木更津総合vs柏南
進化が止まらない早川隆久、15奪三振の快投!
まさに攻略困難と思わせるピッチングだった。木更津総合・早川隆久。大阪桐蔭を破り、さらに秀岳館を9回二死まで無失点に抑えるなど、チームを選抜ベスト8を導いた早川。だが選抜の投球で何か物足りなさを感じた。それは130キロ台の球速が多かったということ。
以前から130キロ後半を投げていた投手であり、何か抑えていても釈然としたものは感じなかった。ぜひ夏では、パワーアップしたピッチングを見せることを期待していたが、まさに一発回答というべき投球だった。
立ち上がりから、1番竹内心(3年)を3球目を外角ストレートで空振り三振。そのストレートは140キロだった。2番小幡光(3年)も2ストライク2ボールからストレートで空振り三振といきなり三振2つを取る立ち上がりだった。春季大会ではほとんど登板がなかったが、そこからしっかりとリフレッシュをして、身体を鍛え込んで、状態を高めてきたといえる。
早川のフォームは打ち難さ+力強さを兼ね備えている。ノーワインドアップから始動し、ゆったりと足を上げてから、右足を一塁方向へ伸ばしていきながら重心を少しずつ下げていき、着地した瞬間、テークバックを取った左腕は完全に隠れていて、打者からすれば、全く見えない。出所を見難い動きにしようとすると後ろの動きが小さくなる傾向にあるが、早川の場合、テークバックは大きいけれど、出所を見難くできるという理想的な投球フォームだ。しっかりと胸を張って、一気に振りだすが、リリースポイントを打者寄りで離すことができており、球持ちも素晴らしい。高校2年まではフィニッシュ時に膝が割れる癖があったが、それも改善され、しっかりと体重移動ができたことで、最後まで滑らかな投球フォームとなっている。そのため意図通りに投げることができる。
この日の早川は、135キロ~140キロ(最速141キロ)のストレートは、内外角、高め、低めに寸分狂いなく投げ分けることができている。今年、筆者がガンを測った中で、140キロを計測した高校生左腕は、長谷川宙輝(聖徳学園)、寺島成輝、山口 裕次郎(履正社)、大江竜聖(二松学舎大附)の4人だが、マックスのスピードは寺島、大江、山口が上だ。ただ狙い通りに投げるコマンド、四球を出す不安がない、ストライク先行できる能力というのは一番だろう。もともと早川がストレートが良いというのは前から評判だった。春からパワーアップを遂げ、一段階レベルアップしたが、さらにこのストレートを生かすという意味で、スライダー、チェンジアップの精度が格段に上がっていたこと。だからストライク、ボールゾーンの出し入れができるようになり、今年の高校生左腕では全国トップクラスに入る投手に躍り出たといっていいだろう。
この日は4回に1失点したが、エラーがなければ、点はなかった。そして素晴らしかったのは8回表に一死二、三塁のピンチを迎えたところで、無理に勝負をせず、満塁策にして、4番鳥海、5番森川は遊ゴロに打ち取り、最大のピンチを切り抜け、勝負はあった。そして、9回表にも140キロを2球計測。1失点、15奪三振の完投勝利で苦しい初戦をモノにした。最後まで140キロを維持。この日は140キロ以上を10球計測。今まで早川を何度も見てきているが、こんなに140キロを出したのは初めてだ。
再び全国に戻りたいという意思が十分に見えた投手だ。まだ変化球の曲り始めが早いのが課題だが、それさえ気を付ければ、まさに攻略困難左腕となるだろう。
そして早川と同じく、これは初見では打てないと思わせたのは柏南の先発・松野将大(3年)だ。球速は130キロを超えることはない。ただこれほど「急」なフォームもないというほど、松野は踏み出しからフィニッシュまで速いフォーム。普通ならば「1、2、3」や「1、2の3」ではなく、「1、2!」で投げる投手なのだ。そしてトルネード気味でしっかりと腕を振ってくるので、これほどタイミングが取りづらい投手もいない。125キロ前後でもしっかりと勝負ができるのだ。そしてスライダー、カーブのキレも良く、特にカーブは腕が緩むことなくしっかりと鋭く振れるので、木更津総合の打者が面食らっていた。木更津総合はファーストストライクから積極的に振っていく傾向にある。それを逆手にとって、打ってもフライ、ゴロになるようなコースに投げて、打たせて取ることができていた。3回裏には木戸涼の適時打、4回裏には大澤翔の適時打で2点を失ったとはいえ、試合後の松野の表情は何か晴れやかな表情だった。自分自身のピッチングはできたという充実感に満ちていたのだろう。
木更津総合の各打者はフォームが崩れていたということと、当てることにあまり小さなスイングになっているのが気になった。このままでは好投手相手のストレート、変化球には対応ができない。早川隆久の投球に頼ってしまう状況になるだろう。初球から打つことは大事だが、それは自分の打撃フォームで打てることが大前提になる。春先から思うような打撃ができていない木更津総合だが、それを脱却できるか注目をしていきたい。
(文=河嶋 宗一)
注目記事
・第98回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