Column

JR東日本野球部(前編)「走塁は大きな力を発揮する“付属品”」

2014.10.30

早大の走塁

 1920年創部と長い歴史を誇るJR東日本硬式野球部。これまで都市対抗に17回、日本選手権には6回出場しているほか、数多くの名選手を輩出している。この社会人野球の名門中の名門を2005年から指揮しているのが堀井 哲也監督だ。

 堀井監督は就任3年目の07年に都市対抗準優勝に導くと、11年にはチームの悲願だった都市対抗初優勝を遂げる。その後も12年、13年と2年連続で都市対抗準優勝を飾り、今年9月のアジア競技大会に出場した侍ジャパン・社会人代表ではコーチを務めた。

 三菱自動車岡崎の監督時代は谷 佳知(現オリックス)を、JR東日本の監督としては田中 広輔(現広島)2013年インタビューといった、走塁に長けた選手を育成した実績もある“社会人野球の重鎮”に、走塁に関するお話をじっくりお聞きした。

走塁は大きな力を発揮する“付属品”

走塁について語る堀井哲也監督

 取材の冒頭、JR東日本の堀井 哲也監督に「チームとして走塁面で大事にしていることは何ですか?」と伺うと、

「その前に走塁の位置付けについてお話させてください」という答えが返ってきた。そして堀井監督は次のように続けた。

「野球でチーム力が如実に表れるのは、投手力を中心とする守備力と攻撃力だと考えています。試合に勝つためのカギを握るのもこの2つでしょう。ですから野球における“幹”は基本的に守備力と攻撃力だと思っています。
では走塁は?というと、私はあくまで“枝葉”だと思います。誤解を恐れずに言うなら、走塁は“付属品”であると」

  走塁は“付属品”―。しかし「その“付属品”が時に大きな力を発揮します」と堀井監督は言葉を重ねる。

「野球ではノーヒットで得点できることもありますが、そういう場合、必ず走塁がからんでいますしね。走塁は“付属品”ではあるけれど、実は重要なパーツであるわけです」

 また打撃を強化することが、守備を強化することにもつながるように、
「走力をアップさせれば、実戦練習ではそれを阻止しようとするので、自ずと守備力もアップすると思います。野球は表裏一体のスポーツですからね」

【10月特集】スピードを生かす技術

このページのトップへ

[page_break:状況判断は「静」と「動」の2種類ある]

状況判断は「静」と「動」の2種類ある

瞬時の状況判断が大切

 こうした前提のもと、JR東日本が走塁面で大事にしているのが「状況判断」だ。堀井監督によると状況判断には2種類あるという。

「1つはプレーしていない時の状況判断です。野球は1球ごとに局面が変わるので、ランナーは投手が1球を投じるごとに、様々な最新の情報をインプットしなければいけません。言うなれば“静の”状況判断。“状況整理”と表現した方が適切かもしれないですね。これは自分が走者になった時だけでなく、試合前のノックやイニング間などでも、幅広く行う必要があると思います」

 もう1つは「プレーしている時の瞬時の状況判断」。

「前者が“静”なら、こちらは“動の”状況判断になりますが、これは奥が深いし、難しいですね。練習だけではなかなか身に付かないところもある。それに比較的プレッシャーがかからない局面では、的確な状況判断ができても、勝負どころではできないことがある。実際、ふだんは状況判断に優れている選手が、大一番で判断を誤るケースも少なくないですしね」

 そのため堀井監督は、瞬時の状況判断を重視しながらも「最優先事項にはしていない」という。そこには「走塁という括りの中では、状況判断もある1つの部分にしか過ぎない」という考えもある。

「リードやベースランニングなど、走塁にはたくさんの要素があります。もちろん瞬時の状況判断は身に付けてほしいものの、これには時間もかかりますからね。指導する側の私自身も焦らないようにしています」

 ただし“静の”状況判断は、誰でもやればできるので、チームとして徹底しているという。

「たとえば二塁に達したなら、アウトカウント、相手野手の守備位置をしっかり確認する。それも1球ごとです。これは高校生でもできるはずなので、是非実践してほしいと思います」

【10月特集】スピードを生かす技術

このページのトップへ

[page_break:ワンヒットで生還するために 1.2つの塁を奪う3つの要素とは]

ワンヒットで生還するために 1.2つの塁を奪う3つの要素とは

スタートでは打球判断がポイントとなる

 言わずもがなであるが、高校野球はトーナメントだ。1点が雌雄を決することも多い。得点圏の二塁に走者を進めたら、なんとかワンヒットで得点したい。

 だが実際は生還できないケースも多く目にする。どうすればワンヒットでホームインできるのか?

