秋は都大会3回戦で敗れたが、投打の中心選手へ成長していた。市原監督はそんな鈴木について、このときからプロに行く才能を持った選手であることを感じていた。
「投打で期待されていましたが、やはり打者でプロに行く選手だと思っていました。足の速さ、肩の強さはずば抜けていた選手でしたから。そして打っても本塁打を打てるパワーも十分にありました」

 なぜ投手としては上のレベルで厳しいと感じていたのだろうか。
「投手としては最速140キロ以上と言われているように、高校生レベルならば速いです。ただ速い割に打たれるところが誠也にはあった。それは目に見えない球持ちというところで課題がありました。また彼はスピードがある投手でしたので、スピードガンで速い数字が出ると、それが先行して噂になってしまうところがありましたからね。一部では147キロといわれていますけど、私はそれほど出ていないと思います」

 140キロ台を出したとしても、投手として厳しいと感じていた市原監督は、打者としてプロ入りする選手だと考えていた。市原監督が鈴木に厳しく指導していたことは「全力疾走の徹底」だった。
「誠也に常に話していたのは、一塁まで全力疾走をするということです。スカウトの方々は、誠也が本塁打を打てて、球速が出せる投手であるということはみんな分かっています。では他に何を見ているか。それは一塁まで駆け抜けタイムです。

 そしてただ単に足の速さを測っているのではなく、その選手の姿勢も見ています。抜いているのか、本気で走っているのかは、タイムを見ればわかりますからね。ただ誠也は下級生の頃、速いボールを投げたいという気持ちだったり、遠くへ飛ばしたい気持ちが強かったと思います」

[page_break:全力疾走をすることで野球をもっと深く見てほしい]

全力疾走をすることで野球をもっと深く見てほしい

鈴木 誠也選手(二松学舎大附-広島東洋カープ)「高校時代の誠也に伝え続けたこと」【前編】 | 高校野球ドットコム

二松学舎大附時代の鈴木 誠也選手

 一塁まで全力疾走を徹底させる狙いはプロに行くためだけではなく、もっと野球というスポーツを深く見てほしいという意味合いも込められていた。

「全力疾走を怠ることなくやることで、野球というスポーツがどういうものなのか?ということも分かってほしかった。全力疾走をすることで、野球の価値観も変わってきます。これは本当で、一塁まで全力疾走できるようになると、今度は先の塁を狙おう、さらに隙さえあれば、二塁、三塁をという気持ちになる。相手の隙をつくには、細かいところまで目につく視野の広さがなければなりません。そういう感性は単に技術練習では身に付きません。普段の学校生活や、掃除も大事になってくるんです」

 細かいところまで目につくようになるとプレーに対する視野が広がる。プロ野球で活躍するにはそこが一番だと考えている。

「ホームランを打ったり、ファインプレーなど華やかな活躍ができる時はごくわずか。野球は目に見えない精神的なもの、全力疾走や取り組む姿勢など裏側の部分もとても大事になります。だから見えるところだけで一生懸命やっていても、それは見せかけで本物ではない。見えないところでも一生懸命やるのがプロだと思います。掃除にしてもそうです。表面的にキレイに見えてもゴミ箱をどかしたら汚ければ、意味がないでしょう。だからこそ苦手な練習や掃除、学校生活をしっかりと取り組むことが大事なんです」

 市原監督の話は、社会人に置き換えても通用する話である。

 最初は遠くへ飛ばしたい欲求や速い球を投げたい欲求が強かったという鈴木だが、上級生になるにつれて、学校生活や苦手な練習に取り組むなど意識が変わってきた。きっかけとなったのは2年冬、東京都高野連が年末に行ったロサンゼルス遠征の代表メンバーに選出されたことだ。この代表メンバーには楽天から指名された池田 隆英創価創価大)、佐々木千隼都立日野桜美林大関連記事)と錚々たるメンバーがいたが、市原監督は彼らと一緒に野球ができたことが大きかったと語る。

「やっぱりレベルが高く、意識が高い選手が非常に多かった。そういう選手たちとプレーすることができたのは彼にとってプラスになったと思います」

 鈴木はこの遠征で3本塁打を記録。高校時代の鈴木は意外にも公式戦の本塁打は少ない。ロサンゼルスの活躍は身体能力抜群のスラッガーとして大きく印象付ける活躍でもあった。

「みんな誠也のことをスラッガー、スラッガーというんですけど、公式戦の本塁打はそんなにない選手で、見たことがある人はいないと思いますよ。練習試合ではよく打つんですけどね。ああいう遠征試合で本塁打を打てたのは誠也にとって大きな試合だったと思います。またこの時期から意識が変わってきたのは、プロというものがリンクしてきて、自分の目標が明確になったんでしょう。彼自身、スカウトは全力疾走するなど細かいところを見ているということを自分から気づき始めてので、だいぶ取り組みは変わってきたと思います」

 後編では最後の夏でのエピソードや今の活躍に思うことを市原監督に語っていただきます。

(取材・構成=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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