東北には仙台六大学野球連盟、北東北大学野球連盟、南東北大学野球連盟と3つの大学野球リーグが存在する。地方リーグながら高頻度で逸材をNPBに送り出しており、過去5年のドラフトでも仙台大卒・馬場 皐輔投手(2017年・阪神1位)、八戸学院大卒・高橋 優貴投手(2018年・巨人1位)、東北福祉大卒・椋木 蓮投手(2021年・オリックス1位)が「大卒ドラ1」でプロ入りするなど、存在感を示している。偉大な先輩たちに続きたい、今秋のドラフト候補を紹介する。
名門・東北福祉大は今年も4人がプロ志望
東北福祉大・杉澤 龍(4年=東北)
仙台六大学野球連盟からは、東北福祉大の4選手がプロ志望届を提出している。東北福祉大はこれまで57人のOBをNPB、MLBに輩出している名門校。昨秋も椋木をはじめ4年生4人がプロを志望し、全員がドラフトで指名を受けた。今年も有力候補が揃っており、注目の存在だ。
杉澤 龍外野手(4年=東北)は上位指名の可能性も秘める好打者。三拍子揃った左打ちの外野手で、大学では3年春からレギュラーの座をつかんだ。4年春は打率5割5分、4本塁打、14打点と絶好調で、仙台六大学史上5人目となる「三冠王」を獲得。その打棒と守備力を評価され、7月には大学日本代表として国際大会を経験した。
今秋は打率.242と苦しんだが、開幕から3試合連続本塁打を放つなどパンチ力をアピール。凡打となった打席も、安打性の当たりを飛ばす場面が多かった印象だ。またこの秋は「2ストライクからの対応力を上げる」ことを意識し、春は1度だった四球での出塁が7度に増加。粘り強さも身につけ、ドラフトに向け総合力を高めてきた。
175センチ、80キロと大柄ではないが、ラストイヤーは春秋計7本塁打をマークした。しかし本人が「ホームランは打率を求める中で勝手に増えてくる」と考えているように、「出塁力」が最大の持ち味だ。NPBに進んだ先輩は数多くいるが、東北福祉大出身の野手でドラフト1位指名を受けた選手はいない。杉澤が新たな歴史を刻むことができるか。
左の長距離砲・甲斐 生海外野手(4年=九州国際大付)にも注目が集まる。大学では3年まで実績を作れずにいたが、4年春は中軸を担い2本塁打を放つなど活躍。ドラフトで指名がなければ野球を辞める覚悟で挑んだ秋は打率.405、3本塁打、14打点と打ちまくり、自身初のベストナインにも選出された。特に、東北大1、2回戦でいずれも右翼席に運んだ3打席連発は圧巻だった。大きな体を生かした長打力はプロでも通用しうるだろう。
投手では坂根 佑真投手(4年=天理)と入山 海斗投手(4年=日高中津)が名を連ねる。坂根は先発も中継ぎもできる技巧派左腕。制球力と多彩な変化球を駆使した投球術が魅力で、3年秋に19回を投げ防御率0.00、4年春に27.2回を投げ防御率0.33と結果を残してきた。今秋は最終登板の仙台大戦こそ2回4失点と苦しんだが、先発で5試合、中継ぎで3試合に登板しタフネスぶりを発揮した。入山は1年秋に1試合投げて以降、リーグ戦での登板がなかった未知数な右腕。練習試合などでは150キロ超の直球を投げるなど、ポテンシャルの高さは申し分ない。
北東北は2人の即戦力投手候補に注目
富士大・金村 尚真(4年=岡山学芸館)
広島・秋山 翔吾外野手(八戸大=現八戸学院大)、西武・山川 穂高内野手(富士大)ら、球界を代表する名選手を輩出してきた北東北大学野球連盟は、5選手が「運命の日」を待つ。
中でも注目は富士大の最速150キロ右腕・金村 尚真投手(4年=岡山学芸館)。大学では1年春からリーグ戦に登板し、4年間で通算25勝を挙げた。4年次は6月の全日本大学野球選手権、1回戦の大阪商業大戦で10回8奪三振無四球2失点完投。試合には敗れたものの、NPB12球団のスカウトが見守る中で好投し評価を上げた。秋のリーグ戦も5試合、41回を投げ4勝1敗、51奪三振、防御率0.44と、最後まで圧巻の数字を残し続けた。即戦力投手を必要とする球団にとっては喉から手が出るほど欲しい、完成度の高い投手だ。
投手では八戸学院大・松山 晋也投手(4年=八戸学院野辺地西)にも指名の期待がかかる。190センチ近い長身から投げ下ろす最速154キロの直球と落ちる変化球が武器。3年まではリーグ戦登板2試合で、4年春も4試合、4.1回の登板にとどまっていたが、最後の秋に大きく飛躍した。開幕2戦目に3番手で登板し6.2回1安打11奪三振無失点の快投を見せると、最終的に7試合、27回を投げ防御率1.00、40奪三振をマーク。ドラフト戦線に急浮上した右腕は上位指名の可能性も十分に秘めている。
北東北ではその他、ともに右の好打者である青森大・名原 典彦外野手(4年=瀬戸内)と富士大・川村 怜史外野手(4年=長崎総科大附)、今秋は2部リーグでプレーした盛岡大の長身右腕・田山 雄大投手(4年=盛岡大付)がプロ志望届を提出している。中でも名原は今秋、主に1番に座り打率.310、5盗塁をマークし優勝に貢献。自身2度目のベストナインも獲得し有終の美を飾った。
南東北にもスター性漂う逸材
東日本国際大・上崎 彰吾(4年=青森山田)
南東北大学野球連盟からは東日本国際大・上崎 彰吾外野手(4年=青森山田)、石巻専修大・庄司 魁投手(4年=山形城北)と、東北生まれ東北育ちの2人がプロ入りを志望している。
上崎は選球眼の良さとパンチ力が売りの左打者。リーグ戦通算1本塁打ながら、今年6月の全日本大学野球選手権では4試合連続本塁打を放ち、大会の本塁打記録を更新した。打率.688で首位打者にも輝き、その名を全国に轟かせた。
最後の秋は、本人が「相手チームの指導者や選手からの目が前とは比べものにならないくらい違う」と感じたように徹底マークを受け、最終戦を迎える前まで打率1割台と打撃不振に陥った。それでも最終戦の石巻専修大戦では、特大の二塁打を含む3安打を放ち復調をアピール。あとは指名を待つのみだ。
庄司は長身から投げ下ろす最速148キロの直球を武器に、奪三振を量産する右腕。3年まではわずか2試合の登板だったが、ラストイヤーに急成長を遂げた。4年春は6試合に登板し、18.2回を投げ防御率1.45、28奪三振。秋はさらに安定感が増し、7試合、18.1回を投げ防御率0.98、23奪三振と申し分ない数字を残した。まだまだ伸び代のある本格派で、将来が楽しみな投手だ。
(記事=川浪 康太郎)