Column

松井秀喜の再来か?清宮幸太郎(早稲田実業)の打撃スタイルを徹底解説!

2015.07.15

 登場すれば、大きくニュースになる早稲田実業清宮 幸太郎。これほど注目を受けると普通の高校生ではなかなか実力を発揮できないものだが、そのプレッシャーを楽しんでいるかのように規格外のパフォーマンスを残す清宮は別格である。今回は清宮 幸太郎の打撃スタイルを小関 順二氏が徹底解説!

春季大会の打撃から見える積極的な打撃スタイル

清宮 幸太郎(早稲田実業)

 選抜大会後、高校野球界の話題をさらったのが早稲田実の1年生スラッガー、清宮 幸太郎(一塁手)の強打だ。春季東京都大会4回戦早大学院戦で5打数3安打の固め打ちを披露、翌日の日刊スポーツは「ヤマ発監督父助言で 早実清宮3安打」の見出しでそのデビュー戦を華々しく飾った。

 ここに書かれた「ヤマ発」とはラグビーのトップリーグ「ヤマハ発動機」のことで、「監督父」とはヤマハ発動機のラグビー部監督で幸太郎の父、清宮 克幸氏のことだ。同月18日の東京都大会準々決勝では5回表に3ランを放ち、関東一高を一時的にだが逆転している(最終的には18対11で敗れている)。翌日の日刊スポーツはこの活躍を裏一面で取り上げ、見出しは小川 淳司・ヤクルトSD(シニアディレクター)のコメントをそのまま使い、「清宮末恐ろしい」だった。

 私はこの2戦をバックネット裏から見ていて、その積極的なバッティングスタイルに引き込まれた。早大学院戦では第1打席、ストライクをすべて振って一塁線を破る二塁打、第4打席は1ボールからの変化球を前さばきで捉えて右中間に持っていくヒットだった。

 関東一戦の第3打席に放った3ランは1ボール後の真ん中ストレートを、扇子を仰ぐような力みのないスイングで振り抜いて右中間のネットに突き刺している。日刊スポーツはその推定飛距離を「130メートル」と紹介している。そして、第4打席のライト前ヒットは初球のスライダーを打ったものだ。

 私は最近ノートに1球ずつのスコアをつけていて、見逃しの少ないチームの勝率が高いことに気づいた。私の「見逃しが少ない」目安は15パーセント以下で、たとえば161球中見逃しのストライクが22あれば、その見逃し率は13.7パーセントになる。私が最近見た見逃しが少ないチームの勝敗を見ていこう。

5/ 5 ○亜細亜大8.3%、拓殖大15.9%=亜細亜大8対4拓殖大
5/ 7 ○亜細亜大13%、拓殖大22.2%=亜細亜大6対3拓殖大
5/ 9 ○城西大14.9%、筑波大20.6%=城西大2対1筑波大
5/12 ○亜細亜大11.2%、國學院大15.9%=亜細亜大7対1國學院大
5/13 ○中央大14. 3%、駒澤大18.7%=中央大15対8駒澤大
5/16 ●明秀日立9.9%、前橋育英14.5%=明秀日立5対6前橋育英
5/16 ○川越東12.5%、相模原17.4%=川越東8対0相模原
5/17 ○作新学院13.7%、日大三18.5%=作新学院11対6日大三
5/18 ○浦和学院13.8%、前橋育英16.5%=浦和学院6対2前橋育英


注目記事
・第97回全国高等学校野球選手権大会特設ページ
・夏よりも熱い!全国の野球部に迫った人気企画 「僕らの熱い夏2015」
・各地区の選手権大会のみどころは?!展望をチェック!

このページのトップへ

[page_break:好球必打を浸透させるのは時間がかかるからこそ、清宮のスタイルは大きなアドバンテージ]

好球必打を浸透させるのは時間がかかるからこそ、清宮のスタイルは大きなアドバンテージ

清宮 幸太郎(早稲田実業)

 5月9日の城西大筑波大の試合後、元プロ野球選手、代田 建紀城西大コーチ(元ロッテ)に話を聞くと、大学生をコーチするとき最も苦労したのが好球必打を浸透させることだと言い、さらに次のようなことを言った。

「早いカウントではだいぶできるようになりましたが、フルカウントになるとどうしてもフォアボールが欲しくなってスイングを躊躇しますから」

 プロとアマチュアの違いは色々な部分に散見できるが、たとえば好球必打の重要性に気づいているのがプロ、待球に意味を見出そうとしているのがアマチュアだと言っていい。

「まず何を見るかと言われれば、1球目から振っていける選手かどうか、という点です。ボールを見て、見て、という子はどうしても時間がかかる」(Number 832号「スラッガー養成校の謎を追え」)

 これは大阪桐蔭高、西谷 浩一監督の言葉で、初球から積極的に打っていく浅村 栄斗2013年インタビュー2014年インタビュー2015年インタビュー森 友哉(西武)2014年インタビュー平田 良介(中日)2009年インタビューが同校から輩出されているのを見れば納得できる言葉だ。これらの話を総合して清宮 幸太郎を見ると、高校1年の春の段階で既にプロっぽい感性でバットを振っていることがわかる。小川SDがつぶやいた「末恐ろしい」は私も同感である。