 堀井監督によると「まず“2つの塁を取らなければ得点できないと認識する”ことが必要」で「二塁から本塁まで走るには、大きくは『スタート』、『中間走』、『スライディング』の3つの要素がある」という。

「『スタート』では打球判断がポイントです。打球がどこに飛んだのか一瞬で頭に入れなければなりません。二塁走者は基本的に自分の右側のゴロはバックですが、ボテボテのゴロならゴーなど、打球に応じた判断が求められるのです。

『中間走』ではスピードを上げるのも大切ですが、もっと大切なのがコーナリングなので、三塁を回ることを踏まえながら、走路を判断しなければなりません。この『中間走』では、どこで三塁コーチャーの指示を仰ぐかもポイントになります。

 そして『スライディング』では、捕手の位置によって、真っ直ぐ滑り込むのか、回り込むのか、それとも内側からかと判断しながら、対応する必要があります。打球がどこに飛んだか把握していれば、捕手の位置はおおむね予測できると思います」

【10月特集】スピードを生かす技術

このページのトップへ

[page_break:ワンヒットで生還するために 2.第2リードを身に付ける]

ワンヒットで生還するために 2.第2リードを身に付ける

第2リードでいかに適切なリードを取るか

 次に重要なのが「第2リード」だという。

「投手がモーションを起こしてから行う「第2リード」では、打者のインパクトの瞬間をしっかり見なければいけません。これができないといいスタートが切れないので、ウチも「第2リード」の練習に力を入れています」

 JR東日本が「第2リード」の練習も兼ねて行っているのが、無死一、二塁での送りバントの実戦練習だ。
「実はこの場面での二塁走者の『第2リード』は一番難しいのですが、二塁走者は打者がバントしたら、素早く三塁に進むことが求められます。加えて、どんな状況でも―たとえ打者がバントをしにいって空振りしても―ベースに戻らなければなりません。高度な技術が求められる分、いい練習になるのです」

 堀井監督は「この場面で二塁走者の『第2リード』ができるようになれば、二塁からワンヒットでホームに還るための『第2リード』は、楽にできると思います。二遊間はこの場面の時ほどは走者をケアできないですからね」と話す。

 場面を問わず、二塁走者の「第2リード」では、右足の重心が三塁方向にかかった状態になっている。だが、打者の空振りなど捕手が捕球した際に、この状態のままだと「たとえリードが小さくても、捕手からの送球で刺される可能性が高くなる」という。

「ですから、捕手が捕球したらすぐに右足の重心を二塁方向に移して、数歩でも戻る。それができていれば、捕手はまず投げてこないと思いますし、瞬時の右足の重心の移し替えが身に付いていれば、ライナーバックの対応力も上がるでしょう」

 無死一、二塁と走者二塁では、二塁走者のリードの際の位置取りが異なるものの「ワンヒットで生還するための走塁練習として、この無死一、二塁での送りバントの練習は有効だと思います」

(文=上原 伸一

後編は10月31日(金)に公開します!
走塁技術を磨く一番の方法とは?また、オリックスから指名を受けた西野真弘選手からも走塁のアドバイスを頂きました!

【10月特集】スピードを生かす技術

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.28

大阪桐蔭、大会NO.1右腕に封じ込まれ、準々決勝敗退!2失策が失点に響く

2024.03.28

【センバツ準々決勝】4強決定!星稜が春初、健大高崎は12年ぶり、中央学院は春夏通じて初、報徳学園は2年連続

2024.03.28

中央学院が春夏通じて初4強入り、青森山田の木製バットコンビ猛打賞も届かず

2024.03.28

星稜・戸田が2安打無四球完封で初4強、阿南光・吉岡はリリーフ好投も無念

2024.03.28

健大高崎が「機動破壊」以来、12年ぶり4強、山梨学院は連覇の夢ならず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.25

異例の「社会人野球→大学野球」を選んだ富士大の強打者・高山遼太郎 教員志望も「野球をやっているうちはプロを狙う!」父は広島スカウト

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】