大谷世代最強捕手・田村龍弘がスローイング理論を特別解禁 盗塁阻止に求められる理想のキャッチングも解説
エンゼルス・大谷 翔平投手(花巻東出身)がワールドベースボールクラシック(WBC)で大活躍したが、大谷をはじめとした94年世代は多くの選手が第一線で活躍している。
カブス・鈴木 誠也外野手(二松学舎大附出身)、アスレチックス・藤浪 晋太郎投手(大阪桐蔭出身)に加え、ロッテ・田村 龍弘捕手(光星学院出身)だ。
高校時代は正捕手として活躍。4度の甲子園出場で、3季連続で甲子園決勝まで勝ち進んだ。全て準優勝で終わったものの、世代を代表する捕手であることは間違いない。
絶賛されるスローイングはキャッチングから始まる

田村龍弘
ロッテに3位指名で入団してからも、正捕手として活躍し続け、侍ジャパンにも招集された実績がある田村が、プロ入り後に成果を挙げているのは守備。特に盗塁阻止率の高さだ。
2015年には4割を超える盗塁阻止率を記録して12球団トップになると、2017年もパ・リーグでトップの成績を記録。度々、田村のスローイングは注目されるが、捕ってからが素早く、加えて二塁ベースへほとんど逸れることなく到達する。
さすがのプロの技術だと見とれてしまうが、本人のなかでは、それよりもキャッチングをポイントに挙げる。
「投げることを意識しすぎると握り替えが難しくなるので、とにかく身体の近くで捕球すること。そのうえで握り替えがあると思っています」
プロになって捕球と握り替えの重要性を明確に理解できた。「ランナーがいない場面と得点圏では、キャッチングは多少変わりますけど、根本は同じ」と身体の近くで捕球している。
低めの球に対して腕を伸ばすことがあっても、身体の近くで捕球することがスローイングにおいてどれだけ重要なのか、その場で身ぶりを交えた本格解説が始まった。
「仮に前で捕球しようとすると、握り替えに時間がかかります。ですので、どの球に対してもできるだけ身体の近く、同じ距離を保てるようにします。というのも、捕球動作と一緒に右足をステップして体をねじって身体を捕球位置に持っていく感覚なんです。この距離が近いと動作は楽ですけど、離れるほど握り替えでジャックルもしやすい。だから近くで捕りたいんです」
「やっぱりロッテは田村だ」と思われる活躍を

田村龍弘
仮に大きく逸れた場合でも、できる限り身体を近づける。球に対して自分が入っていき、捕球位置との距離を縮める。でなければ、「上半身、もしくは下半身のどちらかが先行してしまい、全身のバランスを崩してしまう」とスローイングのタイミングが合わず、アウトが取れない。
逆に言うと、キャッチングとステップがハマれば、次の握り替えの動作も必然的にうまくいくという。
「近くで捕るからこそ、ミットの芯で捕れるので、結果的に握り替えも上手くいきます。だからウェブだったり、握り替えを意識して芯を外すとかはしません」
キャッチングに対して強いこだわりを語る田村。良い意味で期待を裏切られたが、その理由はこのコメントから分かってきた。
「スローイングは数をこなして覚えれば、あとはアウトになればOKですけど、キャッチングは自分が良いと思っても、投手は気持ちいと思わないかもしれない。その逆もあります。正解がないので、色んな人に聞いて作らないといけない分、一番難しいと思います」
だから普段使っているミットに対しても、こだわりが強い。ミズノの號シリーズを使っている田村はS-S型(Small&Shallow型)と呼ばれる、サイズが小さくて、ポケットが浅い設計の基本型を採用している。
「肩が強いわけではないので、捕ってから素早く握り替えをしないといけないと思っています。だからポケットは浅めにしてもらっていますし、使う際はあまり奥まで手を入れないようにすることで、素手感覚で使えるようにしています」
決して使いやすいわけではなく上級者向けではあるため、最初の1軍デビューしたての頃はヤクルト・嶋基宏コーチの型のミットを使って、そこを参考にして改良を重ねたことで現在に至ったという。
チームは現在、若き正捕手候補・松川 虎生捕手(市立和歌山出身)の台頭などで、スタメン争いが激化した。2022年はファームで過ごす時間が長かっただけに「初心に戻ると言いますか、自分を見つめ直す時間だった」と振り返る。
ただ同時に危機感も募らせていた。
「昨シーズンが当たり前だと思ってしまってはいけないと思います。悔しさをぶつけなければプロではないと思いますので、『やっぱりロッテは田村だ』と言ってもらえるように死ぬ気でやります」
とにかく自身の成績を上げて、チームに貢献する姿勢を示した田村は、こんなメッセージを球児に送った。
「大変なポジションだと思いますが、唯一試合を動かすのが捕手なので、そこにやりがいをもってやってもらいたいです」
今回解説してもらったスローイングも、ミット同様に試行錯誤を繰り返したからこそ、絶対的な武器になったことは間違いない。気がつけばプロ11年目とキャリアを積んできた。若手にはまだ負けていられない。絶対的な自信を胸に2023年シーズンは、再びZOZOマリンスタジアムを沸かせてほしい。
(取材:田中 裕毅)