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【21世紀枠】最終候補9校の推薦理由と地区選考状況

2012.12.15

第85回選抜高校野球 21世紀枠最終候補校

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【21世紀枠】最終候補9校の推薦理由と地区選考状況 | 高校野球ドットコム

21世紀枠候補選出に喜びを見せる日立一ナイン

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第85回記念選抜高校野球大会の21世紀枠候補9校が選出された。

各候補校の推薦理由と地区選考状況は以下の通り(発表文から引用)

北海道:遠軽(北北海道・道立)

・高校別データ:遠軽
・学校創立:1940年 生徒数:578人(男子312,女子266)
・野球部創部:1947年 部員数:56人 甲子園:出場経験なし
秋季北海道大会ベスト4 夏は2年連続で北北海道大会準優勝

【推薦理由】
オホーツク管内西武に位置する人口2万2千人の遠軽町にある町内唯一の道立高校。8割以上の生徒が町内から通学するなど、地域の中心校として役割を果たしてきている。
地域や北海道の将来を担う人材育成を目指し、前北海道知事の堀達也氏や、世界的アニメーターの安彦良和氏などを輩出している。また、町内の中心校として地域の活性化に積極的に関わり、町内施設の除草作業をはじめとして、様々な活動に全校生徒が参加。町の夏祭りでは「千人踊り」を演舞するなど、生徒・教職員共に尽力している。

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秋季北海道大会 準決勝 観戦記事より

野球部は単に技術の鍛錬に励むのではなく、まず第一に「町内への貢献」、「町民からの信頼」を意識した活動を行っている。校内の規定により19時完全下校で、選手個々が創意工夫をしていく伝統が形成され、重点を絞った練習メニューの工夫や始業まで1時間程度の朝練習など効率よく練習に取り組み、常に集中力を高め、少ない時間の中で無駄なく練習するために全力疾走を心がけるなど、機敏な行動を身につける努力を行っている。その姿は、強豪校も含め、北海道地区のチームにとって模範となるべきものがある。
実力・マナー・高校野球に取り組む姿勢・地域への貢献度・話題性においても申し分なく、高校野球の原点とも言えるチームである。

【地区選考状況】
秋季北海道大会の戦績から「21世紀枠」の選考基準及び推薦内規に準じて満場一致で選出した。
今回の選考に当たり、他チームの模範となり、地域によい影響を与え。住民からも応援されていること。地元地域からの選手中心であること。学習と部活動を両立させている文武両道の学校であること。近年の試合成績が良好かつ強豪校との対戦で惜敗し、甲子園出場機会に恵まれない学校であること等、総合的に判断し選考した。

東北:いわき海星(福島・県立)

・高校別データ:いわき海星
・学校創立:1934年 生徒数:383人(男子318,女子65)
・野球部創部:1960年 部員数:18人 甲子園出場:経験なし
秋季福島県大会ベスト16 

【推薦理由】
1934年設立の福島県水産講習所を前身とし、戦後の学制改革を経て、福島県立小名浜水産高等学校と改称。1995年から現在の校名となった。
福島県最大の港・小名浜湊を背景に創立以来一貫して「有為なる水産人の育成」の教育目標に掲げ、70年余の歴史と伝統を誇る県下唯一の水産・海洋系の高校である。7千名余を数える卒業生は国内はもとより、世界の海上、陸上で活躍している。
野球部は1960年に軟式野球部として創部し、1986年に硬式野球に移行。水産高校特有の年3回の約2ヵ月にも及ぶ遠洋航海実習で全員揃って活動することが思うように出来ないなどで低迷が続いていたが、指導者として甲子園経験のある前監督と、それを引き継いだ現監督になり徐々に頭角を現し県大会にも出場できるようになってきた。
そんな中で東日本大震災が発生。小名浜地区にある当校は県内で唯一、津波による壊滅的な被害を受けた。その後、福島第一原子力発電所の事故が発生し、原発に近いいわき市民の多くが県内外に避難。放射性物質の海洋汚染を引き起こし、漁民に与えた影響は計り知れないものがある。未だ県内、とりわけいわき地区の漁業再開の見通しは立っていないのが現状。
学校は震災後、4月中旬の授業再開へ向けて懸命な復旧工事が行われたが、ライフラインの復旧が見込めなかったため、近くに県立高校の校舎を借り厳しい環境の中で授業は最下位、昨年12月、義捐金等で校舎の応急修繕がなされて元の校舎に戻れたが、現在も1階は使用不能で、上下水道普通、グラウンド、堤防は未整備の状態が続いている。また、海洋科の海を利用した漁業実習等は全く行えず、全国各地の水産高校の施設を借りて実習を行っている。

