鳴門工vs小松島
豪快に左翼へアーチをかけ笑顔で生還する4番・美間投手(2年)
「規格外」鳴門工業・美間優槻の凄みと課題
「怒り心頭です。今まであんな奴はおらん」。
千葉ロッテの正捕手・里崎智也や阪神のセットアッパー渡辺亮など、これまで数多くのプロ野球選手を輩出し、2002年・第74回センバツ大会準優勝など、鳴門工業を全国屈指の強豪に育て上げた髙橋広監督。この日、その名将を5回コールド勝ちにもかかわらず、半ば呆れさせたのがプロ注目の4番・エース美間優槻(2年)である。
美間の5回表までは素晴らしかった。投げては140キロを超えるストレートに縦のスライダーを交えて、夏準々決勝で苦杯を喫した小松島打線相手に1安打無失点。176センチ77キロの豆タンクのような体を駒のごとく鋭く回転させるフォームから放つ重いボールは、「四国屈指2年生右腕」の呼び声にふさわしいものであった。
加えて美間は打席でも評判通りの活躍を見せる。3回表に三遊間をあっという間に抜く適時打で試合の主導権を握る2点目をあげると、4回には打者13人9得点の一助を担う押し出し死球。さらに続く5回には高校通算第19号ソロを左翼席へ叩き込んだ。
追い風も手伝ったとはいえ、打った瞬間それとわかるスイングと両翼100mのアグリあなんスタジアム中段まで飛ばしきった飛距離は中村剛也(埼玉西武)のホームランそっくり。ここまでの鳴門工業は美間の大活躍も含め、完璧な試合内容だったといえよう。
代打2点二塁打で猛攻の口火を切った馬場上大樹(2年)
ところが、14対0と大きくリードした5回裏。美間はこの回先頭の6番・小路幸佑(2年)に安打を許すと「緊張した瞬間、体が金縛りにあった感じ」(髙橋監督)になってしまう。続く7番に死球を与え、代打・馬場上大樹(2年)にレフトオーバー2塁打を浴び2失点。その後も2安打3四球でさらに2失点。全くストライクが入らず、置きにいったボールを打たせる負のスパイラルに入った彼の投球は、併殺と途中でライトに入った花田渉(2年)のホーム好返球がなければ、5回コールドどころか9回まで試合が進んでしまうような恐れすらはらんでいた。
ただ、よくよく考えれば美間が5回裏の豹変に至ってしまった原因は4回までの投球にもあった。髙橋監督は「今日はリズムもなかった」とテンポに問題があったことを指摘。さらにあるNPB球団スカウトは美間について、彼と同タイプの最速148キロ右腕・龍田祐樹(徳島商業3年)と比較しつつ、課題を明確に指摘したのである。
「美間は龍田の2年生のときによく似ていて、まだ下半身がうまく使えていない。でも、龍田は3年になってか下半身をゆっくり使うようになってよくなったんです。ですからその意味では、彼がよくなる可能性はあると思いますよ」。
言われてみれば確かにその通り。美間は5回裏に痛打を浴びていたシーンにおいては、全てせわしなく下半身を動かしていた。ということは「規格外」の彼が「原則」を覚えたとすれば…。投打にもっと安定した力を発揮できるはず。
この小松島戦では「あんな奴はおらん」をマイナスの意として指揮官に使われてしまった美間。が、この大きな課題さえ克服すれば真の凄みを持った「あんな奴はおらん」になるはずだ。
(文=寺下友徳)