Column

【三年生座談会】県立松山工業高等学校(愛媛)【前編】

2015.09.26

弱い僕らがベスト8に進んだ「キセキ」

 2015夏の愛媛大会。第1シード・今治西の3年ぶり13回目優勝の傍ら、2つの「○○年ぶり」が大きな話題を集めた。
1つは秋や春はベスト8常連となっている松山北、意外とも言える「61年ぶり」ベスト4。そしてもう1つは松山工の「35年ぶり」ベスト8である。特に秋・春共に中予地区予選敗退に終わっていた松山工の躍進は、目の肥えた多くの高校野球ファンを驚かせた。

 ただ、そこには多くの確かな理由がある。今回は高校野球での経験を糧に新たな世界へ羽ばたこうとしている3年生6人の座談会から、誰もが努力すれば起こしうる「キセキ」を追っていきたい。前編はどこにでもある野球部が徐々に変化していく過程を・・・・・・。

<出席者>
福﨑 亮太(3年主将・捕手・背番号2)
池田 牧穂(3年・捕手・背番号12)
片桐 真之介(3年・二塁手・背番号4)
玉井 慎吾(3年・一塁手・背番号3)
竹田 伊吹(3年・右翼手・背番号9)
成松 昌彦(3年・左翼手兼投手・背番号7)


笑顔があふれる3年生6名(県立松山工業高等学校)

「史上最弱」から「自分からする」へ

福﨑 亮太選手(県立松山工業高等学校)

――まずは時計の針を一年前に戻して頂いて、新チーム立ち上げのときの様子はどんな感じでしたか?

福﨑 最初はまとまりがなく声も出ていなかったですね。主将になることは想定内でしたけど、自分も声を出せず(皿海 拓生)監督からも注意されました。

成松 確かに福﨑は前チームから主力でしたけど、声を出すキャラクターではなかったですからね。

片桐 そして僕らの代は「松山工業野球部史上最弱の代」と最初に言われて。普通はそこで反抗心が出るものでしょうが、それもなく・・・・・・。

一同 (苦笑)。

玉井 旧チームのとき、福﨑や成松が主力組で遠征していたときに1年生との紅白戦を組んだら、勝ちましたが9回まで0対1。そして2人が入った状態で学年対抗戦をしたらボロ負けして。そこから僕らも気持ちが入りました。

――中予地区新人戦松山東に延長10回タイ・ブレーク勝利も、松山西には3対10コールド負けでした。そこからはどんな練習を?

竹田 塁間でのボール回しやキャッチボール。トスバッティングも含め「10回連続で成功しないと終わらない」練習をしました。今振り返れば最後の夏は送球のミスが少なくなっていましたね。

僕らの熱い夏 2015

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大コンバートと朝の自主練習で成長のきっかけをつかむ

池田 牧穂選手(県立松山工業高等学校)

――ところが、秋の中予地区予選内子との初戦で3対6負け。

玉井 先発した僕が流れを作れず。

竹田 僕が他の部活からの助っ人に3安打目を打たれたのが効いて負けました。

福﨑 冬の練習は毎年走るのがキツイので、「少しでも冬練を遅らせたい」という想いでスタートしたのに初戦で負けて。みんな、走るのは嫌いなので。やる気0です(笑)。

一同 (笑)

――そしてみなさんが嫌がっていた冬練習がスタートしてしまいました。

成松 ランメニューが100・400・1000・3000m。ネットまでの70m往復ダッシュ。外周で(松山)城山に行ったりしての坂ダッシュとか。

片桐 トレーナーの地獄筋トレメニューが週3回あって、その後も走っていたのでキツかったですね。

――それと同時に大コンバートもあったようですね?

池田 僕は最初外野手、そこから捕手に来て、一塁手に一瞬行って捕手です。

竹田 最初は外野手。1年終わりから投手兼任。そして秋に打たれて外野手です。

福﨑 最初は投手希望で入学したんですが、2年時は遊撃手。新チームではたまに投手しながら二塁手以外全部やって、捕手。けがで一時一塁手をやりましたが、捕手に戻りました。

成松 最初は外野手希望。一時投手もしましたが、いろいろあって外野手に戻りました。

片桐 入部時は外野手希望だったんですが、1年生大会前から二塁手でずっとやりました。

玉井 投手を昨秋クビになって(笑)一塁手になりました。

――朝練習もこの時期にスタートしたと聞いています。

片桐 松山工業の朝は自主練習なんです。先輩たちも自主練習で力を夏前に上げましたし、当初はティーをしたかったので、重信(幸輝・3年)とペアになって2人だけでしていたら、福﨑や、三好(雅信・3年)、池田や2年生が来るようになって。
朝練習を続けることで自分の打撃やチームの意識が高まってきたと感じています。

池田 2年生の石崎(真継)と田内(龍成)が誘いにも来てくれて。自分もバッティングを鍛えたかったので参加しました。

――でも、普段の練習は全国大会出場経験豊富なサッカー部の練習を縫ってですよね?