野球部も例外ではなく、練習再開は昨年4月末。野球道具のほとんどを津波によって流され、誰もが活動継続は困難と考えられていたが、全国各地からの温かい支援のもと活動が可能になった。昨年は使えなかったグラウンドも、各種団体のボランティアに助けを受け本年5月には一部が使用できるようになったものの、瓦礫を含んだ砂浜状態のグラウンドを元に戻すにはまだまだ時間がかかるという。
このような厳しい状況の中でも、部員たちは野球が出来る環境を得たことに感謝し、被災して落ち込んだ気持ちを奮い立たせ真剣に取り組んできた。
昨年の秋季県大会では部員5名を遠洋航海実習で欠きながらベスト16に進出。今秋の県大会も同様に4名を欠いていたが、2年連続のベスト16に進出して、県内無敵の聖光学院と5回まで両チーム無得点という好ゲームを展開した。
地震、津波、原発事故という未曽有の大惨事に中でも夢をあきらめずに頑張っている姿こそ、「21世紀枠」候補校に相応しいと判断するとともに、風評被害で苦しんでいる福島県民に夢と希望、そして元気を与えてくれることを確信し、推薦校とする。

【地区選考状況】
東北地区各県より推薦校についての詳細な説明と、質疑が行われた。各県それぞれの学校が、それぞれの想いをこめて推薦されてきているため、どのように選考するかのポイントを絞ることにかなり難航した。
東北の現在置かれている環境・状況が、震災以来、劇的な改善がなんら見られない。そんな中、地域の方々が耐え忍んでいる状況があり、地域の皆さんにも明るい話題を提供し、活力を感じていただくためには、困難に立ち向かって頑張っている学校を選ぶべきであろうとの「方針」が決められ、まず4校までに絞り検討を行った。
その後、最終的に青森、宮城、福島の3校の中から、過去日本中のどこも経験したことの無い、放射能という目に見えない恐怖、風評被害による地域産業の苦悩等を抱えながら、地元のみならず日本の産業の活性化を目指そうと懸命に努力を続ける姿勢と、野球にも必死に取り組んでいる姿勢に対し、彼らこそ21世紀枠の理念に当てはまる高校球児であると、満場一致でいわき海星を東北地区の推薦校として決定した。

関東・東京:日立第一(茨城・県立)

・高校別データ:日立一
・学校創立:1927年 生徒数:876人(男子503,女子373)
・野球部創部:1947年 部員数:23人 甲子園出場:経験1回 (1985年夏)
秋季茨城県大会ベスト8 

【推薦理由】
(日立市は)福島県に近く、県内で最も東日本大震災の被災を受けた放射能汚染などの影響が大きい地域である。

野球部は「人とのつながり」を重視。「社会人によるセミナー」「大学とのバディシステム研究」等を取り入れた。生徒とのコミュニケーションを重視するため、「ミーティング室」を真っ先に整備した中山監督のもと、対話の指導を続けた。

また、「本物」に触れることを重視するため、野球部独自で「東京六大学野球見学」「甲子園見学」だけでなく、「広島原爆資料館見学」「美術館見学」等、野球以外からも学ぶ姿勢を養い、幅広く興味関心を抱かせ、人間味豊かな生徒の育成に努めている。
日常の奉仕活動だけでなく、ボランティア活動にも従事。東日本大震災被災地の岩手県大槌町では、仮設住宅への弁当手配や通学路の雪かき。釜石市では鵜住居小学校の仮設校舎への引っ越し作業を手伝った。大槌高校野球部とも交流を通じ、野球を出来ることの喜びが大きな財産となっている。

