Column

東京ヤクルトスワローズ 村中 恭兵投手の『バランスの磨き方』

2014.03.31

 ヤクルトを代表する大型左腕・村中 恭兵投手。2010、2012年シーズンにフタケタ勝利を記録し、きたる新シーズンはさらなる飛躍を期する。長身から投げ下ろされる速球、と書くと豪快なイメージが先行するが、その裏には繊細なバランス感覚と計算されたトレーニング理論が隠されていた。

バランス感覚を磨く全4メニューのまとめ

1・ドッグバード
四つん這いの状態で対角線上の腕と足を上げよう
その状態から地面に着いている足を1~2歩ほど外に開こう

2・ハムストリングスタッチ
右手で右足首(左手で左足首)を持って地面をタッチしよう
片足のバランスを鍛えるエクササイズ!

3・ワンレッグランニング
片足でランニングのフォームを作ろう

4・ワンハンドローテーション
野球で必要な「ねじる」動作をしながら、片足でバランスを取るエクササイズ!

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150キロを投げるバランス

東京ヤクルトスワローズ 村中恭兵投手

――今年も先発投手として活躍が期待される村中投手ですが、自主トレ期間中はどのようなトレーニングを積んできたのですか?

村中恭平選手(以下、「村中」) 僕はオフシーズンの間、いつもヘビーウエイトでのトレーニングを行っています。たとえばレッグプレスだと390kgぐらいの負荷で、回数は少ないですけど重点的に行います。あとはダンベルを使ったメニューも多いですかね。メニュー数自体はそう多くはありませんが、全身くまなく鍛えるメニューを考えて取り組んでいます。11月の終わりぐらいから2ヵ月間、それを繰り返してきました。

――より負荷をかけたトレーニングを行う、その意図はなんでしょう?

村中 パフォーマンスを上げるというよりケガをしない体づくりをメインにしています。先発投手として、1年間を通して投げられる体作りといいますか。その目的の副産物でパフォーマンスも上がってくればいいな、というイメージです。

――重負荷でトレーニングを行うと、ケガのリスクを負うことにもなりそうですが……。

村中 そうですね。筋力トレーニングとはつまり、筋肉を傷つけて超回復させ、筋繊維を太くする、ということの繰り返しです。ですから、筋肉が回復するまで時間を置かなければなりません。休養の時間をうまく作ることもトレーニングの一環になります。その境界線はちゃんと計算することで引くことができます。僕の場合は1日に上半身と下半身を一度にトレーニングして、5~6日間はあける。休養期間は球技や走り込みをしています。このオフはそれを続けて、ケガなく乗り越えることができました。

――188cm、88kgという恵まれた体格をお持ちですが、投手として注意している点はありますか?

村中 体重は、プロに入ってから12kgぐらい増量しました。体が大きくなった一方で、投球時に注意していることのひとつにバランスがあります。これは人それぞれなので、自分で探っていかなければならないテーマなんです。僕はなるべく力を抜いて感覚で重心を調整するようにしています。これが全身に力が入っていると微調整がきかなくなるんです。難しいところなんですけど。

――バランスを整えるためにトレーニングしていることはあるのでしょうか。

村中 先発なので、次の登板までの間に週1~2度、バランストレーニングを取り入れています。よくやるのがバランスディスクを使ったものですね。片足で乗って体を前傾させたり、片足を上げた状態で軸足だけでバランスをとったり。細かな動作で重心がブレないように、ということを意識します。体を鍛えるというより「神経」を鍛えるイメージといったほうがイメージは伝わりやすいかもしれません。このメニューはキャンプに入って、実際に投げるようになってからやっていきます。

――筋量は増えれば目に見えますけど、バランスはなかなか成果が目に見えません。なにかチェックポイントがあれば教えてください。

村中 先にも言いましたが、力を入れずにスッと立てるかどうか、がいちばん確認しやすいですね。あと、本当にバランスが整っていれば力が入った状態でもブレはなくなるはずです。特に投げた後のフィニッシュで身体がズレないというのはわかりやすいかもしれません。他の投手のバランスを確認する時もその2つを見ます。軸足で立ったときの姿勢とフィニッシュ時の姿勢ですね。

