執念の復活打、丸のバットにチームメートへの感謝の気持ちが伝わった
丸佳浩(ジャイアンツ)
目がうるんでいるようにも見えた。
巨人・丸の表情のことだ。25打席連続無安打と屈辱にまみれていた好打者が、死に物狂いでバットを振った。6戦勝ち無しで迎えた9日のDeNA戦。自分が打ち取られれば負けてしまう場面で、チームを救う同点タイムリーを放った。26打席ぶりの安打。一塁ベース上で、忘れていたヒットの感触に酔っていたのか、それとも三塁側ベンチの歓喜を見て、こみ上げるものがあったのか…。苦しさのなかでもがく男が、ちょっとだけ解放された。そんな「表情」だった。
結果的に丸がチームを救った形だが「チームで丸を救った」と思っている。巨人は3点ビハインドの9回、先頭打者の代打亀井が二塁打を放った後で二死三塁。あと1人というところまで追い込まれて、丸までつないだのだ。吉川、岡本和、中田と3連打。吉川はクリーンヒットだったが、岡本和は1発同点の場面でも無理な強振はせずにヒットを放った。中田も日本ハムから移籍後、打率は1割台と苦しみながら、三遊間の当たりに一塁に全力疾走した。そして、途中出場していた丸までつなげたのだ。復活劇をお膳立てしたのである。
丸は打ちたい気持ち以上に、打たなければならない気持ちになった。だから、打てた、と思いたい。優勝できるチームは、こういう雰囲気を作っていくものだ。
個人的にはDeNAに勝ってもらいたかったという気持ちもあった。この日、先発は福岡大大濠出身の坂本だった。5回を2失点に抑え、勝利投手の権利があった。中継ぎの奮闘もあり、守護神三嶋までつないだ。この三嶋は福岡工出身。坂本同様、大学で大きく成長してプロ入りしている。この2人同様に「福岡県人」である私は、ちょっと誇らしげに思っていたが、勝負の世界はそんなに甘くない。
坂本も三嶋も、高校時代は甲子園を経験していない。智辯学園出身の岡本和、大阪桐蔭出身の中田、千葉経大附の丸。甲子園を知っている3人には、打たれたくなかったはずだ。丸が雪辱を果たしたように、今度は三嶋が次の巨人戦でやり返せばいい。
(記事=浦田由紀夫)