一同 バックネット方向やライト方向に打撃を打ったり、サッカー部が終わる19時過ぎから全体練習をしたり。そして平日の練習が終わるのはいつも21時過ぎですね。

 かくして朝練習の人数が徐々に増え、「やらされている感MAX」から「自分でやる」に変化していく松山工。「努力しても結果が出るかはわからないが、努力しないと結果は出ない」を身上とする皿海監督もこっそり朝練習を眺めつつ、彼らの成長を肌で感じていた。そして迎えた春、彼らは新たな「ライバル」を手に入れることになる。

僕らの熱い夏 2015

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[page_break:誓った「打倒・松山北」と練習試合での刺激]

誓った「打倒・松山北」と練習試合での刺激

片桐 真之介選手(県立松山工業高等学校)

 中予地区予選1回戦で済美平成に快勝し、県大会出場に王手をかけた松山工だったが、松山北の前に行く手を阻まれる。しかもスコアは8回裏に3点差を逆転されての「7対8」。彼らの目標はこれで定まった。

――春の県大会中予地区代表決定戦は松山北の前に惜敗でした。この試合を振り返ると?

成松 4回に自分がマウンドに上がって四球・犠打・四球となった後、一度同点に追い付かれたことが流れを悪くした要因だと思います。

片桐 ただ、球速が遅かったり、サイドスローの投手に対し、今まではバットを振り回して三振していたのが、ストレートは逆方向・変化球はセンター方向に引き付けて打てるようになったのは収穫でしたね。

竹田 僕も春の(松山)北戦では8回裏ピンチの場面で打たれて同点にされてしまった。僕も含めて「やらないかん」という雰囲気に、この試合の後からはなりました。

――そういえば、この時期は松山東の大躍進(試合記事)もありました。

片桐 自分たちが新人戦で勝った松山東が二松学舎大付(東京)に勝ったことで、これまでの「甲子園には行きたいけど、いけないやろ」が「甲子園に本気で行きたい」に変わりました。

池田 僕も今治市立菊間中で同期、当時は下位打線で全然ヒットも打てなかった石山 太郎(3年)が遊撃手でヒットも打っていたのには驚きました。

――4月になると1年生も入学してきました。下級生からいい刺激も受けたのでは?

玉井 僕は杉本(大海・2年)にポジションを取られないように、ウエイトとかを黙々とこなしていましたね。

福﨑 捕手として言えば、田内(2年)は投げたいボールがあるときはクビを振ってでも投げてくるので、そこに気を遣いながら変化球主体で。貞廣(竜宇・1年)はストレートにキレがあるので、そこを主体に投げるようにしました。

成松 練習試合の打率や打点が出されるので、そこでも競い合っていました。「数字にこだわれ」とは(皿海)監督からも言われて勝負もしていたので、自分のホームラン(高校通算10本塁打)や、チームの打率も上がったと思います。

――それはいいですね。チーム内盗塁王、打点王とかも決めるのですか?

成松 はい。僕は打点と本塁打の2冠。

竹田 僕は打率です。

福﨑 最多盗塁です。

片桐 僕は最多安打です。

*ひとしきり「バント王」など含めた個人タイトルの話が続く。

――そんなことを踏まえ、夏への手ごたえをつかみ始めたのはいつですか?

福﨑 5月から6月にかけて13連勝があったころですね。6月の広島遠征でも広島工業に6対4で勝ち、岩国高陽東と対戦したこともいい経験になりました。田内、貞廣、成松の投手継投パターンができて、4点に抑えて5点を取って勝つパターンができたことも大きかったと思います。

 旋盤で金具を削るように少しずつでも、堅固なものとなってきたチームとゲームプラン。こうしていよいよ松山工3年生にとって「最後の夏」がやってきた。

(取材・構成=寺下 友徳)

僕らの熱い夏 2015

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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