2014.08.07 突然、終わりを告げた「SAIBI」のユニフォーム姿
7月24日（木）、[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]で行われた愛媛大会3回戦。第4シードの東温相手に安樂 智大（済美3年）は3回パーフェクト、6奪三振と申し分ない滑り出しを見せながら、5回に初安打を許したことをきっかけに、以後4失点。チームの反撃も1点にとどまり、2年連続の甲子園出場を逃した。
豪腕にとってあまりに突然に訪れた済美における最後の公式戦。今回の連載ではその3日後、7月27日（日）に[stadium]済美球技場[/stadium]で行われた1・2年生との「引継ぎ式」における彼の声を忠実に再現する。3試合先発・22回で292球を投げ、打者81人に対し、被安打11・与四死球7・与犠打5・奪三振22・暴投1・失点4・自責点4・防御率1.64に終わった愛媛大会を振り返りきれない、彼の素直な状況をそのまま感じてもらいたい。
済美を選んで、監督さんと出会えてよかった
囲み会見で答える安樂智大（済美3年）
――東温戦から2日が経ちました。今の気持ちはいかがですか？
安樂 あまり切り替えられていません。試合中の配球など、後悔はたくさんしています。
――将来の進路についてはどうですか？
安樂 まだ、試合のことから切り替えられていないので。もちろん将来の夢はプロ野球選手ですが、それを大学や社会人を踏んでから目指すのかは、まだ監督さんとも話をしているわけではありませんし、現段階で監督さんからも「ご苦労さんだった」と話を頂いただけですから。まだあんまり考えきれていません。
ただ、野球をこれからもしていくことは間違いないので、体をしっかりきたえていきたいと思います。
――ただ、今日（7月27日）で高校野球生活も一区切り。今日も部室の引継ぎ等もありましたが？
安樂 （最後の夏に）負ければ後悔するもの。練習については100％やりきった自信はありますが、先ほど言ったように試合の中での後悔は今でもありますし、これまでも負けた試合を忘れていない中で、東温戦で取られたイニングは決して忘れることはないと思います。
後輩たちにはその悔しさを糧にリベンジを果たしてほしいと思いますし、自分としても今後の野球人生に活かしていきたいと思います。
――センバツ準優勝など嬉しいこともありました。それでも悔しいことが残りますか？
安樂 甲子園も2回出場でき、日本代表にも選んで頂き・・・。済美高校を選んですごく楽しかったですし、嬉しいこともたくさんありましたけど、負けで終わったことで自分としては後悔も残っています。「もっと何かできたんじゃないか？もっと何かみんなに声をかけられたんじゃないか？」という思いもありますし、キャプテンとしてチームをまとめられたのかという思いもあります。
でも、自分は済美を選んで、（上甲 正典）監督さんと出会えてよかったと思います。
――今日、上甲監督にはそんなお礼の言葉も伝えたのですか？
安樂 そうですね。2年4ヶ月、厳しいこともたくさん言って頂きましたし。東温戦の後にも言いましたが、監督さんでなければ（2年夏の）157キロも出ていないですし、2回も甲子園に行くこともできていない。
自分は監督さんと出会ったことで、野球人生が180度変わったと思うので、すごく感謝しています。そのお礼を今日は伝えました。
初心に戻り、「野球が好き」を忘れず、「次の夢」に向かう
上甲正典監督から激励の言葉を受ける
――1・2年生への挨拶で「俺も次の夢へ向かってがんばる」と言っていましたが、安樂投手にとって「次の夢」とは？
安樂 そうですね。現段階でプロ野球なのか、大学で日本一を目指すのか、将来について決めていないですが、夢を追い続けることには変わりません。プロ野球選手になる目標は変わりませんし、最終的にはそこへたどり着いていくとは思いますが、まだ監督さんとも両親とも正式には話をしていないので、決めかねているし、まだ考えていないという感じです。
――ということは、夏休み中には決めていくことになりますか？
安樂 後輩の手伝いをしながら監督さんと話をして、両親ともしっかり話をして決めていきたいです。
――「夢」という部分では、9月にはU18アジア野球選手権（タイ開催）もあります。もし選出されたらということにはなりますが、そこについてはどう考えていますか？
安樂 そうですね。まだ愛媛大会を終えたばかりですし、もちろん選んでいただいたらということにはなりますが、もし選んで頂けるのであれば挑戦してみたいと思いますし、自分の力を試してみたいと思います。
――監督さんには「明日（7月28日）からグラウンドで練習をしたい」と伝えたそうですが？
安樂 はい。そうお願いしたら監督さんからも「もう少し休んでいいぞ」と言われました。ですので、自宅で自主トレーニングを繰り返して、一段落ついて自分の心にも整理がついたらグラウンドに出てこようと思います。自分の練習が主にはなると思いますが、後輩たちに夢を追ってもらうためにも伝えられることは伝えていきたいですね。
――ここから先のトレーニングのポイントは？
安樂 正直、今はどこが悪かったのかが分析しきれていません。肘をけがして半年間ボールが投げられない中、3ヶ月で148キロ（東温戦の5回に愛媛朝日テレビ放送内で計測）まで戻せたことは大きいとは思いますが、「あと2ヶ月自分に余裕があれば、元通りのピッチングができていた」と思うこともあるので、もう一度初心に戻って、「野球が好き」ということを忘れずに、練習していきたいと思います。
――正直、辛い思いはありましたか？
