どこで盗塁を諦める?盗塁を分割して考える
クイックが上手いピッチャーと強肩のキャッチャー。ランナーは足の遅い選手。
ここで質問です。あなたが監督なら盗塁のサインを出しますか?
クイックが下手なピッチャーと送球に難があるキャッチャー。ランナーは俊足の選手。
また質問です。あなたが監督なら盗塁のサインを出しますか?
ほぼ全員が最初のケースでは盗塁しない、二番目のケースでは盗塁すると答えるだろう。
ではここで次の質問です。
どのくらいクイックが早いピッチャーと肩の強いキャッチャーの組み合わせで、盗塁を諦めますか?
盗塁を分解する
二塁への盗塁を「分割」※画像はイメージ
ルネ・デカルトは「困難は分割で」と言った。本記事では、二塁への盗塁を「分割」して考えよう。
盗塁のプレーに関わる守備側の要素は大きく3つだ。
【守備側の盗塁の要素】
①ピッチャーのクイック(セットポジションから投球のミット到達まで)
②キャッチャーのスローイング(キャッチャーが捕球して送球しセカンドベースに届くまで)
③塁上の野手のタッチ(野手が捕球してランナーにタッチするまで)
一つずつ数字を見ていこう。
プロ野球では、平均的な「①ピッチャーのクイック」は1.2〜1.3秒程度だとされている。おそらく高校野球ではもっと遅いだろうが、ここではあえて1.2秒としよう。
次に「②キャッチャーのスローイング」については、MLBのデータを使用してみよう。便利なことにMLBは「ポップタイム(pop time)」としてキャッチャーが捕球してから送球しセカンドベースで構える野手のミットにボールがおさまる時間を計測し、公開している(注1)。2019年のMLB捕手の平均ポップタイムは2.01秒だ。
「③塁上の野手のタッチ」にかかる時間は残念ながら公開されていない。厳密さに欠けてしまうが、ここでは0.2秒と仮置きしてみよう(熱心な野球ファンは次に野球観戦をする際にストップウォッチで測って見ると良い)。
やっと①〜③の数字が揃った。これらを全て足し合わせると、守備陣が二盗の対応にかかる時間が算出できる。
①1.2秒+②2.01秒+③0.2秒=3.41秒
[page_break:約3.4秒の戦い]約3.4秒の戦い
盗塁の損益分岐はシビアにも約70%※画像はイメージ
ざっくりと計算しても盗塁は約3.4秒で決着がつく極めて瞬間的な戦いだ。前回の記事で触れたように盗塁の損益分岐はシビアにも約70%。だからこそ平均的に言って一塁から二塁への盗塁に3.4秒以上かかる選手は少なくとも盗塁するべきではないことがわかる。平均以下の脚力では盗塁をトライするごとにチームに迷惑をかけるからだ。
実際には、投球がワンバウンドかどうかやグラウンドの状況、キャッチャーの送球がベースの上にピタピタに来るかどうかや、リードの大きさなどに盗塁の成功失敗は左右されるが、これも1つの目安になるだろう。
計測と改善のループを回す
現役プレーヤーは練習や試合の際に
①ピッチャーのクイック
②キャッチャーのスローイング(ポップタイム)
③野手のタッチ
の3点をストップウォッチで測ってみてはどうだろうか。これに加えて、ランナーのリードの構えからセカンドベースに到達するまでの時間を計測すれば、盗塁に向いている選手かどうか、盗塁の成功率を上げるためには後何秒タイムを縮めれば良いかなどがわかる。
質問に戻ろう。守備陣にとって盗塁をアウトにすることはピッチャー、キャッチャーそして野手の共同作業だ。この共同作業は平均的にいって3.4秒程度かかる。どんなに肩が良くても、そしてクイックが早くてもこれよりタイムを10%以上短縮するのは難しいだろう(ちなみに2019年のMLBでの二盗の際の平均ポップタイムの最速は1.89秒)。そうすると、ランナーは平均的に3秒程度で塁間を走れるようになれば、盗塁は作戦としてほぼ間違いなく有効になる。
計測は改善の第一歩。数字という根拠を持って練習し、データを試合に生かしてほしい。
(注1)https://baseballsavant.mlb.com/leaderboard/poptime を参照
【記事=やきうのおじさん(@yakuunoojisan)】
Twitterで野球の分析を行う。本記事のデータはすべてオープンデータを使用
関連記事
◆第24回 流通経済大学【後編】「盗塁が上手くなるには勇気と成功体験を持つこと」
◆成功率86.6%を誇る快足強打の西川遥輝! 盗塁の極意は慎重かつ大胆な考えにあった
◆3安打1盗塁とバットで足でアピールの西武・岸潤一郎(明徳義塾出身) 昇格目指して二軍で奮闘中!