Column

2014.07.08 盟友から力を得て、晴れ舞台での公式戦初対戦へ

2014.07.08

 4月5日、開星(島根)戦での練習試合初登板から3ケ月が経過した。いよいよ1週間後に迎える第96回全国高等学校野球選手権愛媛大会1回戦の愛媛三島戦へ向けて、自らの現在の状態は?
そして聖地での公式戦初対戦を誓った「盟友」への想いとは?今回はその盟友・岸潤一郎明徳義塾3年)の声も交えつつ、最速138キロ、7回3分の1で114球13被安打(そのうち本塁打2・三塁打3・二塁打2)与四死球3・奪三振2の0対7コールド負け。周囲から見ればショッキングな結果に終わった7月6日(日)・明徳義塾(高知)後に明かした安樂智大の偽らざる想いを紹介していきたい。

調子の悪い試合は来ると思っていました

4月26日の愛媛県立川之石高校創立100周年記念招待試合で川之石・濱田啓太主将を交え談笑する済美・安樂智大主将と明徳義塾・岸潤一郎主将

――まず、明徳義塾戦では試合中、右足首をひきずっているように見えましたが・・・。

安樂 智大選手(以下、「安樂」) アップ中に少し痛めましたが、痛みもなかったですし、そんなに試合へ影響したとは思っていません。

――第1試合直後のTVインタビューでは「悪かったの一言」と話していましたが。

安樂 全体的に悪かったですね。腕が振れていなかったです。

――昨日投げた疲れは?(5日の鳴門渦潮戦では最速147キロで9回完封。96球、被安打4、奪三振6、四死球1)

安樂 投げたことによる疲れはないです。

――ボールが高めに浮いて、痛打を浴びるシーンもありました。そこも「腕が振れていない」と解釈している?

安樂 そうです。

――正直、自分自身としてはこの日の対戦を「明徳義塾」「岸潤一郎投手」という部分も含めて楽しみにしていた部分もあると思います。それを受けての結果は残念だったと思いますが・・・。

安樂 これが2日続けてダメな状態だったら、ショックだったと思います。ただ、昨日の鳴門渦潮戦でピッチングがけがから復帰した後で一番いいピッチングができていたので、「今日は悪いかもしれないな」ということは頭においていました。
今は1箇所バッティングでもスピードガンを計ってもらっているのですが、そこでも140キロ台後半がバンバン出ていましたし、いい形でのピッチングが3週間くらい続いていたんです。だからこそ「そろそろ悪い状態の試合が1試合来るだろう」とは考えていました。
「調子が悪い中でどう闘うか」をその時が来たらテーマにしようと思っていたのですが、今日の相手は明徳義塾だったので、調子が悪い中でどうこうさせてくれるチームではありませんでした。

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[page_break「腕が振れだした」ことが大きい]

「腕が振れだした」ことが大きい

――ということは、明徳義塾相手に調子が悪い状態で臨むと、こうなることは想像できたと。

安樂 修正しようと思えばできた部分はあると思います。ただ、今日に関しては修正しようとあまり思わなかったですね。

――「ここで小手先の修正をするより、問題点を全て出してしまった方がいいだろう」ということですか?

7月6日の明徳義塾(高知)との練習試合で力投する安樂智大(済美3年・主将)

安樂 ここで試合中に修正をかけて変な癖を付けてしまうとよくないと思ったので。ストレートが打たれていたことは解っていたのですが、そこでスライダーに頼ってしまうようでは自分のピッチングではないと思いますし。これは「練習試合」ですから。
もちろん大会になれば、ストレートが悪かったら変化球になりますし、変化球を多投することになるとは思いますが、練習試合で打たれても大会に負けるわけではないので。

――その意味では、夏に向けての照準は合ってきている?