安樂 はい。「（秋季県大会1回戦の）西条戦で（投球練習時、右腕に違和感があったとき）すぐに「投げない」と言っておけば、こんなことになっていなかったのに」と思ったこともありますし、これだけ長く投げられないことははじめてでしたから。逆に投げられないからこそ頑張れた点もあるのですが、夏に負ければ全てが後悔になってしまいますね。
「高校野球を見るのも嫌だった」2日間
安樂智大が2年4ヶ月を過ごしてきた済美球技場のマウンド
安樂 プレッシャーからは解き放たれましたが、ホッとはしていません。（この2日間）「その3役がこなせていたのかな」ということについても考えていました。3年生は自分についてきてくれて、キャプテンとしてすごく助けられたのに、エースとしてチームを勝たせることができなかった。4番として（東温戦）の初回に一本出すことができなかったことについては悔やんでいる面があります。
――では、この2日間は自宅で考える時間が多かった？
安樂 はい。考えてばかりでした。
――「注目されることで思い通りのボールが投げられなかった」と思うことは？
安樂 いや、それはないです。注目されることで自分も「頑張るんだ」という気持ちにもなれましたし、皆さんのおかげで自分としても「もっともっと皆さんの期待に応えたい」と思えました。すごくよかった面の方が多かったと思います。プレッシャーに負けてしまったところは、勝てるピッチャーはそんなことも関係なく、勝てるときには勝てるわけですから、自分の力不足だったと思います。
――自分も含め―昨年、2年生で甲子園を沸かせた高橋 光成投手（前橋育英）、小島 和哉投手（浦和学院）などが甲子園に行けていないことについてはどう感じますか？
安樂 そうですね。（高橋）光成や、小島のような投手でも、自分もそうですが、甲子園には行けない。その他にも色々な強豪校が負けていることを今日聞きました。
夏はプレッシャーを感じるもの。とくに昨年2年生が多く活躍した中「もっとすごくなりたい」と思う中で、プレッシャーに勝ちきれなかった選手が多いことを感じます。その中でも「自分だけは違う。甲子園に行きたい」という思いは強かったのですが、みんなと同じように勝てなかった悔しさは大きいです。
――岸（潤一郎）投手（明徳義塾3年）は今日、高知大会決勝戦へ進みました（翌日、高知を破り自身3年連続となる夏の甲子園出場を決定）。彼に対しては？
安樂 岸は1年の時からの仲間であり、ライバルなので。光成も小島も自分も甲子園には行けていないので、岸にはぜひ、甲子園に行ってもらいたいと思います。
――改めて、この夏休みはどのように過ごされますか？
安樂 本当だったら8月末から夏休みのつもりだったので、あまり判りません。今までしんどい練習をしてきたので、監督さんや田坂（僚馬）コーチから「休め」とは言われるんですけど・・・。体がウズウズするので、夏の間にしかできない練習をしたいです。遊ぼうとは・・・思わないですね（笑）。
[page_break:1・2年生への最後のメッセージ]1・2年生への最後のメッセージ
1・2年生を前に主将として最後のメッセージを伝える安樂智大（済美3年）
確かに「SAIBI」における安樂 智大の高校野球は終わりを告げた。ただ、もう少し彼の「高校野球」を見てみたい。もしそれがU18アジア野球選手権における「JAPAN」のユニフォームであったら、そして四国や甲子園で競い合った盟友たちとの協演だったら、どんなに素晴らしいだろうか・・・。そんなことを今は思っている。
ちなみに安樂は1・2年生を前にした主将としての最後の挨拶で、こう感謝と決意の言葉を述べている。これも文脈をいじらず掲載したい。
「まず、こんな俺についてきてくれてありがとう。最後、1・2年生と3年生も甲子園に連れてやれなかったことは申し訳ないし、力不足だったと思う。
俺の2年4ヶ月というのは、甲子園にも行かせてもらって、日本代表にも行かせてもらって、注目してもらって充実していたものだったけど、やはり最後に負けてしまったこと、甲子園に行けなかったということは後悔が残るし、練習したのに9回に2失点したことは後悔が残っているし、『後悔するな』と言われても負ければ後悔が残る。
みんなも甲子園には行きたいと思っていると思うけど、厳しい言い方になってしまうかもしれないけど、甲子園はそんな簡単に行ける場所じゃないから。ここからは本当に厳しい練習になると思うし、勉強のこととかもあると思うけど、最後まで監督さんやコーチたちのことを信じてついていけば、目標に近づいていけると思ってやってほしい。
俺たちも日本一を目指してやってきたけど、それが叶わなかったということは、俺たちの中に甘さがあったからだと思う。やはり一球一球を追いかけていくことしか、目標に近づく道はないと思う。
俺もこれから先の目標へ向かってがんばっていくけど、みんなが甲子園という舞台で活躍してくれることを心から祈っているから。これからも必死に練習して、春夏連続とは言わんけど、最後の夏は甲子園に行ってほしい。1・2年生、ありがとうございました」
今は失意が身を包む安樂であるが、彼の言う「先の目標」へ向かうきっかけが、その舞台となることを。彼のいない甲子園での熱戦が続く中、時間の経過と共に今は見守りたい。
(文・寺下 友徳)
【連載コラム 安樂智大（済美）】
第5回 2014.07.08 盟友から力を得て、晴れ舞台での公式戦初対戦へ
第4回 2014.03.12 夏を見据えた充実の「冬トレーニング」
第3回 2014.1.4 安樂智大（2年）2014年始動！
第2回 2013.11.14 秋を終えて気付いたこと
第1回 2013.8.14 夏の聖地でみせた155キロ