選手わずか23名の公立進学校が、他の部活と狭いグラウンドを共有して必死につかんだ13年ぶりの県大会ベスト8は偶然の勝利ではなかった。

【地区選考状況】
関東・東京の各都県理事長より、推薦校の説明を行い、その後記載事項についての質問があった。活発な意見の中、推薦校の各大会への取り組み状況、チームの特徴、投手力・攻撃力などの説明も行われた。私立2校については、「特に困難な環境の中」という推薦基準から外れているという意見もあった。
審議を進め、推薦基準に照らし合わせて2~3校に絞り、結果、激戦区東京の「普通の公立校」と、震災もあり「文武両道の進学校である」茨城県の2校に絞り込んで最終プレゼンテーションを行った。惜敗した試合説明を求めるなど、熟慮の結果、出席者全員の『満場一致』で東京・関東地区に代表校に『茨城県立日立第一高等学校』が選出された。

[page_break:豊川、五泉、堀川]

東海:豊川(愛知・私立)

・高校別データ:豊川
・学校創立:1928年 生徒数:1193人(男子723,女子470)
・野球部創部:1946年 部員数:89人 甲子園出場:経験なし
秋季愛知県大会準優勝 秋季東海大会1回戦 

【推薦理由】
豊川稲荷が学園母体。曹洞宗管長で大本山永平寺貫主の福山諦法禅師が前理事長を務めていた誇りある学園である。
その類なき誇りを胸に「和敬・信愛・利他・報恩」の校訓の下、学習と野球道の両立に向け部員たちは日々努力を重ねている。「心を整える」ことを柱に、高校生の基本たる容儀服装、挨拶、そしてマネーの徹底。また、宗教の授業における座禅を通しての自己の振り返りなど「人としてどう生きるか、どう社会に貢献できるか」を大切にし、常に考え行動している。

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森口練太郎(豊川)

グラウンド、スタンドでの明るく爽やかな部員たちの姿は、まさに校訓の具現化であり、幅広い視野に立って、物事を見ることのでこる人材育成を目指している。野球部は60年余の歴史があり、毎朝、部員は7時に部訓を全員で言葉に出して言うことから始まる。また、毎朝校内の2箇所にある門においての挨拶運動や学校前の交通量が多い交差点で交通安全指導を行うなどして、日々の練習と生活に打ちこんでいる。

オフシーズンには、市内にある身体障害者施設を慰問して、部員全員でのガラス拭きや落ち葉集めなどの清掃活動を行うとともに、風船バレーボールや「ボッチャ」という競技を入所者の方々と一緒に行っている。

施設の方々からはお礼のみならず甲子園出場を楽しみにしているなどの激励の言葉をいただいておち、部員にとっても楽しみな行事となっている。

【地区選考状況】
東海4県から推薦された候補校は、甲乙つけがたく選考には大変苦慮した。
静岡・大井川は来年度が統廃合の対象で現校名は最後。粘りあるチームで高校野球の手本となるチームだった。三重・津商は大正9年創立で、女子生徒が増えて野球部の活動ができない状況に陥ったが、近年は指導者と学校の努力で部員確保を行い、陸上部やソフトボール部との共有グラウンドながら限られた施設の中で工夫して2年連続秋季東海大会に駒を進めた。
岐阜・長良は普通科進学校として学業と部活動を両立し、大学へ進学して将来高校野球の指導者を目指す生徒が多くいる。練習時間も限られた中で県大会ベスト8に入り候補校となった。愛知・豊川は宗教の授業から社会貢献を学び、ボランティア活動で身体障害者施設の慰問を行ったり清掃活動に力を入れて心の触れ合いを大切にしている学校。今年のチームは東海大会で惜敗し悔しい思いをした。
以上の4校を審議した結果、力に優り、高校生らしいグラウンドでの動きを評価して東海地区候補を豊川と決定した。

北信越:五泉(新潟・県立)

