Column

社会人野球から学ぼう JX-ENEOS 宮澤健太郎選手(岡谷南)

2013.05.27

早大の走塁

 フォーメーションといえば、まずはバントシフトが思い浮かぶ。JX-ENEOSでは、強化期間に、サインプレーを重点に置き、一人一人の呼吸が合うまで徹底して練習する。

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宮澤健太郎(JX-ENEOS)が語る『キャプテン論』

送りバントのケース

もっとも多いのが、無死一塁からの送りバントのケースだ。このときに、サードとしての工夫や心構え、練習での準備はどんなものがあるのだろうか?

宮澤健太郎選手(以下「宮澤」) 勝負をかけて、ファーストとサードが突っ込むサインプレーは社会人野球ではありますよね。このときは、まずピッチャーがストライクを入れないと成立しないので、ストライクを投げることが大前提。まずそこから入ります。(シフトをかけるのが)ばれてもいけないので、タイミングに関して、ピッチャーとファースト、サードの動きを徹底的に練習していきます。このシフトは、賭けの要素も含まれているので、打たれたらどう動くかを徹底して、しっかり練習に備えておきます。

“都市対抗で活躍する宮澤健太郎選手”

 また、シフトをかけたときにバスターをしてくる可能性もあります。(打者が)打つ構えが見えたら、ファースト、サードはストップして対応します。そのときのため、(前に)出て行って近距離で強い打球を打ってもらって練習をします。打撃練習で守っているときにも、自分の中でサインプレーでバスターされたケースを想定してやることもあります。社会人レベルだと右バッターでも、(サードが)出てきたのがわかると、外の球でも踏み込んで引っ張りに来る技術があるので、その打球に対応できる練習は、社会人野球のチームであればやっていますね。サードはホットコーナーといいますけど、ホントに強い打球が来ます。怖いですけど、最悪、前に止める。気持ちを熱く、体を張らないと長打にもなりますからね。そのために、あえて落としてから一発で拾って投げる練習もします。

 守るときには準備が必要です。このバッターは足が遅いとわかっていれば、落としてもあわてなくていい。逆に速ければすぐに投げなきゃいけないですよね。その場合には、わしづかみでもワンバンでもファーストに投げればいい。それるのが一番よくないので、ツーバンでもゴロでもいいから、強いボールをファーストが捕れるところに投げる。そうすれば、伸びて捕れますからね。

無死一、二塁で送りバントのケースは基本的にはサードはステイ。ファーストが前に出て、投手が三塁寄りに降りるが、ときにはサインプレーを使うこともある。

宮澤 ホントに賭けになりますけど、ショートがサードベースに入って、ファースト、サードがプレスをかけにいく作戦を社会人野球では使ってくるチームもあります。このときはボールを拾いに行くスピードが大事。もちろん、捕ってから投げるスピードも大事ですけど、ダッシュ力が問われます。このケースではバスターにしろ、プッシュバントにしろ、やられたら仕方ないので、打者の動きを予測しながらダッシュします。(ダッシュ→捕球→送球をスムーズに行うため)フットワークの練習も必要だと思います。
 これは企業秘密もあって言えない部分もあるんですが、大事なのはピッチャーとのタイミング。ピッチャーにもよるので、これがなかなか合わない。合うまで徹底的に練習します。内野手が各ポジションでの動きの意味を把握して、色々なことを想定しながら、タイミング良く動けるかにかかってきます。

[page_break:状況による守備位置]

状況による守備位置

一、三塁で重盗のケース。高校野球では頻繁に見られる作戦だが、守備のレベルが高い社会人ではあまり見られない。そのため、基本的な考え方のみを紹介してもらった。

宮澤 社会人では少ない戦術ですが、下位打線などの時に勝負をかけてくるチームもあるので練習はしっかりやりますね。
 セカンド、ショートは、打者の右左や打球方向の傾向によって、(ベースに寄らず)開くことがあります。それでも、どちらかが入れる位置にいると思うけど、セカンド、ショートは打者の右左や打球の方向によって、開いていると思います。その時に、どちらかがベースのカバーに入ると思うけど、カバーリングに入った選手が三塁ランナーの動きに応じて、対応しないといけません。また、チームに寄ってはどちらかがベースに入り、どちらかが前に出て対応するチームもあると思います。そこでは、捕手の送球や、二遊間の状況判断力が求められるので、三塁ランナーが優先ですが、ランナーを想定しながら、こういった練習も時間を割いてやっておくべきだと思います。

