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2013.11.14 秋を終えて気付いたこと

2013.11.14

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 済美安樂 智大にとって激動の2013年がもうすぐ終わろうとしている。152キロの掲示で甲子園の大観衆に衝撃を走らせた3月。センバツ準優勝まで駆け上がるも、高校野球界を超えた論議を呼んだ772球を経て、思うに任せない状況に苦しみ続けた5月から6月。壁を破り、「157キロ」という驚愕のスピードと安定感を手にした7月。その反動から、全く自分の力を出しきれなかった8月。9月、IBAF18U・W杯で再び時計の針を進めるも、右ひじのしびれと共に遠ざかっていった3度目の甲子園…。
 
前回のロングインタビューから1年を経た今、けがは大事に至らずも肩ひじを休めつつ、主将として、エースとして日々考え続ける右腕の中に去来するものとは?今回は、メンタル面とこれまでほとんど話さなかったバッティングの話などを語ってもらった。

「主将として何ができるか」に気付いた秋の敗戦

グラウンド整備で丁寧にマウンドをならす安樂智大(済美2年・主将)

――センバツ連続出場の夢は9月22日の愛媛県大会1回戦西条戦に敗れて絶望的になりました。10月1日、IBAF18U・W杯の準優勝により「ががやき松山大賞」表彰を野志 克仁・松山市長から受けた際には「まだ心の整理がつかない」とおっしゃっていましたが。

安樂 智大選手(以下、「安樂」) 悔しいことには変わりません。ただ、悔しいからといって、負けたことばかり考えても前には進まないので。今はこの悔しさを夏にぶつけることしか考えていません。「夏に勝つために何が必要か」ということを、(上甲 正典)監督さんや、コーチの皆さんと話しています。その中で「ここを強くしたらお前は成長できるんじゃないのか?」という意見も頂いていますので、そういったところを参考にしながら、「どのようなトレーニングをしたら自分が成長できるのか」ということを考えてやっています。

――公式戦が終わったことで、一年を見つめ直す時間もできたと思います。改めて2013年を振り返って思うことはありますか?

安樂 今年は2度、甲子園という舞台を経験させて頂いたことで「経験値」というものは上がったと思います。ただ、自分の中では一年間「どうしてだろう?」と思っていたことがあるんです。

――それは、どんな部分ですか?

安樂 自分は全国という舞台で「完封」というものをしたことがないんです。完封ができないにもかかわらず、このように注目して頂いているのはありがたいことです。だからこそ「自分が全国の舞台で完封をするにはどうしたらいいのか」と思っているんです。自分が尊敬している投手は、完封して、なおかつ三振を多く取れる投手。もちろん、勝つことが一番ですが、その上でこの2つができること。これをいかにできるかを考えていました。
 だからこそ、最高学年になって迎える秋の大会では、「勝って来春こそは甲子園で完封をして勝てる投手になるんだ」と思ってずっと臨んでいたのですが…。負けたときには自分の中で理解ができなかったですね。
 でも今は、ピッチャーとしてばかりでなく「キャプテンとしてどのような声かけをチームにできたらよかったのか」という点にも気を配れるようになってきました。これからは練習からどう声をかけて、どのようにチームを創っていくのかについても考えて練習をしています。

――とはいえ、甲子園から戻ってからはすぐにIBAF18U・W杯の台湾遠征がありました。そこでは森 友哉主将(大阪桐蔭3年・捕手・埼玉西武ドラフト1位指名)をはじめ、3年生に引っ張ってもらっていた立場だったと思います。そこから戻ってきてすぐに主将として引っ張っていく難しさはあったのではないですか?

安樂 正直言って、自分はチームでも3年生に甘えていた部分があったと思います。試合になったら3年生の皆さんは上級生であるにもかかわらず、自分がピッチングに集中できるように気を遣って頂いていました。それを自分がようやく解りだしたのが、夏の愛媛大会のころでした。
 
ですので「人に気を配ること」の大切さをこの夏は学ぶことができました。ここまで考えてくれる先輩がいたからこそ、今の自分がある。ですから花巻東に負けて3年生の皆さんと一緒に試合ができなくなったときはとても悔しかったです。
 
夏はそれに加えて18Uで、森さんという全国トップクラスのキャプテンから、リーダーシップの取り方や短期間でチームをまとめていくうまさも学ばせて頂きました。森さんも一箇所バッティングの合間にみんなを集めて「今日はこういう風にやっていこう」という話をしますし、バッテリー間のミーティングも大事にするんですよ。だからこそ自分もチームをまとめたかったんです。
 