 スポーツ紙には清宮の発言がいろいろ取り上げられている。たとえば日刊スポーツは「(高校通算ホームランを)80本くらい打ちたい」「プロになりたい。それ以上の力があるならメジャーに行きたい。納得がいくのはホームランだけです」という言葉を紹介している。このビッグマウスに刺激されたのか、スポーツマスコミは早くもPL学園で春夏甲子園通算13ホームランを放っている清原 和博(元西武、巨人など)と比較しようとするが、待ってほしい。

 清原は春夏甲子園大会すべてに出場して、投手の桑田 真澄(元巨人など)2013年インタビューとともにチームを優勝2回、準優勝2回、準決勝進出1回に導いている。自身の甲子園での打撃成績は91打数、40安打、13本塁打、29打点、打率.440と群を抜いている。もう1人の長距離砲、松井 秀喜(元巨人、ヤンキースなど)も星稜高時代、春夏の甲子園大会で通算4本塁打を放ち、その豪打を恐れた対戦校・明徳義塾高が5打席すべてを敬遠で歩かせる作戦を執り、試合には勝ったものの観客の轟々たる非難を浴びるという逸話を作った。

 清宮の素質が尋常でないことはわかるが、清原や松井と並び称されるためには甲子園の大舞台での実績が必要である。1年夏、2年春夏、3年春夏――この5回の甲子園大会に足を運ぶためには運が必要になる。清宮1人が突出していてもチームに勝ち進む総合力がなければ甲子園には届かない。今年の早稲田実は4番加藤 雅樹(3年・捕手)をはじめ攻撃力には定評があるが、投手力に安定感がない。この早稲田実を自身のバットで甲子園まで押し上げることができるかどうか、清原、松井と比較されるための第一歩である。


注目記事
・第97回全国高等学校野球選手権大会特設ページ
・夏よりも熱い!全国の野球部に迫った人気企画 「僕らの熱い夏2015」
・各地区の選手権大会のみどころは?!展望をチェック!

このページのトップへ

[page_break:プルヒッターの清宮は松井秀喜に近い]

プルヒッターの清宮は松井秀喜に近い

清宮 幸太郎(早稲田実業)

 さて清宮 幸太郎のバッティングスタイルだが、清原と松井、どちらがより近いのだろう。まず、私が見た2試合、全打席の打球方向を見てみよう。

◇4/12(早大学院戦)( )内は打席数
(1)右二塁打、(2)二飛、(3)一安打、(4)右安打、(5)二飛
◇4/18(関東一戦)
(1)右飛、(2)右飛、(3)右中間本塁打、(4)右安打、(5)三邪

 全10打席中、レフト方向の打球は1つしか記録していない。完全なプルヒッターと言っていい。それでは清原、松井はどうだろう。2人のホームランを放ったときの打球方向を見てみよう。

清原 和博PL学園)( )内はホームランの号数
(1)右、(2)左、(3)左、(4)右、(5)右、(6)左、(7)左、(8)左、(9)左、(10)左、(11)左、(12)左、(13)中
松井 秀喜星稜高)
(1)右中、(2)右中、(3)右中、(4)右

 清原は左9、中1、右3と打ち分け、松井は4本すべて右方向へのホームランである。プロ入りしてからの打球方向も見てみよう。清原は巨人で32本塁打を記録した97年、松井はやはり巨人で42本塁打を記録した00年の、ホームランの打球方向である(ともに全盛期の年)。

清原(97年)……左14、中10、右8
松井(00年)……左3、中9、右30

 広角打法の清原、引っ張りの松井という傾向がしっかりあぶり出されてくる。松井のリストの返しを参考にしていると公言している清宮は、その打撃スタイル全般でも松井に近いものを持っていると言っていいだろう。

(文=小関 順二


注目記事
・第97回全国高等学校野球選手権大会特設ページ
・夏よりも熱い!全国の野球部に迫った人気企画 「僕らの熱い夏2015」
・各地区の選手権大会のみどころは?!展望をチェック!

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.24

東京国際大の新入生は、リーグ戦デビューの二松学舎大附の右腕、甲子園4強・神村学園捕手、仙台育英スラッガーら俊英ぞろい!

2024.04.24

【福島】田村、日大東北、只見、福島が初戦を突破<春季県大会支部予選>

2024.04.24

【佐賀】敬徳と有田工がNHK杯出場を決める<春季地区大会>

2024.04.24

【春季四国大会逸材紹介・香川編】高松商に「シン・浅野翔吾」が!尽誠学園は技巧派2年生右腕がチームの命運握る

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.23

【春季埼玉県大会】地区大会屈指の好カードは川口市立が浦和実を8回逆転で下し県大会へ!

2024.04.21

【神奈川春季大会】慶応義塾が快勝でベスト8入り! 敗れた川崎総合科学も創部初シード権獲得で実りのある春に

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!