・高校別データ:五泉
・学校創立:1921年 生徒数:759人(男子365,女子394)
・野球部創部:1963年 部員数:28人 甲子園出場:経験なし
秋季新潟県大会ベスト4 秋季北信越大会1回戦 

【推薦理由】
1921年に五泉農商補修学校として創立、2012年に創立90周年を迎えた歴史と伝統を持つ。総合学科19級からなる共学の公立校。昨年度実績で4年生大学125名、短大29名の合格者を輩出。生徒の約55%が進学し、約35%が専門学校、約15%が就職と、総合学科の特長を生かした自らの進路希望実現に成果をあげている。
同校はほぼ全員が部活動をしており、スポーツ部、文化部いずれも活発に活動している。中でも陸上競技部、弓道部、女子ソフトボール部、吹奏楽部はインターハイをはじめ上位大会へ出場をするなど県下の強豪校として多くの実績を残している。

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秋季新潟県大会 決勝 観戦記事より

「地域に支えられ、地域と共に歩む地域密着型高校」を目指しており、野球部においては毎年、五泉市主催の「青少年育成協議会スポーツ大会」や「マラソン大会」、「市民音楽祭」等で機材運搬、審判等、裏方として運営面に協力するなど、地元地域の文化・スポーツ活動に多大な貢献をしている。

野球部は「みんなで・笑顔で・全力で」をモットーとしており、何事にも常に「全員」で取り組む姿勢が浸透している。強豪校にチーム一丸となって立ち向かう姿は他校の模範となっており、今秋季大会においてもその姿勢をつら向き、粘り強い戦いで結果を残した。

監督の後藤桂太氏は保健体育科教諭。専門種目は野球だが、前任校では女子バレーボール部の監督として指揮を執った。また、新潟県の教科研究員を2年連続で務め、県の教科研修会において研究成果を発表するなど、部活動指導だけでなく、授業研究や生徒指導でも卓越した能力を発揮している。
1991年春の新潟大会初優勝以来、公立の強豪校として度々上位に進出しており、野球部を応援する市民にとってに甲子園出場は悲願である。

【地区選考状況】
北信越5県の候補校を協議する中で、環境美化への取り組みが顕著な石川・大聖寺、通算3度目の選出となる長野・諏訪清陵、そして新潟・五泉の3校が候補に残った。
その中で、継続的な地域貢献やあと一歩での敗戦となった試合ぶりが評価され、最終的に五泉高校が満場一致で地区推薦校に選出された。

近畿:堀川(京都・市立)

・高校別データ:堀川
・学校創立:1908年 生徒数:751人(男子420,女子331)
・野球部創部:1948年 部員数:41人 甲子園出場:経験1回(1956年春)
秋季京都府ベスト16  

【推薦理由】
1908年に創立された京都市立堀川高等女学校を前身とし、1948年の学制改革により普通・商業・家庭・音楽の4科をもつ京都市立堀川高校となった。その後、商業と家庭科が廃止、音楽科が独立(現・京都市立堀川音楽高等学校)し、普通科のみの高校となった。
指揮者の佐渡裕氏、バイオリニストの葉加瀬太郎氏などの音楽家や、俳優の故・藤田まこと氏、服飾デザイナーの市田ひろみ氏、弁護士で元法務大臣官房長の堀田力氏、拉致被害者家族の中心として救済を訴えている横田早紀江氏、現京都市長の門川大作氏なども堀川高校の卒業生である。
堀川高校は、『市立高校改革のパイロット校』として、1999年、普通科に加え探求科(人間探求科・自然探求科)を新設。探求科は、探究心や想像力を有する21世紀の科学・文化の担い手を育成することを目標として、大学での高度な専門研究に向けた基礎能力を培う専門学科としてスタートした。現在では地元の京都大学に毎年現役で30~40名合格し、全国で『堀川の奇跡』と注目されてきた。2002年、文部科学省から『スーパーサイエンスハイスクール(SSH)』に指定され、その後も2005年、2010年と指定を受け、現在3期連続のSSH研究指定校となり、『コアSSH採択校』となっている。
校訓『立志・勉励・自主・友愛』に基づいて、想像力と創造力に富み、判断力と行動力を備えた『自立する18歳』の育成を図るたけ、『豊かな学校』を構築することを最高目標としている。

