安藤 寿丈(国分中央)
国分中央は2年連続で鹿児島の21世紀枠推薦校に選ばれた。
県高野連の推薦理由は以下の通りである。
① 近年の県大会においては、常に上位進出を果たしている。
② 地域貢献活動などを通して地域と密着し、好影響を与えている。
③ 強豪私学に敗れ、甲子園出場機会に恵まれない。
④ 工夫を凝らした練習を行い、困難条件の克服を図っている。
⑤ 創立115年の歴史と伝統を持ち、園芸工学科、生活文化科、ビジネス情報科、スポーツ健康科の4つの科からなる専門高校として意欲的に活動している。近年、特にスポーツに力を入れており、陸上部、ハンドボール部、バレーボール部、柔道部などが九州大会・全国大会への出場を果たしている。その中で、野球部も着々と力を付けてきている。
21年秋・ベスト4、22年春・準優勝、同夏・ベスト4、同秋ベスト4と4大会連続で4強以上の成績を残している。14年春に鹿児島から初の21世紀枠でセンバツ出場を果たした鹿児島大島は13年の春秋連続でベスト4入りしたことが戦績面での評価だったことを考えれば、国分中央も十分にその要件は満たしていたチームといえるだろう。
残念ながら九州地区の推薦校は秋の宮崎大会準優勝の高鍋となったため、21世紀枠での出場も閉ざされた。国分中央にとっては4強以上の上位の成績を残したこと以上に「あと1歩」で目標に届かなかった「悔しさ」がエネルギーとなり、チームのモチベーションをかきたてる原動力となっている。
「人生かけてやるぞ!」
春の鹿児島大会準決勝の樟南戦、国分中央の一塁側ベンチからそんな声が聞こえてきた。この一戦にこれまで生きてきた16、7年の人生をかけるという意気込みを前面に出していたのは遊撃手・坂元 樹生内野手(3年)だった。
「死ぬ気でやるぞ!」「なぁなぁでやるな!」「最後までやり切れ!」。中盤から終盤にかけて、リードはしていたが、エース安藤 奈々利(3年)の足がつり、いつ崩れてもおかしくない状況の中、そんな言葉でチームを鼓舞し続けていた。一塁ベンチ上のカメラ席で観戦していて、プレー以上に彼らが試合中に発する言葉に魅せられた。
「僕たちは下手くそが35人集まったチーム。そのぐらい本気でやらないと勝てない」。試合後のインタビューで坂元は話していた。試合中だけでなく、普段の練習からそんな言葉を発し続けているという。そう思う原点は21年秋の鹿児島大会準決勝。鹿児島城西を相手に終盤逆転しながら、最後に逆転サヨナラホームランを浴びて決勝に進めなかった悔しさだった。
「気持ちが大事」。誰しも口にする。だが本気で勝ちたい、何かを得たいと思うかどうかの「本気度」は人により様々である。監督に言わされているのではなく、心から自分の言葉として臆することなく発し続けている姿に心揺さぶられるものがあった。
この試合、国分中央は完封勝利をおさめ、初の決勝進出を果たした。これまでなら春決勝進出すれば九州大会に出られていたが、22年春から九州大会は優勝校のみの出場になった。決勝で神村学園に敗れたため、初の九州大会出場は果たせなかった。
谷口 兼信(国分中央)
満を持して臨んだ夏、国分中央は好左腕・安藤を軸に投手陣が安定した上に、打線も4試合で4割2厘と当たっていた。鹿児島大島との準決勝は好勝負が期待されたが、チーム内にコロナ感染が発生し、ベストメンバーが組めず、コールド負けだった。
3年生が抜けて、メンバーが大幅に入れ替わった1、2年生の新チームだったが、姶良伊佐地区大会を制してシード校となり、秋の鹿児島大会も順当に勝ち上がった。
春に続いて2季連続の対戦となった樟南との準々決勝では5回表、2死三塁から相手のエラーで同点に追いつく。打線がつながって一、三塁と好機が続き、4番・高濱 橙生(1年)の右前適時打で勝ち越し。6番・東田 誠矢(1年)も左前適時打で続き、4点目を挙げた。7回には3番・谷口 兼信(2年)が左翼席にソロを放ってダメ押した。
先発した1年生右腕・安藤 寿丈投手は尻上がりに調子を上げて、3回以降は特に飛球を打ち上げさせる投球がさえて追加点を許さず、完投勝利を挙げた。
「中央の野球をやるぞ!」。ベンチにいる選手たちが口々に言い続けた。攻撃では1人1人がそれぞれの役割を果たしてつなぐ。守備では投手を中心に粘り強く守ってリズムを作る。国分中央らしさを随所に発揮し、昨秋、今春に続いて3季連続、今夏に続いて夏秋連続の4強入りを果たした。
「先輩たちも含めてずっと悔しい思いをしてきたから、彼らには上の大会を経験させてあげたい」と床次 隆志監督。九州大会出場をかけて準決勝・神村学園に挑んだが、1対5で敗れ、またしても「上の大会」に進めなかった。
4大会連続4強以上の戦績、2年連続の21世紀枠推薦校に選ばれた喜びよりも、何度も「あと1歩」で壁を越えられなかった悔しさをエネルギーにして、冬を過ごしていることは想像に難くない。23年はそのエネルギーが「結果」となって花開くか、注目している。
(記事:政 純一郎)