――村中投手は左腕で150kmの速球を投げられるわけですが、そこにバランスも関わってくるのでしょうか。

村中 そうですね。こうやったら150kmを投げれらる、と一口で言うことは難しいです。当たり前のことですが、子供の頃から投げ続けたとして、身体が大きくなれば自然と球速は伸びてくるものです。そこから先は、力ではなく「身体の使い方」の話になってくる。使い方は人それぞれなので、自分にとってベストの使い方を探して身に付けられるかどうか、になると思います。バランスもその身体の使い方のひとつです。

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身体の使い方をどう意識しているのか?

バランストレーニングの大切さを伝える村中投手

――その身体の使い方を探ろうとして悩んでいる球児も多いのですが、なにかひとつ例に挙げていただけますか?

村中 ピッチャーにとって変化球をマスターすることは、ひとつ特徴を作るうえでポイントになると思います。そのためにはまず投げ込みが必要になる。もちろん僕も投げ込みます。でも同じ投げ込みでもどう頭を働かせるかで、マスターできるかどうかは変わってくるはずです。例えばカーブ。構えているキャッチャーの右肩を狙ったら、最終的にどのコースに行くのかとか、軌道をしっかり意識してみるといいと思います。

 自分の理想とする軌道と実際の軌道は、最初はなかなか重ならない。でも、チェックできる視点を固定することで、投げ込みを続けて行くうちに徐々にイメージ通りの軌道に近づいてくるはずです。最初は曲がりの大きさを気にするかもしれませんが、たとえ大きく曲がったとしても、リリースが違うとコントロールは安定しない。つまり実戦では使えない。
 軌道を優先に考えることでリリースが安定しコントロールが向上し、結果的にキレも増してきます。頭では軌道をイメージしていますけど、じつは“リリース”という身体の使い方を覚えているんですね。

――とても学ばされるお話です。そういった身体の使い方を探る方法を知ったきっかけみたいなものが、村中さんご自身にあったのでしょうか。

村中 高校3年のときでした。まったくうまくいかない時期があって、「もうわからない!」って思って、半ば投げやりな気持ちで目をつぶってキャッチボールしたことがあるんです(笑)。20分ぐらい続けたのだったかな…そこで感覚をつかんだんですよね。リリースの際に力を入れるタイミングです。「あ! これだ!」と思って。それ以来急激に投球内容がよくなりました。球速も伸びて、その後の試合でも結果が出るようになりました。

――東海大甲府(山梨)時代に、そんな劇的なできごとがあったとは(笑)。

村中 高校時代のトレーニングって、特に冬場はボールを握れないじゃないですか。僕も足袋を履いて足裏や足腰を鍛えさせられた記憶があります。たしかに単調で苦しい時期なんですが、そういった冬場に作られた身体の下地がないと、きっと目をつぶってキャッチボールしてきっかけをつかむこともなかったと思うんです、今振り返ると。

――なるほど……。現在トレーニングをがんばっている高校球児にもひとつ、モチベーションになる話だと思います。

村中 高校時代は僕も決して順風満帆ではありませんでした。ケガが多かったんですね。トレーニングには筋量を増して身体能力を高める目的がある一方で、ケガをしない体を作る目的もあります。そちらの面にも目を向けてみてほしいです。やっぱりケガをすると野球が楽しくなくなります。僕が自主トレでケガをしない体づくりを心がけているのも、高校時代に経験したケガと無関係ではありませんから。

――貴重なアドバイス、ありがとうございます! では最後に2014シーズンの目標をお聞かせください!

村中 2010年シーズンに残した、11勝というキャリアハイの数字を上回る成績を残したいと思います。それには、1シーズン通して高いクオリティを維持しなければなりません。常に100%の力を出し続けているとどうしてもバテる。長いイニング、長い期間に安定した結果を出すには、80%の力で抑えられる実力を持つ必要があります。そしてピンチなどの要所の場面に限って、ギアを入れられるようになる理想を追求していきたいと思っています。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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