野球部もこの考えに沿って、何の特別待遇も受けない真の文武両道を目指している。毎朝実施している校内外の清掃、そして校内に響き渡る「おはようございます」という野球部員の挨拶で一日が始まると言われている。1956年の第28回選抜高校野球大会に出場し、ベスト8に進出。現在部員は41名いるが、7~8年前は部員も10~13人程度で練習試合では10点差以上で敗れることも多く、2対42で敗れた時もあった。「今できることをしよう」と選手と涙しながらミーティングを行い、その時に始まったのが元気ある大声とグラウンド内での全力疾走であった。
「京都一元気のあるチームになる」を合い言葉に今日まで歩んできた。

【地区選考状況】
近畿各府県から、それぞれ21世紀枠にふさわしい高校が推薦され激論を極めた。その中で、学業に大いに力を入れ、その成果を十分に発揮すると同時に学校行事にも積極的に参加し、その上で元気一杯のはつらるプレーで観ている人たいに感動を与える堀川をまさしく『文武両道』『最も21世紀枠にふさわしい高校』として、最終的に満場一致で近畿地区からの推薦校に決定した。

[page_break:益田翔陽、土佐、門司学園]

中国:益田翔陽(島根・県立)

・高校別データ:益田翔陽
・学校創立:2006年 生徒数:418人(男子267,女子151)
・野球部創部:2006年 部員数:37人 甲子園出場:経験なし
(統合前に益田産、益田農林として1回ずつ夏の甲子園に出場経験がある)
秋季島根県大会優勝 秋季中国大会1回戦 

【推薦理由】
高齢化率が30~40%に達する過疎化に悩む島根県西部に位置し、2006年に益田産業高校と益田工業高校を統合した県内初の複合型専門学校。当初は5学科(電子機械科、電気科、生物生産工学科、環境土木科、総合学科)でスタートしたが、過疎化と少子化の影響をすぐに受け、2009年に4学科(電子機械科、電気科、生物環境工学科、総合学科)になった。
1年次に地元企業の見学、2年次に3日間の地元でのインターンシップと県外企業見学、全学年を対象とした職業講話等のキャリア教育を実施している。また、各学科において専門性を活かした現場実習だけでなく、地域住民を対象とした各種農産物と加工品等を扱う『市』の開催、保育園・幼稚園児との芋植と芋堀り、工業系生徒のイチゴジャム製作、中学校への出前授業、地域の高齢者宅を訪問し無償の電気配線の調整を行う活動、各種資格取得の奨励等、地域に根ざしつつ広い視野を併せ持った教育を行っている。こうした実践が評価され、2010年に島根県の高校単独としては初めて「キャリア教育優良学校」として文部科学省から表彰を受けた。今年度には、電気修理ボランティアで地域貢献が認められ、時事通信社『教育奨励賞』を受賞した。

野球部は2006年の統合により連合チームを組んでスタート。当初はチームワークを高めるのに苦労していたが、全員地元出身の選手だけで構成されているため次第になれ、「礼儀と挨拶」をチームの座右の銘とし、グラウンド内ではきびきびとした行動を心がけ、校内でも遠くから元気ある挨拶が聞こえてくる。
日々の練習では上記の実習や資格取得の補習などに積極的に取り組んでいるため、全員が揃って練習する時間の確保が難しく、土日にしっかりち練習時間を取るようにしている。
卒業生の進路は、資格取得を利用して県外大企業や地元企業に就職している。

【地区選考状況】
中国地区各県の理事長が候補校の推薦理由を述べた。山口・豊浦は困難条件克服・文武両道・秋季県大会結果の項目、広島・呉商は困難条件克服・秋季県大会結果・甲子園出場機会に恵まれない項目、岡山・玉島商は困難条件克服・秋季県大会結果・ボランティアの項目、鳥取・倉吉東は文武両道・近年の成績・甲子園出場から遠ざかっている項目、島根・益田翔陽は困難条件克服・文武両道・他校の模範の推薦項目の説明があった。
いずれも甲乙つけがたかったが、秋季県大会結果・部活動以外の活動の観点から、玉島商益田翔陽に絞られた。
さらに詳細に検討した結果、マナーも良く他校の模範となっていること、過疎化と少子化の影響を受けての統廃合や部員確保の苦労などの困難条件克服、電気修理ボランティアや『市』を通して地域に根ざした教育を行っている益田翔陽に決定した。

