野球を通じて人間力を向上させることは可能なのか。第53回日本少年野球春季全国大会(3月27日開幕)でベスト4に進出した大分明野ボーイズ・吉川真仁監督は、就任から一貫して人間力を鍛える指導を実践してきた。野球における人間力を「試合での発揮能力」と定義し、どんな場面、どんな舞台でも能力を惜しみなく発揮できることを選手には求めて練習を行っている。そのヒントは、練習のやり方ではなく「在り方」にある。
ルールを定めて部員の価値観を共有する
吉川監督
大分明野ボーイズは20年前に設立され、西武・源田 壮亮内野手(大分商出身)など3人のプロ野球選手を輩出している。全国大会にも駒を進める強豪チームだったが、4年前に吉川監督が就任し、その勢いはさらに増した。
「僕らの時代はやらされる野球でした。正直、今日一日怒られずに過ごそうといった思想が強かったので、『どうやったら上手くなって帰れるか』を考える選手を増やしたいと思ったのが始まりです。みんながそんな思考になれば必然的にチームは強くなるし、僕らはそういう雰囲気を作ることが仕事の大半を占めているのかなと思います」
吉川監督はまず、「明野基準」と呼ばれるチームのルール作りから着手した。道具を並べる、バットを両手で置く、全力発声、全力疾走など、野球を行う上での心構えを共有し、徹底させることで選手たちの気持ちの充実を図った。
「一番の目的は、みんな価値観や意識を合わせることです。『明野ボーイズはここまで求めるんだぞ』という姿勢を示して、練習以外の部分から徹底させていく。普段の心掛けが試合にも繋がっていくのはもちろん、他のチームとは違うんだぞということを認識してもらい、それが大会では最後に背中を押してくれるんです」
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苦しい試合で出る「心の忍耐力」
またチームではBMIの目標を23に設定し、それに向けた食トレも行っているが、体作り以外にも目的がある。
「心を鍛える意味合いもあります。毎日3食チャレンジして、成功したり失敗したり、失敗したら改善を繰り返す。そのためには心がついてこないとできません。日々の食トレも精力的にできる選手は、やはり試合での発揮能力も高いです」
練習の最後には、メンバー全員でのランニングがある。一人ひとりに合わせた設定タイムが設けられており、一人でも切ることができないと全員が練習を終えることができない精神的にハードなメニューだ。
もちろん、これも「心を鍛える」ことが目的だが、求めるのはタイムを切り続けることだけではない。苦しい中でも互いを励まし合い、追い込まれている選手を鼓舞し、チームの士気が下がらないように場を盛り上げ続ける。これが苦しい試合での、心の忍耐力に直結するのだ。
「最近では、僕の方から『盛り上げよう』と声をかけることも無くなりました。気付ける雰囲気を作っていくのが僕らの仕事なので、答えを言ってしまうのではなく、自分たちで気付いて、自分たちで言い合えるような関係を作っていくことが大事です。
練習中も自分たちで結構、発言してると思うんですよ。『もっとこうしよう』『そこは違うんじゃないか』と。上級生に教えられて覚えていき、そして新1年生が入ってきたら今度は自分が教えてあげる。その積み重ねで、チームとして成長していくサイクルを作るのが一番だと思います」
やり方を表面的に追及するのではなく、練習の意味を汲み取り、「在り方」を大切にする思考こそ「人間力向上」の鍵だ。
(記事=栗崎 祐太朗)