安樂 そうですね。先ほどお話したように、1箇所バッティングでも140キロ後半は出てきています。これは自分でもびっくりしたんですが。「出るんだ」って。自分はこれまで練習で140キロ台を出すことがなかったし、練習試合でも140キロ後半を出すことがなかったのに、今は140キロ後半が出てきています。復帰後の目安としては「練習試合で145キロ」を自分では考えていた中、昨日(鳴門渦潮戦)は147キロが5~6球出た。ひとまず安心しました。
それと初速と終速との差が復帰後3~4週間後までは7~8キロあったのが、昨日は2キロくらいまで戻ってきた。このことはずっと意識して取り組んできたことなので、それが一番嬉しいことかもしれません。
そう考えると、全体的にはだいぶ調子は上がってきてきると思っています。

――「上がってきている」要因は自分ではどのように分析していますか?

安樂 この前まで追い込み練習をしていたので、疲労が抜けきっているわけではないのですが、その中でも腕が振れだしたことはあると思います。(※例年6月中、済美は金曜~日曜まで合宿形式の追い込み練習を行なう)

――「腕が振れだした」感触が自分がトレーニングを進める中で感じてきたことですか?

安樂 はい。5月と6月はもがきながらシャドーピッチングを夜遅くまで続けてきた中、積み重ねをしていくことで腕が振れだしたことが大きいと感じています。結果、スライダーも130キロ台が出るようになりました。

――ここから15日までの愛媛三島戦まで1週間あまり。いよいよ微調整の段階に入っていくと思います。

安樂 はい。もし、このまま調子が悪い状態が続けば自分も不安になっていくと思いますし、ずっと調子が悪い中や、2日続けて調子が悪いようだと、自分の中では焦りも生まれてくるでしょうが、そんなに焦りはありません。もう1回シートバッティングに登板して、納得いくピッチングができれば不安もないです。
「大会前」ということを考えれば、昨年もこの時期に明徳義塾さんと対戦して1対6で敗れています。昨年もその前日は鳴門渦潮さんと対戦して勝っている。だから、自分としては今日「勝ってしまうと、おかしいな」という感情もありました。
今日も思っていたんです。「そういえば、去年も明徳義塾さんに負けて(上甲正典)監督さんに怒られたなあ(笑)」って。だから、そこから昨年どのような調整をしたかを思い返せば、今年も夏の決勝戦まで上れるんじゃないかと考えていますし、1回戦にも間に合うという感じではいます。

――初戦の愛媛三島は決して簡単な相手ではない。負荷がかかる相手です。

安樂 シード校は勢いに乗りにくいですし、実際愛媛大会でもシード校がコロッと負けるケースは多々あります。その意味で初戦から強いチームとできることは、確かに負ければそこでおしまいですが、勝てば勢いに乗れる。
自分はくじ運がいいと思っている中で(6月23日の組み合わせ抽選会で)そういった対戦相手を引くことができましたし、監督さんからも「いいゾーンを引いてきたな」と言って頂いたので、そこはよかったと思っています。(※済美は昨年第1シードを経験した)

[page_break明徳義塾・そして「岸潤一郎」への感謝]

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明徳義塾・そして「岸潤一郎」への感謝

――ところで、体が以前より絞れた印象がありますが。

安樂 冬に走りこんだら体重は勝手に減りましたが、今はむしろ85~86キロを維持することを意識しています。これが82~83キロになるとボールに体重が乗らなくなりますから。

――ではこの時期に、明徳義塾戦後の恒例となっている両校の焼肉食事会では、肉をむちゃくちゃ・・・

安樂 食べましたね(笑)

6月9日の高知県高野連特別招待試合後、すれ違いながら笑顔を交わす安樂智大(済美3年)と岸潤一郎(明徳義塾3年)

――そんな明徳義塾との練習試合もこれで安樂投手にとっては一区切りとなります。改めて明徳義塾や同じエースで主将の岸 潤一郎投手に対しての想いは?