状況による守備位置。高校野球では点差にかかわらず、走者が三塁に進むと自動的に前進守備を敷くチームも少なくないが、それはナンセンス。2点差の二、三塁なら二塁走者を還さない守備位置をとるなど、どの走者を優先するか確認したうえでの準備が必要だ。

“フォーメーションについて熱く語る宮澤健太郎選手”

宮澤 後ろ、前、中間の3パターンありますが、一死満塁や一死一、三塁の練習は、社会人野球チームは、よくやると思います。自分で判断して、ホームに投げるのかゲッツーを取りにいくのか。打球やランナーの足の速さ、バッターもかかわってきますよね。ゲッツーを取れないと1点入ってしまうので、確実に取れるならゲッツーを狙いますけど、無理ならホームで1つアウトを狙う。
 こういうときによく「準備していこう」という声は出るんですけど、準備がどういう準備なのかがわかっていない選手もいます。アウトカウント、イニング、点差、バッターの足、ピッチャーがどういう状況なのか。打線がよければ後ろ(に守って)で1点OKですし、1点もやれなければゲッツーどころか三塁ランナー優先になる。具体的に全部頭に入れておかないとできないので、内野手はしっかりした準備が必要ですよね。試合でミスが出ればその反省として、同じケースばかりノックをして確認作業をします。基本的には常に練習でやっておくしかない。試合当日になってやれといっても遅いですからね。試合でできることは、声をかけあって、投げる場所を確認しておくこと。最悪、「このランナーが優先だからな」ということは伝えるようにしています。

サードを守る宮澤選手が高校野球を見ていて気になるのが、走者三塁のときのポジショニング。それに加え、タッチプレーに関してもアドバイスをしてくれた。

宮澤 高校野球ではランナーがサードのとき、サードがベースに入ってますよね。社会人では基本的に入りません。高校野球はスクイズがあるので、スクイズ対策だと思うんですが、ベースについてしまうと三遊間がガラガラでしょう。けん制をするなら、ピッチャーとサインを作って、打ち合わせをして投げてもらえばいいと思います。
 タッチはとにかくランナーはベースに来るので、(ベースを)踏むだろうところにポンとグラブを置けばいい。高校生はランナーを見ちゃうんですよね。それで追いかけちゃうんで、来るから待っておけと。向こうから踏みに来ますから。あとは、まにあわなくてもパンと(強く)やるときがありますね。「アウト!」と言って審判をだますみたいな。(タッチする際に)「アウト」と言った方がいいです。というか、言わないとダメですね。

[page_break:カットプレー]

 フォーメーションでもうひとつ大事なのは外野手と内野手の連係。カットプレーだ。これもJX-ENEOSならではというような特別なものはないというが、宮澤選手によれば「ウチは連係プレーは全国の中でもよく練習すると思います。(大久保秀昭)監督も厳しいですね」。高校生の見落としがちなポイントを挙げてもらった。

カットプレーで大切なこと


カットプレーの基本的な考え方、準備。基本はあるが、常に同じではない。臨機応変に対応することが求められる。また、選手ごとの特徴を把握することや天候などによる事前の準備も欠かせない。キャッチボールをする相手にも意味がある。

“昨秋まで長くキャプテンを務めた宮澤健太郎選手”

宮澤 右中間、左中間が広い球場でホームにつながなければいけないときはセカンドとショートが常に二枚入るというのが通常の考え方かと思います。一枚目にうまくつなげなかったときに、他のランナーに進塁されてしまうのを防ぐためですね。このとき、カットはもちろんまっすぐ入るんですけど、二枚目の位置が難しいですよね。ウチでは、外野手が投げて、一枚目のカットマンがジャンプして捕れないような高い送球を胸で捕れる位置に入るようにしています。もちろん、それは外野手の肩の強さによって変わってきます。肩が強くなければ詰めなきゃいけないし、球が伸びてくる強肩の持ち主のときは下がらなきゃいけない。クッションボールがポトッと落ちたときは投げるのが難しいから詰めないといけないですし、その距離はシートノックのときから、「今のは近かった、遠かった」とか常に話すようにしています。

 肩の強さだけでなく、シュートする選手もいますよね。そういう選手の場合は、シュート回転を想定して、ちょっとラインより内側に入って呼んでやる。その他、風が強いときは送球がそれることが多いと思います。それると進塁される可能性があるので、「強風のときはカットでつないで正確に」と言いますね。内野手がめちゃくちゃ肩が強ければ、外野手は渡して内野手がすぐ投げればそっちの方が速い。大事なのは、いかにホームまで速くつなぐか。つなぐだけでなくタッチもしなきゃいけないので、常にタッチまでのスピードを意識してやっていますね。

