昨夏決勝の星稜vs履正社をOPS/WHIP(健康度)の面から見れば井上広大の3ランの醍醐味がより分かる!
プロ野球では有観客試合が、高校野球ではいくつかの都道府県の独自大会が始まった。とはいえ、新型コロナウイルスの感染状況は予断を許すものではなく、プロ野球は観客数を大幅に制限した形で試合が行われている。そんな7月初めのプロ野球では、ヤクルト村上宗隆のサヨナラ満塁弾をはじめとして、試合展開の予想を大きく超える「ドラマ」があった。
前回は、OPS/WHIP(健康度)を使ってチームの健康状態を把握する方法をプロ野球のデータを例に紹介した。この記事では、高校野球のデータを使って、OPS/WHIP(健康度)を見ていこう。
高校野球におけるOPS/WHIP
星稜時代の奥川恭伸(ヤクルト)
負けたら終わりの高校野球(甲子園大会や各都道府県の大会)では、長いシーズンを戦うプロ野球とは異なる点がいくつもあり、高校野球のデータを額面通りにプロ野球のデータと比較することは難しい。
例えば、高校野球では
・チームごとの戦力差が大きい(強豪校が存在する)
・都道府県ごとの戦力差が大きい
・リーグ戦がほぼ開催されない
など、枚挙にいとまがない。しかし、だからといってデータが全く使えないわけではない。ここでは高校野球のデータを使って簡単な可視化をしてみよう。
2019年夏の甲子園のデータを例に
※条件を整えるため準々決勝までのデータのみを使用。また犠飛の記録がないためOPSは近似値となる
グラフは2019年夏の甲子園のデータを可視化したものだ(準々決勝までのデータを集計・加工した)。このグラフから条件を整えれば高校野球でもOPS/WHIPはチームの健康状態をうまく表現できることがわかる。例えば、奥川恭伸(現東京ヤクルト)を擁した星稜(石川代表)は抜群のWHIPを誇り、また2019年優勝校の履正社(大阪代表)は井上 広大(現阪神)や桃谷惟吹(現立命館大)を軸とした強力打線ぶりが伺える。
ちなみに結果論であるが、準決勝ではそれぞれ健康度が高いチームが勝利した。
1位:星稜 約0.9
2位:履正社 約0.6
3位:明石商・中京学院中京 約0.5
データを超えたドラマ
井上広大(履正社)
準々決勝までの健康度は、優勝した履正社よりも奥川を擁した星稜の方が遥かに高かった。しかし決勝では、履正社・井上が3回に放った3ランホームランが大きく効き、履正社が星稜を5-3で破った。奥川はこのホームラン以外は井上を完璧に抑えていて(三振・ホームラン・三振・三振・サードゴロ)、ここから野球のドラマ、そして何より真剣勝負の1打席・1球の重みを感じられる。
データをさらに紐解こう。奥川の甲子園通算WHIPは0.7。つまり平均的に言って奥川は1イニングに0.7人程度のランナーしか許さない。その奥川がツーアウトからなんと連続フォアボール。そして井上の逆転3ラン。春の選抜で奥川に完封負けと悔しい思いをした履正社、そして井上が、血の滲むような努力の末に、千載一遇のチャンスをモノにしたのだ。
余談ではあるが、8月に開催予定の甲子園高校野球交流試合では、2019年夏の甲子園の決勝カードだった履正社対星稜が抽選会で決まった。履正社のキャプテン 関本 勇輔が組み合わせ抽選会で、早くも昨年の決勝を意識したコメントを残した。奥川、そして井上は活躍の舞台をプロに移したが、両校の試合が予定されている8月15日にどんなドラマを見られるのか、要注目である。
状態把握は改善の第一歩
筆者が「健康度」と呼ぶOPS/WHIPを使えば、手軽にチームの状態を把握できる。例えば、プロ野球においてはOPS/WHIPの値が0.6以上であれば、優勝を狙える(少なくともAクラスにはなりそうな)チームだと言える。
高校野球はプロ野球と異なり、一部を除きリーグ戦がほぼなく、得点環境もマチマチであることから健康状態を把握するには一手間加えなければいけない。そして、データは必ず勝敗を予測できるような万能なものでもない。しかし、条件をある程度揃えることで「打力型のチームなのか」や「投手力のチーム」なのかと言ったチームのポジショニングの把握には十分使える。
目先の勝利だけを追いかけるのではなく、戦略的に「ありたいチームの姿」に近づくための羅針盤として、OPS/WHIPをはじめとした記述データに親しんでみてはいかがだろうか。そうすれば「OPSが低いぞ….データを見てみたら他のチームよりも出塁率が低いな….なるほど、好球必打を心がけすぎてフォアボールが極端に少なかったのか!」と根拠を持って改善できるようになる。状態把握は改善の第一歩だ。
【記事=やきうのおじさん(@yakuunoojisan)】
Twitterで野球の分析を行う。本記事のデータはすべてオープンデータを使用
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