四国:土佐(高知・私立)

・高校別データ:土佐
・学校創立:1920年 生徒数:912人(男子543,女子369)
・野球部創部:1947年 部員数:30人 甲子園出場経験:春6回、夏4回(最終出場は1993年春)
秋季高知県大会ベスト4 秋季四国大会1回戦 

【推薦理由】
1920年創立の高知県を代表する進学校、一般生徒はもちろん野球部員も旧帝国大をはじめとしる難関大学や東京六大学への進学実績がある。
野球部1947年創部で60年以上の歴史をもち、各方面で野球部OBの活躍が目立つ。例えば先頃、東京大学野球部監督に就任した浜田一志氏は土佐高校野球部のOB。土佐野球部OBと東大野球部監督は岡村甫氏(現高知工科大理事長)に続いて2人目となる、この春には野球部員が現役で東大に受かり、現在、彼を含む2人(もう1人は副主将)が東大野球部で頑張っている。東大に限らず、慶應義塾大で6人など各大学野球部で数多くの主将も輩出している。野球はもちろんのこと、各界のリーダーたらんとするところは土佐高建学の理想とするところである。
また私立でありながら特待生制度を一切とらず、部員のすべてが一般入試を突破し入部している。野球部創部以来、『全力疾走』と『右文尚武(文武両道)』をモットーとし、今日までこの伝統を厳格に守り続けている。土佐の『全力疾走』は高校野球の一つの模範として全国に広く知られている。

【21世紀枠】最終候補9校の推薦理由と地区選考状況 | 高校野球ドットコム

秋季高知県大会 3位決定戦 観戦記事より

『全力疾走』はただ単に走るというものではなく、土佐高生として野球・勉学を含むすべてのことに「ひたむきに取り組む」ことを意味している。さらに少ない練習時間を効果的に使うことや、大事な場面で力を発揮することにもつながっている。まさに『全力疾走』こそが今日の土佐をつくったと言える。
高校野球の理想を実現するために創設した野球部合宿所「右文寮」は、今年で48周年を迎えるが、これまで寮生による自治で運営されてきた。現在、部員の半数強が入寮し、練習後の「90分補習」や就寝前の素振りを日課とする厳格な合宿生活を送っている。歴代監督も寮監として部員と起居を共にし、彼らの人間形成を主目的に勉学や野球に取り組む姿勢を日々指導している。

過去5年間の実績は、高知県大会において優勝が1回、準優勝が2回、ベスト4が7回、ベスト8が2回と非常に安定した結果を残しており、強豪校を脅かす存在として評価されている。
このように勉学と野球の両立に全力で取り組む姿勢はまさに高校野球の本来あるべき姿、原点と言える。

【地区選考状況】
例年通り、四国地区各県理事長によるプレゼンテーションによって推薦理由が述べられ選考に入った。(主催の)毎日新聞社からの通達文や選考基準を確認し各県からの資料を参考に審議を進めた結果、先ず四国大会に出場した今治工、徳島池田、土佐に絞られた。それぞれ甲乙つけ難い特徴、及び魅力ある要素を有しており、まさに横一線の状態で長時間の大激論となった。
かつて甲子園に出場し、長い間甲子園から遠ざかっている2校と未だ甲子園出場がない学校。或いは県立高校の2校と私立といった視点なども加えて多角度の検討を行った。
最終的には、久しく続いた低迷の時期を克服し、近年、秋季県予選で4年連続ベスト4に進出し、3年連続で県の推薦を得ている点。近年の私立に偏重した選手獲得競争が激化する実情の中、同じ私立でありながら、高知県一の入学難関校であり、高いレベルの『文武両道』や土佐の代名詞となった『全力疾走』という伝統を何ら変わりなく実践している点は高校野球の本質であると高く評価され、出席者の満場一致で土佐に決定された。