 肩の強さやシュート回転など選手の特徴は全員で共有します。また、今年はコーチの提案で、人による送球のクセを把握するためにキャッチボールも月ごとに相手を変えてやっています。僕は今、レフトの選手とやっていますが、レフトからの送球をイメージしながらやるようにしています。いろんな選手の球筋や球質、どれだけ投げられるかを知るのは大事だと思います。

カットに入る際の注意点。宮澤選手が指摘してくれたのはまさに盲点。ただカットに行けばいいのではなく、いかに速く行くか。速く行くことで準備する時間が生まれる。呼び方も重要。ちょっとしたことに気を遣えるかどうかが、ミスを防ぎ、ビッグプレーを生む要因になる。

宮澤 カットマンの入る位置に関して、カットに行くときに、打球に合わせて、ふらふら入っていく選手がいるんですよ。そうじゃなくて、とにかく「“このへんに来るだろう”というところまでダーッと思い切り走って行って、そこで微調整して呼んで、ランナーの状況を見ながらもらえ」と。僕は、そっちの方がいいと思います。もちろん打球に合わせて行くのは簡単なんですけど、そうなると(外野手との)距離を詰められていないことがあるんですよ。肩が弱い選手なのに遠くで呼んでしまって、カットマンがしんどくて投げられないとか。タッチまでの時間が遅くなっちゃうんですね。夏とかになると、二遊間もわざわざそっちまで全力で行くのはしんどいですよね。それでも「ちゃんと行ってやれ」と言うようにしています。
 呼ぶときは大きく呼ばないとダメです。大きな声、大きなジェスチャーで呼ぶ。よく「つなぐ」と言うけど、「気持ちをつなぐんだよ」と。外野手も内野手がジェスチャーで呼んでくれたら投げやすいじゃないですか。外野手もホームでアウトにしようといいボールを投げようと思うと思いますし。プロみたいに完成されていれば(小さく呼ぶのでも)いいですけど、そうじゃない。強いチームといってもミスが起こるわけですし、一発勝負はそういうミスで負けるケースもあります。できるだけ大きく呼んであげて、そこからの送球。高校生なんかは、気を緩めずにというか、そういうところで怠けずに、毎日積み重ねることがホント大事だと思います。

[page_break:宮澤選手から高校球児にアドバイス]

宮澤選手から高校球児にアドバイス

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カットプレーが勝負を決めるといっても過言ではない。明らかにアウトにできるタイミングをセーフにすれば負けるし、間一髪でアウトにすれば勝利を引き寄せることができる。

宮澤 やっぱり、ミスが起こりやすいのは多くの人がかかわるプレーですよね。外野から内野、内野からキャッチャーとなれば、間の声のかけあいもありますしね。ただ、そういうプレーでアウトにしたら絶対に流れがこっちに来るし、そこでミスがあると負ける、というくらいこだわりを持ってやっています。去年の優勝した大会でもあったのが、レフト線の打球を7→6→2とつないでアウトにしたプレー。ふりかえってみると、そういうクロスプレーでアウトにしたときって、勝ってるんですよね。しかも、レフトとショートは2年目の選手。若い選手もできるようになって、ピッチャーを助けられるチームになった。練習を結果に結びつけられたなと思います。

最後にフォーメーション、特にカットプレーに対して、宮澤選手から高校球児にアドバイスをもらった。

宮澤 野球は個人でやるスポーツじゃなくて、チームでやるスポーツなので、絶対に(カットプレーが)うまい人と苦手な人がいると思うんですよ。でも、高校生なら苦手な人が試合に出る可能性もあるじゃないですか。もちろん、個人の守備力が大切ですが、上手い選手がどうやってカバーしてやれるか。そういうところまでチームみんなで考えてやってほしいですね。失点を防ぐとか、ピッチャーを助けてやるとか、そういうのが守備。もし、ミスが出てしまっても、エラーの分も、投手であったり、周りの野手がなんとかカバーする。そして、おれが絶対にカバーしてやるという気迫が大切です。野球って、カバーのしあいじゃないですか。チーム全員で気持ちのつなぎを大事にして、チーム力を高めていってほしいですね。
 連係プレーに関していえば、これはこうというセオリーのようなものはないと思います。チームによって、ここが弱いからウチはこうしていこうというオリジナリティーがあってもいい。それが正解だと思うんですよね。みんなでカバーしながら、技術を向上させていく。これが大事だと思います。

(取材・構成=田尻賢誉

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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