森さんは「俺がここでスライダーと言ったら首を振るな」という方。背中でチームを引っ張っていた。自分は1回も台湾で首を振っていません。そんなキャプテンだからこそみんなもついてきたんだと思うんです。自分もそんなキャプテンになりたいです。

U18世界野球選手権大会日本代表に選ばれた安樂投手

――そのIBAF18U・W杯では3試合18回を投げ、2勝1セーブ無失点で最優秀先発投手賞も獲得しました。日の丸を背負ってものびのびと投げている姿をTVで見ていると「済美で愛媛を背負って投げる方が大変なのかもしれない」とこの一年、思うこともあったのですが。

安樂 済美高校でプレーしている以上、「勝つのが当たり前」と指導者の皆さんもおっしゃっていますが、そういったプレッシャーを練習からかけていかないと、試合では勝てません。期待をされている以上、たとえ高校生であっても、また野球に限らずスポーツは「結果が全て」だと自分は思っています。
 
だから正直言ってセンバツ後、結果が出なかった時期は自分でも苦しかった。そんな状況はたくさんありました。だからこそ、先ほど言ったように、夏は3年生の皆さんに助けてもらった。特にキャッチャーの金子(金子 昴平・3年)さんには助けてもらいました。そして今、自分は甲子園を経験させて頂いているので、同級生や後輩たちを助ける立場にいる。夏にはじめて試合に出る選手がいたら、助けないといけないんです。プレッシャーを乗り越えることも、自分は伝えていきたいですね。

――その考えのベースになった「先輩たちの気遣い」についてもう少し聞かせてください。

安樂 自分の調子が上がらない時期に6月から始まった(金曜日から日曜日までの)合宿期間中、先輩たち、特に金子さんは自分のせいで調子が上がらないにもかかわらず、まるで自分のことのように思ってくれたんです。その姿を見て「キャッチャーというものは、こういう姿なんだ」と感じたんです。そこで自分は「この人のためならどんな苦しいこともできる。精一杯やろう」と思えるようになった。
 
金子さんは練習試合で監督さんに怒られても「成長のために、ここは真っ直ぐを投げろ」と言ってくれるんです。だから僕は準決勝で157キロを投げることができた。2人で1つのことを乗り越えることができました。
 他の3年生のみなさんも口には出しませんが、さりげなく優しく接してもらいましたし、いざ試合となっても自分への気遣いが手に取るようにわかる。「この先輩たちと一分一秒でも長く野球がしたい」。そう思いました。自分もそう思われる先輩にならないといけないと思います。

[page_break投打に学ぶことが多かった「18U侍ジャパン」の経験]

投打に学ぶことが多かった「18U侍ジャパン」の経験

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「松山かがやき大賞」表彰を野志克仁松山市長から受けた安樂智大(済美2年)

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IBAF18U・W杯での最優秀先発投手レリーフ

――技術的な話も少しさせてください。18U侍ジャパンでは松井 裕樹投手(桐光学園3年・東北楽天ドラフト1位指名)や高橋 光成投手(前橋育英2年)から学ぶことも多かったと聞いています。特に高橋投手からは変化球の習得法を学んだとか。

安樂 自分も(高橋)光成もキャッチボールから変化球を覚える手順は同じなのですが、「変化球は立ち投げから使った方がいい」というアドバイスをもらいました。
 
あと、これは投手の皆さん全員から聞いたことなんですが、自分が「練習試合から打たれたくない配球をする」話をしたら、「覚えている変化球を投げて、打たれて負けることは仕方がない」と言われたんです。これからは練習試合でも「試す意識」を大切にしないといけないと思います。

――大会はDH制だったので打席機会はありませんでしたが、森キャプテンからバッティングも教わったそうですね。西条戦の9回特大2ラン(高校通算9号)はその成果が出たと思いますが?

代打として打席に立った安樂智大(済美2年・主将)

安樂 森さんと園部(園部 聡聖光学院3年・オリックス4位指名)さんと3人でバッティングの話はしました。森さんは重心を落とした独特な打ち方をしますが、あれは森さんの体格だからできること。「それをお前がやったら打てなくなるぞ」ということは言われました。
 18U侍ジャパンのバッターに共通しているのはトップが動かない点。それと試合前になると体幹トレーニングをしていること。体幹をやって体を締めてから打席に立つんです。正直、これまでは「体幹とか、インナーマッスルとかはどうでもええやろ」と思っていましたが、帰国後は自分でもやるようになりました。
 西条戦のホームランで言えば、フォロースルーで乗ったんで、いいバッティングだったとは思います。その前のセンターフライも感覚はよかったんですけど、逆風の中で押し込みきれなかった。試合前は[stadium]済美球技場[/stadium]のバックスクリーンを超える当たりが打てていたので、そこは悔しい部分ですね。

――そのフォローや押し込む感覚をつかみかかったのはいつですか?