安樂 正直、明徳義塾との練習試合で勝った記憶はあまりないんです(今シーズンは6回対戦して済美の0勝5敗1分け、安樂は3試合登板で3敗)。自分が入学してからは1回だけ勝ったんですが、昨年のこの時期も自分も負けて2連敗。でも、そこで負けても甲子園には行けているので・・・。
ただ、明徳義塾さんと対戦することは自分にとっていい刺激材料になっています。自分が1年の時の明徳義塾さんは夏の甲子園ベスト4になりましたし、自分が済美に入りたてのとき、一番試させて頂いた相手でした。

――つまり、明徳義塾と対戦することで自分の現在位置を知ることができる。

安樂 岸ともさっき話をしたんですが、今年の明徳義塾はそんなに打てるチームではない。自分の印象も打力は昨年・一昨年の方が強いのですが、その中で自分が1年の時と、現在のピッチングを比べて、よくなった点、悪くなった点を知ることもできます。
「1年生のときのように、ガムシャラに投げてみることも必要だ」今日であればそれを感じることができましたし、そんなことも肉を食べながら話していました。

――ただ、実は安樂投手が入学以来、済美は一度も明徳義塾との公式戦対戦がありません。

安樂 そうなんですよ。ぜひ対戦したい想いはあります。あと対戦できる場所は甲子園しかない。岸とも甲子園で投げあえることが一番いいことだと思っています。
自分は練習試合だとベストの状態で投げられないんですよ。これはいいことか悪いことなのかわかりませんが。練習試合では今まで一度も150キロが出たことはない(最速は今年5月17日の熊本・RKK招待試合の秀岳館戦での148キロ)のに、公式戦では150キロ台を何球も出したことがある。バッティングについても練習試合では全然打てていないホームランが公式戦では打てる。
だからお互いは分かり合っている状況なんですが、「その中でも公式戦でやってみたい。勝負をしたい」という話は今日もしました。

[page_break今年も「負け試合」を「勝ち」に持っていくガムシャラさを]

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今年も「負け試合」を「勝ち」に持っていくガムシャラさを

――さて、実感はないのかも知れませんが、いよいよ安樂投手にとっても「最後の夏」がやってきます。改めて想うことはありますか?

安樂 自分は1年の夏から2度、夏の愛媛大会を経験させて頂きましたが、準決勝で負けた1年の夏と、愛媛大会を勝ち抜いて甲子園に行った夏と2つの夏を経験させて頂いたので、自分がどういう状況なら勝てて、どういう状況なら負け試合なのかは一番判っています。
その中でいかに勝ち試合にできるか。また、負け試合を勝ち試合に持っていけるか。それがエースの条件だと思っています。昨年の準決勝・川之江戦も正直「負け試合」でしたが、それを勝ち試合に持っていけたのは打撃陣のみなさんのお陰でしたし、その中で自分も今も胸に刻んでいる「157キロ」で球場の雰囲気を自分たちの方に持ってこれたと思っています。
だから、今年の夏もそういったピッチングをガムシャラにしていくことが、一番勝利に近づくと思っています。

ネクストバッターサークルから試合を見つめる安樂智大(済美3年・主将)

 「高校に入るまで僕にはライバルという存在がいなかったんです。でも、安樂はライバルだし、一番仲がいい。思い通り動けていない時期は僕も経験しているから、安樂の気持ちもわかっている。もちろん、2人にしかできない話もしていますよ」。

 この日、「まだ自分の思い通りにはいっていない」と話ながらも8回無安打無失点と完璧な内容だった明徳義塾岸 潤一郎は「エースでクリーンナアップ・主将・1年夏からレギュラー」という多くの共通項を持つ安樂 智大との関係をこう表現する。そして普段はちょっと煙に巻く言い回しが多い岸は、その時だけは真っ直ぐに幾度となく対戦してきた安樂との次の対戦予定を告げた。

「お互い頑張れば、夏に対戦できますから」

 筆者としても、いまさら言うことはない。あとは球場で思い切り腕を振り、喜ぶときに喜び、泣きたい時に泣く安樂智大の姿が見られれば・・・。そして彼の想いが全ての人に届けば、安樂と岸の約束はきっと果たされることだろう。

(文・寺下 友徳)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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