ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、センバツなどで、野球界のみならず、日本中で野球熱が上がっていた3月、中学硬式の1つ、ポニーでは全国大会にあたるエス・プランナーカップ、第7回全日本選抜中学硬式野球大会が沖縄県で3日間にわたって開催された。
天候不良の影響で開会式を中止にするなど、一部変更がありながらも「選手たちのために」と協会が総力を挙げて大会の完遂に向けて奮闘した。そのおかげもあり、筑後リバーズの優勝という形で、無事に幕を下ろした。
「鉄壁」の2枚看板を擁した筑後リバーズ、逸材多数だった佐賀ビクトリー
筑後リバーズ・福﨑 謙士、筑後リバーズ・山田幸聖、佐賀ビクトリー・竹下 翔太
決して優勝まで楽な道のりではなかった筑後リバーズ。初戦は関東の新進気鋭・神田Rebaseとは投手戦の末に1対0で辛勝。準々決勝では開催地・沖縄で勢力を拡大している沖縄中央ポニーに2対0と、苦しい試合展開が続いた。
ただ、エース・福﨑 謙士投手(3年)、山田 幸聖投手(3年)ら強力投手陣を中心とした守りの野球で、準決勝・市原ポニーでは5対0、決勝・佐賀ビクトリーは4対0と全試合0封リレーを達成。相手に1度もホームを踏ませることなく優勝と、守りはまさに「鉄壁」だった。
130キロに迫る直球を駆使して最優秀選手に輝いたエース・福崎が、絶対的な存在として、リリーフにいたことで、終盤のしびれる場面も乗り切った。球数制限があるポニーにとって複数投手を揃えるのは当たり前だが、全国大会で勝つという点で考えれば、筑後リバーズ投手陣は目指すべき形といっていいだろう。
対して佐賀ビクトリーは優勝にあと少し手が届かなかった。「前回も準優勝に終わっていたので、余計に悔しい」と古澤監督も試合後に話すと、選手たちも負けた悔しさを滲ませるなど、優勝にかけるチーム全体の思いの強さが伝わってきた。
4試合28得点と活発だった打線で準優勝まで勝ち上がった。初戦で4打点と活躍するなど優秀選手賞を獲得した福地 海誠内野手(3年)やリードオフマンを担った堅守巧打の田中 楓真内野手(2年)など実力ある打者が揃っていた。
二刀流・竹下 翔太投手(3年)はノーヒットで大会を終えたが、投げては130キロを超える速球を投げ込むなどポテンシャルは高い。大会で味わった悔しさを夏にぶつけ、全国のその名を轟かせてほしい。
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ポニーの理念を体現した市原ポニーと躍進を見せた沖縄ダイヤモンドBC
市原ポニー・團 春樹、沖縄ダイヤモンド・上原世那
ベスト4で終えた市原ポニーと沖縄ダイヤモンドBC。両チームから星野 友哉内野手(3年)、上原 世那投手(3年)がそれぞれ殊勲賞に選出されるなど、多くの選手が活躍した。
市原ポニーは注目右腕・團 春樹投手(3年)が130キロ近くの速球を投げ込み、噂通りの能力の高さを見せた。他にも、團とともに投打でチームを支える宮川 颯汰投手(3年)に、成長著しい佐々木 悠晴投手(3年)や、4試合すべてに登板しフル稼働だった三浦 健太郎投手(3年)など、計7人の投手が全国の舞台で登板した。
野手陣もリエントリー制度を積極的に使いながら、数多くの選手を起用するなど、「野球は試合に出て覚えよう」というポニーの指導理念をどこよりも実現していた。多くの出場機会を与えながら、全国でベスト4へ進出したという実績は、結果以上に大きな意味を持っている。
開催地・沖縄で唯一4強まで残った沖縄ダイヤモンドBCは、筑後リバーズ同様に、リリーフに絶対的な柱となる上原を起用。球速は福崎、竹下、團には劣るが、トルネード気味の投球モーションからキレのある球を投げ込んでいた。
その上原ら投手陣をリードした園田 成巨捕手(3年)は175センチ、68キロという大型選手。初戦・江東ライオンズ戦では勝利に貢献する一打を放った。強打の捕手としての将来を期待したい選手だった。
リードオフマンを務めた與那覇 優内野手(3年)や、力強いスイングを見せた山端 己太郎内野手(3年)など、ベスト4に残るだけあり、沖縄ダイヤモンドBCには力のある選手が多く、夏の全国大会で再び見られることを楽しみにしたい。
[page_break:新風を巻き起こした関東の新鋭、ヤングから移籍してきた急成長チーム]
新風を巻き起こした関東の新鋭、ヤングから移籍してきた急成長チーム
秋田ヤングポニーと神田Rebase
全国区の強豪として知られる宜野湾ポニーや、関東の強豪・江東ライオンズに加え、沖縄で力を付け、旧チームからの経験者が残っていた沖縄中央ポニーは、惜しくもベスト4を逃した。
江東ライオンズからは、沖縄ダイヤモンドBC戦でのランニングホームランに加えてマウンドにも上がった関根 悠楽内野手(3年)や、沖縄中央ポニーでは、技巧派右腕・幸地 宏弥投手(3年)とサウスポー・崎濱 光希投手(3年)の2枚看板、敢闘賞を獲得した仲宗根 翔太内野手(3年)など、選手個々の能力は高かった。
また、筑後リバーズに敗れた神田Rebaseも、組み合わせ次第では上位進出が十分できる戦力があった。米国代表を彷彿させるユニホームの印象もあってか、中学生とは思えないがっちりとした体形で、各打者のスイングも強烈だった。
筑後リバーズの入部監督も対戦して「パワフルな相手で気を抜けず脅威でした。決勝だと思って戦いました」と話すように、チームの力は全国でも十分通じていた。今回の敗戦を糧に、一回り大きくなったチームにできるか。
さらに、秋田ヤングポニーはポニーベースボール協会に加入して2年で全国の舞台にたどり着いた。高校野球で活躍する選手を育てるためにチームは運営されており、強打の捕手として光った猪股 直捕手(3年)をはじめ所属する選手のなかには、学校での軟式野球と並行して、秋田ヤングポニーで硬式野球に励む異色の選手もいる。
これから野球人口の減少が深刻になることが考えられる中で、学校の野球部と両立する秋田ヤングポニーのチーム運営は先駆け的存在になるだろう。
優勝を飾った筑後リバーズだけではなく、多くの魅力的なチームが揃っていた。これだけの選手を見ることができたのも、「選手たちのために」と協会が全力で大会運営をしてくれたおかげである。
選手たちも御礼とばかりに、グラウンドでは全力プレーを見せてくれた。次は集大成の夏の大会だ。今大会の課題を持ち帰り、どう生かしていくのか。そして夏の全国への切符をつかむのはどこなのか、将来性豊かなポニーリーガーたちの成長が楽しみだ。
(取材=田中 裕毅)