Column

セガサミー(前編) 「好走と暴走の分岐点」

2014.11.04

 ある意味甲子園予選よりシビアといえるのが社会人野球の世界だ。
会社と社員の期待を背負って戦う選手たちには非日常の重圧が襲う。そこで勝利をつかむ勇気を持ったプレーをするためにはどうしたらいいのか。
社会人野球の東京の雄・セガサミーは、不確実性がつきまとう走塁面において積極果敢な姿勢を見せる。その取り組みに、戦うためのヒントを探った。

勝負を分けた走塁

江藤圭樹主将

 2014年6月4日。[stadium]神宮球場[/stadium]では、都市対抗本戦出場をかけた東京予選、その第三代表決定戦が行われていた。

 前日、延長13回の激闘の末、JR東日本に0対2で敗れ、第二代表の座を逃していたセガサミーは、東京ガスと対戦。連戦の影響は否めず初回、2回と失点し0対2と苦しい展開。

 しかし2回裏、一死二、三塁の好機で9番坂本 一将選手がピッチャーを強襲するヒットを放つ。ピッチャーがはじいたボールが外野へ転がる間に二者が一気にホームイン。同点とした波に乗ってこの回一挙3得点。試合の流れを序盤で取り戻したことが、9回裏の劇的サヨナラ勝利に結びついた――。

「第1代表、第2代表、第3代表……と代表決定が詰まってくるほど精神的に追い込まれます。高校3年最後の夏に比べても。当時は公式戦を楽しめたものですが、今はそうはいかない。とにかく必死です」

 そう語るのはセガサミーで背番号「1」を背負い主将を務める江藤 圭樹選手。大分商から日本文理大を経て入団2年目。チームでは3番を務める中心選手である。また、

「都市対抗予選は、近年にない神経の使い方をしました。なにしろ会社を背負ってますからね。プロでは負ける試合も計算してシーズンを戦えば、なかには捨てゲームもある。プロにはない緊張感でしょう」

と、語るのは前田 忠節コーチ。PL学園東洋大を経て近鉄、東北楽天、阪神でプロ選手として活躍。2009年に引退後は四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズで野手コーチ、2012年からは福岡ソフトバンクの2軍内野守備走塁コーチを務め、2014年、元ロッテの初芝 清氏が新監督となったセガサミーにコーチとして移籍してきた。チームではサードコーチャーも務める。

 前田コーチがサードコーチャーから見た第3代表戦、ポイントとなった2回裏のシーンを振り返ってくれた。

「あの試合は今シーズンいまのところのベストゲームですね。あのピッチャー強襲の打球が放たれた時、二塁ランナーは富田(裕貴)でした。彼の足と、打球の行方とボールを拾った外野手の肩を考えるとストップのタイミングなんです。でも、あの時はホームに還ってほしいと自分も思っていましたし、彼のサードベースを回る前のスピードがいつもより速かった。だから回しました。

 足に自信のない選手は大抵『サードコーチャーが止めるだろ』という予測のもとに走ってくる。そこで少しでもスピードを緩めたら絶対に回せません。その時点でクロスプレーになった時の最後の1歩に遅れが生じてしまいますから。『走らせてくれ!』という意図を持って走ってくる選手は目を見ればわかるんです。あの場面で富田はそういう目をしていました。だから行かせた。以来、富田には似たような状況の時は極力行かせるようにしてるんです」

【10月特集】スピードを生かす技術

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裏付けを持つ

前田忠節コーチ

 果敢な走塁。それは今のセガサミーの武器になりつつある。しかし、毎回必ず成功するというわけではない。まして都市対抗予選など、自分たちと同等、いやそれ以上に会社、社員の思いを背負ってプレーする状況では、想像を絶する重圧がかかる。

 勝ちたい、1点がどうしてもほしい。でもミスは許されない――。そんな極限まで追い詰められた精神状態で、勇気を持った走塁が求められる。選手たちにとってはジレンマといっていい。

「うちでは基本的に塁に出た選手に対しては、走れたら走れというスタイルです。監督もサインを出しますし、僕が出すケースもある。でも、サイン待ちだとどうしても気持ちの面で遅れが出る。自分で『行ける』と判断したときに行けないのはもったいないじゃないですか」

 前田コーチは現役時代、守備固めや代走で登場する機会が多かった。
「足は遅くはないけど盗塁をバンバン決めるタイプでもない。どちらかというと、相手のスキをつく走塁が求められていて、ミスは許されない場面での出場が多かった」
と振り返る。そんな現役時代に培った走塁理論はコーチ時代、さらに磨かれることに。

「いろんなコーチと仕事をしてきましたが、ベースコーチャーに関しては笘篠 誠治コーチ(現ソフトバンクコーチ)、真喜志 康永コーチ(現オリックスコーチ)に判断を学びました。8割ムリがあっても2割の確率にかける走塁があったりするんです。それが実際に成功したりする。後で理由を聞くと『いいピッチャーが投げていて連打が続かない場合は多少無理でも勝負をかける場面もある』と聞いて。

 ただ、走ることに関して、漠然ということはないんです。必ず裏付けを持つ。それならアウトになってもいいと思っています。好走と暴走は紙一重なのが走塁です。重要なのは、好走にするために、いかに裏付け=材料を求めるかでしょう」
(続きは後編で!)

(取材・文/伊藤 亮

 今回の記事で、走塁では、どのように成功の確率を高めるための材料を求めることが大切なのかが分かりました。
後編では、いよいよ、プロ仕込の走塁技術を教え込まれた江藤選手が実際に走塁技術を披露!さらに、前田コーチから判断力を高めるためのヒントもたっぷりと伝授していただきました。後編は、11月5日(水)に公開します。

【セガサミー(後編)「プロ仕込みの走塁技術を徹底解説!」を読む!!】

【10月特集】スピードを生かす技術

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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