緻密なトレーニング計画の理由
東京ヤクルトスワローズの右のエースと呼ばれ続けてきた館山 昌平。
2008年から2012年までは5年連続2桁勝利をマーク。さらに、2009年は16勝をマークし、最多勝を獲得。月間MVPは過去に3度受賞。最速150キロを超えるストレートに、多彩な変化球で、ヤクルト投手陣の柱として、これまでフル回転してきた。
しかし、その結果の裏側には、館山の苦労が刻まれている。
2013年もまた、苦しいシーズンとなった。
3月29日の開幕戦で先発(5回3失点)を任され、翌週の4月5日の横浜DeNAベイスターズ戦にも先発するも、4回途中で、右ひじに違和感を覚え降板。
全治1年の右ひじ靭帯の断裂だった。
初めてではない。9年前の2004年3月にもキャンプ中に、右ひじの靭帯断裂の診断を受け、このシーズンも一年間、マウンドに立つことが出来なかった。また翌年11月にも、右ひじの再手術を受けている。
すでに、靱帯断裂の他、神経脱臼、血行障害、肩の部分断裂、股関節唇の断裂など、大学時代から数えると、今日までに6度、身体にメスを入れている。
そのうちの2回は、今年受けたものだ。
なぜ、彼は、自身の体に118針の術痕を残しても、まだマウンドに上がり続けたいと思うのだろうか。
高校野球ドットコムでは、2013年9月からの半年間、館山 昌平投手の復活ストーリーを追いかけます。今、館山選手と同様に、夢を追いかけている選手。また、故障に悩んでいる選手も、もっと上の舞台で活躍したいと思っている選手も、そんな全ての球児に特別連載ストーリーをお贈りします。
緻密なトレーニング計画の理由
9月。
ヤクルト2軍のグラウンドで、若手選手が混ざったタイムランで、先陣を切って走る館山の姿があった。
マウンドから離れて、半年が経っていた。しかし、館山の表情は、思いのほか、明るかった。大きな、大きな夢を追いかけているような、そんな力強い瞳で、前向きにリハビリに取り組んでいた。
今、館山は、2014年のシーズンに向けて、ほとんどの時間をリハビリに費やし、そして着実に復活の道をたどっている。
「全治1年なので、来シーズン投げられるようになるために、今は一週間単位で、どのくらい練習強度をあげていくとか、どこを休みにするとか、本当に細かく計画を立てて、階段を一歩ずつあがるようなイメージでやっています」
そう語る館山の1週間の練習スケジュールとは、どのようなものなのだろうか?
緻密に考えられたトレーニングをこなす館山昌平選手
「僕の場合は、1週間のうち、練習日は6勤または7勤が基本です。そのうち、キャッチボールをどこに入れるのかをまず一番に考えて組んでいきます。
例えば、7勤の週であれば、火曜、金曜、日曜とキャッチボールを入れていきますが、そこにあわせて、ウエイトやウォーミングアップの強度は調整していきます。
それで、一週間の半ばくらいになってくると、来週のことを考えながら、後半を落とすのか、それとも上げるのかを決めます。
例えば、火曜、金曜、日曜を投げる日に設定したとすれば、ウエイトは、火曜日と日曜日は強めにするけど、金曜日は軽め。木曜日は完全に落して、土曜日は軽めみたいな形で強弱をつけていきます」
館山はその強度を5段階で管理している。
週の最後の日を1にしておけば、1の日と休日で、身体にとっては2連休が取れるので、そのオフ日に体を完全に回復させ、次のクールのトレーニングを5で迎えることができるということだ。
ウエイトの重さの設定はメニューによって様々だ。リハビリ開始から3日で250グラムずつ上げていくメニューもあれば、1週間で4キロあげていいメニューや、10キロあげていいものもある。
大事なのは、少しずつステップアップしていくこと。半年経った今、ようやくベストの頃の重さの7割5分~8割ほどのウエイトトレーニングが出来るようになってきたという。
とはいえ、これはリハビリ期間だけの特別メニューではない。毎年シーズンが終わると、同様の計画を立てて、オフシーズンは取り組んできた。
違うのは、シーズン終了後の強度だけ。それでもリハビリではなくても、ここまで緻密に計画を立てているプロ野球選手は、そう多くはない。
「僕がここまで考えるようになったのは、ケガをしてからというのもありますが、もともと野球がそこまで上手くなかったので、それならどうやって、そういうところを補っていかなきゃいけないのかなと思ったら、トレーニングの内容や計画に隙があるんじゃないかなって気付いたんです。
他の選手がやっていないことで、もっともっと磨いていけば上手くなるんじゃないか。僕が野球が上手くなるために、必要なものはそこなんじゃないかということから、トレーニングに向き合う集中力を高めていきました」――。
『野球がそこまで上手くなかった』と語る館山選手。 それでも、高校時代から、自ら工夫しながら、一歩ずつ、階段を上ってきたのだった。
<次回へ続く>
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(文=安田未由)