高校時代の森友哉
2010年以降、高校野球界を牽引している大阪桐蔭(大阪)だが、森 友哉捕手(オリックス)以降の選手は、タイトルを獲得した選手はいない。裏を返せば、2012年までの大阪桐蔭は、チームとしては粗削りではあったものの、個々の選手のタレント性が強かったとも言える。
その時代にプレーした中村 剛也内野手(西武)や西岡 剛(元阪神)、平田 良介(元中日)、中田 翔内野手(巨人)、浅村 栄斗内野手(楽天)、藤浪 晋太郎投手(アスレチックス)、森といった卒業生は、プロ野球でもタイトルを獲得し、チームの主力として、活躍した選手を多く輩出した。特に2012年はチームとしても強く、個としても強い理想的なチームだった。
特徴的なのは、名前を挙げた選手たちが、プレッシャーのかかる短期決戦で高いパフォーマンスを残していることだ。特に、これまでの国際大会や日米野球でも、高校野球で結果を残した大阪桐蔭出身の選手は、優れた成績を残している選手が多い。西岡は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では主に2番に座り、世界一に貢献。チームトップの5盗塁を記録するなど、いい意味で思いっきりの良さが出た大会だった。北京五輪では故障を押して出場をしたが、こちらもハイレベルな打撃成績を残した。
中田も2015年のプレミア12では文句なしの活躍を見せ、2017年のWBCでも成績以上に良い場面で打点をたたき出して日本のベスト4進出に貢献した。
浅村も、2019年のプレミア12と東京五輪で、世界一獲得に大きく貢献したのは間違いない。特にプレミア12では、主に5番打者としてチャンスの際には、状況に応じた打撃で大会MVPの鈴木 誠也外野手(カブス)に次ぐ6打点を記録してチームを優勝に導いた。
森は、負担が大きい捕手ながらも、日米野球で高打率を記録した。さらに、森の場合は2年生からU-18入りし2012年、2013年の大会に出場し、2大会連続でベストナインを獲得する活躍を見せた。また、オールスターでも2年連続のMVP(2018年、2019年)を獲得する資質を見ると、大一番に強いと推測している。
国際大会を通して活躍していた選手は多かったが、森以降はプロで活躍している選手はいないに等しい。これは、育成や戦い方に対する起用の方針が変わったからだろう。夏に優勝を果たした2014年の世代は、香月 一也内野手(巨人)・正隨 優弥外野手(楽天)・福田 光輝内野手(日本ハム)がいたが、プロ入り後はレギュラーにまではいたっていない。
また、最強世代と言われた2018年は、二刀流の根尾 昂投手(中日)や藤原 恭大外野手(ロッテ)、柿木 蓮投手(日本ハム)、横川 凱投手(巨人)といった選手を擁し、春2連覇と春夏連覇を達成。しかし、この世代もプロ野球で活躍している選手は巨人のローテーションの一角を担う横川以外、2023年4月時点でいまだ台頭してきていない。これは、チームとしての勝ちを優先するか、選手の将来を優先するかで、チームビルディングや育成方針が変わってくるためであろう。
実際、平田や辻内崇伸(元巨人)、中田などプロ入りした選手が複数人いた2005年の大阪桐蔭は、タレント性はあったが、優勝は逃している。
また、それ以前では中村や岩田稔(元阪神)がいた2001年も結果を残すことができず、西谷監督は「あの時の夏の大会を勝たせてやれなかったのが、今までの中で一番の後悔として残っています。みんな一番練習したくらいの学年で大阪大会の決勝戦では0対5から最終回に追いついて、延長にもつれ込んだ試合でした。それなのに最後は競り負けた。監督として、なんと力がないのか。これだけ子供たちが頑張っているのに、導いてやれない監督の力不足を痛感しました」とコメントを残している。
こうした実力のある選手たちを優勝させることができなかった後悔が、大阪桐蔭の隙のないチームビルディングや戦略の礎になっていることは確かであろう。
そうした積み重ねが、2013年以降の結果や選手育成や戦略の洗練に繋がったのだろうが、その影響なのか、野手も投手も似たような選手が増えてきた。具体的には2021年以降の選手たちの打撃フォームは、足の上げ方や見送り方まで同じようになり、外角に精度の高い球を投げ切れるようなまとまりがある投手が増え、辻内や藤浪のような本格派の投手は減っていった。そのため、高校野球で勝つためのそつのないプレーの選手が増えた。
ただ、現在の若手を見ると横川をはじめ、藤原はケガで離脱をするまでは、開幕からチームを引っ張る活躍を見せた。大阪桐蔭出身若手選手の活躍に期待していきたい。