安樂 甲子園・花巻東(2013年8月17日)での3ランの時です。2ボール1ストライクで「いいボールが来たら打とう」という気持ちになって、来た球を打つ感覚でしっかり振り抜けたことが、その後長打が出るようになった要因だと思います。

[page_break「一番輝ける場所」へ「このチームで甲子園に行く」]

「一番輝ける場所」へ「このチームで甲子園に行く」

――さて、早いものであと1ヶ月あまりで2013年も終わろうとしていますが、安樂投手にとって一言でこの一年を言い表すと?

安樂 春・夏と甲子園に行かせて頂き、18U日本代表(侍ジャパン)の20名にも選んで頂いたので、中身としては「濃い」一年でした。秋に勝てなかったことが一番新しい出来事になったので悔しさはありますが、この一年はとても早かったです。
 
ただ、ここからが一年のスタート。今までの実績は無しにして、最後の一年はもっと早く感じると思うので、今は夏に勝つことだけを考えてやっていきたいです。1年生のときは先輩についていくだけ、なんとか先輩たちについていくことだけ考えて7月までやっていましたが、そんなひたむきさも必要になってくると思います。
 
今回の敗戦で「そう簡単に甲子園に行けない」ことがみんなもわかったと思います。簡単に行けないからこそ、行きたい場所なので、自分も甘さを見直して、もう一度初心に戻って頑張っていこうと考えています。

練習試合前、主将としてメンバー交換を行う安樂智大投手(済美2年)

――特にこの冬、取り組んでいきたいことはありますか?

安樂 キャプテンとしてチームを勝たせられなかったことも、エースとして抑えられなかったことも自分の責任です。この冬は昨年よりも断然長い冬になると思うので、一から鍛え直すことはもちろん、チームを甲子園に連れて行くエースとして、甲子園に連れて行くキャプテンになるようにしたい。
 
そうなってこそ自分が済美高校に来た意味があると思いますし、このチームで甲子園に行きたい。自分のけがもあって、客観的な視点からチームの雰囲気も見えるようになってきたので、先ほど言った体幹やインナーマッスルなど、しんどい思いをして成長していきたいです。

――実は、東京国体で森選手から「後輩たちに伝えたいこと」ということでメッセージをもらっています。

安樂 本当ですか?

――「一番輝いているのが高校野球、思う存分楽しんでほしい」です。

安樂 実際はこの一年間、森さんや松井さんは相当のプレッシャーを感じていたんだと思います。それでも平常心を保てるところは凄いと思います。
自分も苦しい時は甲子園に行くことを夢見てやってきましたし、今年は2度甲子園で45,000人超えの試合を経験させてもらいましたが、あの中でダイヤモンドを回ったときは本当に嬉しかった。『このために野球をやってきたんだ』と思いました。
 
甲子園は何度行っても飽きない場所ですし、森さんの言われるように一番輝けるのが甲子園。高校野球は観る側もする側も一緒になって頑張れる、涙を流せるので、そういった皆さんに応援される選手になりたいですね。

――最後にこの一年を踏まえ、2014年への意気込みをお願いします。

安樂 先ほど言ったように、自分たちには夏しか甲子園に行くチャンスがない。自分としても甲子園で結果は残していないので、実績を残したいです。
 それと監督さんが宇和島東済美含めてもまだ夏の全国制覇を果たしていない。自分の入学当初、監督さんは「お前と一緒に頑張れば絶対に全国制覇はできる」と言ってくださったんです。
 今年のセンバツでは一度全国制覇に手が届きかかって逃しています。甲子園に出た時点で自分の目標も変わったし、頑張れば届く場所だと思うので、最後に甲子園に行って監督さんを胴上げすることが自分の目標でもあり、チームの目標です。
 
いいことも悪いこともありましたが、甲子園で自分の人生も変わったし、成長できたので、自分の右腕でみんなに甲子園の舞台を踏ませてあげたい。野球をあの場所で楽しみたいです。

――並々ならぬ決意、受け止めました。ありがとうございました。

安樂 ありがとうございました。

(文・寺下 友徳)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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