「フォークを自在に操るには」
レッドソックスの絶対的な救援投手として2013年には世界一の立役者になった上原 浩治投手。ただそこに至る道は平坦ではなかった。巨人のエースとして君臨し、99年と02年の2度、沢村賞にも輝いた上原投手がメジャーに移籍したのは09年。すぐに先発ローテの一角になったが、その後、度重なるケガに見舞われ、一時は引退も考えたという。
しかしリリーフに活路を見出すと、セットアッパーでもクローザーでも、持ち前の安定感を発揮。今年40歳になるにも関わらず、昨年、2年総額1800万ドル(約19億6000万円)と言われる好条件で、新たにレッドソックスと2年契約を結んだ。上原投手が信頼を勝ち取った証である。
今回はそんな上原投手の“スゴさ”に迫りました。宝刀・フォークボールや、精密機械とも称される制球力の秘密、さらにはメンタル面まで、深い話を披露していただきました。
フォークボールでもあっても自在に操りたい
上原 浩治投手(ボストン・レッドソックス)
プロアマ問わず、投手の球種が増えている中、上原投手は実質、真っ直ぐとフォークボールの2つで勝負している。そしてこの2つを駆使して、現在のメジャーでの地位を築き上げた。
上原投手がフォークボールを修得したのは、巨人時代のプロ1年目(99年)。以来、フォークボールにこだわり、磨き続けている。上原投手は「フォークボールであっても(ただ落とすのではなく)、投げたいところにきちんと投げたいと思っています。今もどうすれば自在に操れるか、追及しているところです」と話す。
では、フォークボールを自在に操るためのポイントは何か?上原投手に訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「これは最低限のポイントですが、真直ぐと全く同じ腕の振りで投げることです。ほんの少しでもフォークを投げる気配があれば、バッターは気が付きますからね。打者からすると“真直ぐが来る”と思うフォームで投げるよう、心がけています。今も理想としているのは野茂 英雄(元ドジャースなど)さんのフォークなんですが、野茂さんも真直ぐと同じフォームから落としてました」
ただ、腕の振りのスピードは、真直ぐとフォークとでは若干異なるそうで、上原投手は「フォークの時は真直ぐの時より気持ち速く腕を振っている」と教えてくれた。
いくつか種類があるのも、上原投手のフォークボールの特徴だ。日本時代は深く握って大きく落とすフォークと、浅く握って投げる落差が小さいフォークの2種類を投げていたが、メジャーに移籍してから「縫い目を動かしてシュート回転させている」というフォークも加わり、今は「スライダー回転のフォークが投げられるよう練習しています」
自分が持っているものをいかに光らせるか
上原 浩治投手(ボストン・レッドソックス)
最近は“普通の高校生投手”も、スライダーやチェンジアップ、さらにはシーム系やカットボールもと球種が多い。上原投手もこうした傾向を知っているようで「変化球に関する情報が多いからかもしれませんが、不器用な僕からすると、いくつも投げられて羨ましいですよ。真直ぐも僕より速いですしね」と言って笑う。しかしすぐに真顔になるとこう続けた。
「高校生は成長段階なので、いろいろな球種にチャレンジするのはいいと思います。結果、いくつも投げられるようになれば、それに越したことはないですが、いざという時に頼れるボールを1つ見つけるのも大切かと。平均的なレベルの持ち球が4つ5つあるよりも、自分の中で飛び抜けた変化球があった方が、大学、社会人とその先を考えてもいいような気がします。
それと情報に惑わされないようにもしてほしい。今は各方面でプロの握り方が公開されてますが、ただ真似をしても同じようには変化しません。それはその人に合った握りであると理解して、自分なりの握りを見つけるための、参考程度にしてほしいと思います」
フォークの進化に注力するがあまり「スライダーの投げ方を忘れた」という上原投手。ただそんな上原投手にも「球種を増やしたいと考えていた時期があった」という。
「ちょうどその頃、工藤さん(公康。現福岡ソフトバンク監督・インタビュー【前編】【後編】)に『他の球種を覚えようと思っているんです』と言ったんです。そうしたら『今持っている球種を磨け』とアドバイスをされましてね。自分にないものを求めるのではなく、持っているものを光らせろと…僕は真直ぐにしても、まだ進化させられると思っています。さすがに球速を上げるのは難しいかもしれませんが、コントロールにしても、キレにしても、自分の中では伸びしろがあると。そもそも真直ぐがあっての変化球ですしね。ですから、ストレートもまだまだ磨いていくつもりです」
自分が持っているものをいかに伸ばすか―。これは米国の選手指導の主流でもある。上原投手は「日本では短所を否定して、それを直させる指導者が多いですが、米国は長所を伸ばすことに注力する。ですから個性的な打撃フォームでもよく打つ選手が生まれるのでしょう。もし僕が指導者になったら、米国式に長所を褒めて伸ばしてあげたいですね。褒められて嫌な気分になる選手はいませんから」と言葉を重ねた。
上原投手の最大の武器であるフォークボール。いずれフォークを習得したいと考えている球児にとって大きなヒントになったと思います。ただフォークは真っ直ぐがあっての変化球。真っ直ぐを追求する姿勢も忘れません。第2回では上原投手の緻密なコントロールに迫ります。
(文・上原 伸一)