九州:門司学園(福岡・県立)

・高校別データ:門司学園
・学校創立:2007年 生徒数:500人(男子216,女子284)
・野球部創部:2007年 部員数:26人 甲子園出場:経験無し
秋季福岡県大会準優勝 秋季九州大会2回戦(初戦) 

【推薦理由】
1923年創立の県立門司高校と、1907年創立の県立門司北高校が再編統合し、2007年に開校した新しい学校。福岡県の中高一貫教育モデル校に指定にされている。
北九州市の中でも人口の減少の著しい門司区にあり、学区の改変による生徒の小倉地区への流出とあわせ、クラス減を強いられている。そのような状況の中でも一貫教育の成果もあり、東京大学をはじめ難関大を含む国公立大学への進学実績を着実の伸ばしている。今春は新設3期生が卒業、1クラス減少したにも関わらず1期生の約1.5培にあたる187名中70名強が国公立大学に進学した。野球部員も国公立大学を中心に殆どが進学し、他が公務員として地域社会に貢献。他の生徒の良い刺激となっている。
とはいえ、1・2年生は1学年4クラスの小規模校。しかも高校からの入学者数は1クラス分の40名程度(男子約20名)。野球部に限っては、門司学園中学から進学した部員は1・2年生とも3名ずつと非常に少ないことから、高校から入学する約20名の男子生徒からの入部に期待するしかなく、現状では部員確保が極めて困難な状況である。そのような中、門司学園中学教諭として創部当初から練習を手伝っていた現監督が2009年に野球部監督に就任。監督と主将が毎日練習後に協議して作る練習計画表を翌日の昼休みに部員全員に配布し、その計画に沿って各自が練習内容を把握することで、スムーズな練習開始と効率的な練習が実現。約2時間(7限授業日は1時間40分)の練習時間ながらも、近年は県に3、4戦に進出することも多くなった。

今秋は県大会準優勝、九州大会では初戦で敗れたものの延長13回まで戦うという大熱戦を演じた。
野球部の心構えの一つ『学校や地域に愛される野球部になる』を実践するため、毎朝6時40分頃から最寄り駅の清掃に取り組んでいる。さらに、北九州市が東日本大震災のがれき処理を行うごみ処理施設・新門司工場が学校の近くにあるため日頃から震災への関心が高く、大会の関係で修学旅行に行けなかった2年生部員を中心に被災地の視察や現地の野球部との交流が計画され、1年生部員も賛同している。
このように、学校・野球部ともに品格を保ちながらも困難を克服している姿は21世紀枠の精神を真に体現していると考え推薦校とする。

【地区選考状況】
九州地区各県理事長より推薦校の理由及び学校の特色等に関するプレゼンテーションを行った。選考に先立ち、文書で再確認された21世紀枠の主旨や精神、選考基準の昨年からの変更点等を確認。その結果、あくまでも「21世紀枠選考基準」に則って選考し、地区大会出場等秋季大会の成績のみに偏重しら選考にならないよう留意することを確認した。
選考では先ず、2校を推薦基準や推薦項目を十分に満たしていないという理由ではずれ、他の6校に推薦項目や特色、さらに大会実績等も踏まえながら審議し、門司学園諫早熊本北の3校に絞った。
その後、3校の詳細な比較検討を行った。3校とも困難条件の克服や指導者・部員の創意工夫した練習、進学実績や学業との両立、さらに地域活動等において甲乙つけがたいが、県立高校として激戦県(福岡)を勝ち上がった点と、母体となった門司・門司北両校を含め甲子園出場の機会に恵まれていない点を理由とし、全会一致で門司学園が九州地区の候補校として決定した。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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【春季和歌山大会】日高が桐蔭に7回コールド勝ち!敗れた桐蔭にも期待の2年生右腕が現る

2024.04.16

【春季埼玉県大会】2回に一挙8得点!川口が浦和麗明をコールドで退けて県大会へ!

2024.04.09

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.14

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード