成瀬 善久投手(東京ヤクルト)が語る「エースのマインド」
インタビュー時間が終了に近づき、成瀬 善久投手に最も聞いてみたい質問をぶつけてみた。
成瀬投手はロッテ時代、2010年から3シーズン続けてリーグ最多の被本塁打を喫している。
得点に即つながる本塁打を打たれることに、成瀬投手はどう考えているのだろうか。また、打たれてしまった後はどうやって気持ちを整理すればいいのか。
少々聞きづらい質問だが、インタビュアーとして絶対に聞かなければならない質問だ。思い切って聞いてみると、成瀬投手は興味深い発想を教えてくれた。
ホームランを打たれた後の切り替え方
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――ところで、成瀬投手はホームランを打たれた後……。
成瀬 善久(以下「成瀬」) 打たれてないです(苦笑)!
――いや、どうやって切り替えていますか?
成瀬 ああ、行っちゃったなって感じですよ。
――そういう割り切りが大事?
成瀬 まあ、打たれ方ですよね。出会い頭ってあるんですよ。甘く行って打たれるなら、自分なりに納得なんですよね。でも、いいコースで打たれると、「なんで今、あそこで首を縦に振っちゃったんだろう?」とか、「あれがもうちょっとうまく変化したら、打たれていなかったのかな?」とか、いろいろ考えちゃうんですよ。
――投手心理はそういうものなんですね。
成瀬 3ラン、満塁ホームランは避けなければいけないけど、ソロだったら打たれていいと思っています、別に。1点で収まっているので、割り切っていい。2ランもしょうがないかなと思いますね。
――下手にランナーをためるよりは、1点で済むという考え方ですね。
成瀬 そうです。コントロールがある程度良いからこそ、ちょっと甘く行くとホームランになりやすいということがあるので。相手に狙いを張られやすいというのも、そういうところだと思います。でも、それでは済まされないのがプロの世界。いかに相手の考えていることより、1個上にいくのかも必要だと思います。
――打者は得意なポイントから少しズレたところに、打てないところがあると言われますよね。
成瀬 そうです。だから困ったら、ど真ん中に投げるのもありかなと思うときもあります。
――ど真ん中?
成瀬 いいバッターと対戦するときって、意外と「いいコースに投げると、逆に打つんじゃないか」と思うんですよ。「逆にど真ん中のほうが、打ち損じるんじゃないか」と感じるときがあります。
――予測していないから?
成瀬 そうです。それもひとつの手なのかなと思っています。相手から「このピッチャーはいいコースに投げ切れる」と思われていて、それがちょっと甘くなると簡単に打たれるわけで。逆に「ど真ん中、逆球なら、打たれないんじゃないか」というときもあります。
――それも含めての駆け引きなんですね。
成瀬 それはすごく感じます。勇気を持って、ど真ん中に投げるのも必要なのかなと思います。
――たまにやるんですか?
成瀬 苦しくなったらたまに、ざっくりとど真ん中に構えてもらうときもあります。バッターは「来る」と思ってないので。それを中途半端に、どちらかのコースに寄るから打たれるわけで。
「ど真ん中には来ると思ってないから」って、広島の新井(貴浩)さんも言っていました。それってひとつの駆け引きです。しょっちゅうど真ん中ではダメですけど、たまにはいいと思います。
マウンドで孤独の戦いを強いられる投手は、その場に登るまでのメンタルコントロール、そして勝負の先鋒に立つ者としての立ち振る舞いが重要になる。
今年ヤクルトに移籍した成瀬 善久投手は移籍後初登板で勝利して以降、先発としての仕事を果たしながら、結果に報われない試合が続いた。そんなとき、投手はどうやって振舞うべきなのだろうか。
ましてやエースという立場になれば、チームメイトの目は特に注がれている。チームの大黒柱が揺らげば、支える周囲に不安が伝わることも否めない。
自分の調子が良いときに勝つのは、プロの投手なら当たり前だ。うまくいかないときこそ、投手はどうやって苦境を乗り越えるかに真価が問われる。
エースとして自覚を持つには
成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)
――成瀬投手と話していて感じるのは、すべての事象について、自分に責任を持たせている方ですね。
成瀬 そうなんですかね。責任を取らなきゃっていう年齢になってきたんですよ。言い訳していても結局、自分に返ってくるし。「何かあったら自分で責任を負えばいい」って思っているので。だから、責任を持ちながら行動することも大事だと思っています。
――そういう考え方は、エースになる前からしていますか?
成瀬 いや、立場が立場になってきてからだと思います。高校のときは正直、何かあったら逃げたいと思った部分もありましたけど、プロに入って1軍になって上の人の姿を見て、変わりましたね。清水(直行)さんが移籍して、2010年に開幕投手をやらせてもらったときには、自分が逃げている発言を下手にしてはダメだと思いました。後輩ができて、ちょっと厳し目に接するようになってしまいましたね。
――周りはエースの姿を見ていますもんね。
成瀬 見られているという自覚はすごくあったので。だから、自分からべらべらしゃべりには行きたくないというのがありました。新人の子が毎年、春のキャンプに来るじゃないですか。僕、しゃべりかけるなという雰囲気を出すんですよ。なんでかと言ったら、僕がしゃべることによって、1軍の練習に必死でギリギリついてきているヤツらに邪魔しちゃう部分もあるし。
――自分がストイックにやってきたから、後輩にもそう思うんですか?
成瀬 初めてのキャンプでは気を遣う部分もあるし、練習でしんどい部分もあるので。彼らに余裕ができてから、声をかけてあげたいという感じなんです。だから、自分から話しに行かないようにしていました。今年はチームを変わったので、「自分から話さなきゃ」って思っていますけどね。
――今年はヤクルトに来て1年目ですが、成瀬投手の実績はみんなが知っています。「これくらい勝てよ」という期待があるじゃないですか。
成瀬 あります。プレッシャーを感じますよね。やっぱり勝てないと、辛い。何のために来たのかと言うと、力になるために来たっていう思いがあるし。だから、いまはすごく複雑です。勝ってないから、悔しいし。でも、「どうしよう。俺、連敗しているよ」っていう弱みを見せちゃいけない、というのも本音だし。負けていても前を向かなくてはいけないと思います。そういう姿を若い子に見せなきゃいけないという思いがあるので。
FA選手に求められるハードルは非常に高い。投手、野手もタイトル争いに絡む活躍を示して当たり前という期待の中、やらなければならない。成瀬投手が語るように、プレッシャーを感じながら1年を過ごしている。これはプロ野球選手に限らず、高校球児ならば、甲子園出場ができて当たり前、甲子園で勝てて当たり前という環境の中でプレーする球児は同様の感想を持つかもしれない。そんな時、成瀬投手のプレッシャーの向き合い方は参考になるはずだ。
(文・中島 大輔)
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